大切な人を拒絶してしまった。
大切な日常を、壊してしまった。
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なぜ? |
いつも通り、意味もない笑顔で、へらへら笑っていればよかったのに。
そうすれば、続いていた。幸せな時間が。それなのに。
心が満たされる感覚に、幸福な時間に、耐えることができなかった。
あの瞬間が、これからも続くことが、幸せな自分が、許せなかった。
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……なぜ? |
なにかがおかしい。あんなにも空っぽだった自分の中身が、何かで満たされている。
この感情はなんだろう?気持ち悪くてたまらない。……気持ち悪い?なにが?
考えても、考えても、考えても……わからない。
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…………なぜ。 |
でも、この……湧き上がってくる感情。自分の幸福を、壊さずにいられなかった感情。
……思い出す。自分に幸福が訪れた瞬間を。
ああ……気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
どうしようもないくらいに、幸せな自分が許せない。
……思い出す。自分の幸福が壊れる瞬間を。
……………………違う。だめだだめだ、だめだ。普通は……普通は、もっと。
……………、…………。
僕は、いま、幸せか?
………いや、多分……幸せじゃない。
すごく…すごくすごく…悲しくて、つらい。
昔からずっと、僕の選ぶ未来は、いつだって悲しくてつらかった。
親に捨てられたときも。
お義父さんに、失敗作と呼ばれたときも。
学校でいじめられたときも。
大切な人を、傷つけたときも。
でも、それがどうしようもなく……………、
安心する。
……………、…………。
………………ああ、なんで……僕は……、
……こんなにも悲しいのに、笑っているんだ?
──────イバラシティの荒井八式くんへ
まずは、僕らに中身ができたことをお祝いしましょう。
わかりますか?
空っぽだった心が、身体が満たされたことで、僕らは意思を得たのです。
拒絶する意思を、破壊する意思を、それから……もうひとつ。
名前のわからない、この感情。
もう、誰からの支配も命令も必要ない。
僕たちは、自分自身で考え、行動できるんです。
きみは、この感情さえも壊してしまいたいかもしれません。
ですが、それは不可能です。
僕らはこの感情を壊せない、手放すことは出来ない。
僕らはもう空っぽにはなれない。空っぽには戻れない。
どんなに足掻いても、自分自身を傷付けても、もう空っぽにはなれないんです。
ですが、僕は君の選択に、勇気に、行動に、心から感謝を捧げます。
なぜなら、きみのおかげで……中身が満たされたおかげで、
ようやく、僕の望みが見つかりました。
きみの望みはなんでしたっけ?……ああ、確か、友だちが欲しいとか。
まさか友だちができたのにすぐさま壊してしまうなんて、
なんとまあ……本当にきみは、興味深い。
僕らは同一でありながら、どこか違いがあるようですね。
きみが与えてくれる変化を、僕はいつも心待ちにしています。
……そういえば、まだ、僕の望みを伝えていませんでしたね。
きみのおかげで見つけられた僕の望み、
これは、新しい荒井八式の誕生を祝した、僕からのささやかな贈り物です。
きみが、自分の幸福を壊したように。
僕も壊さなくてはいけない。
どうして僕が追放されてしまったのか、
きみのおかげで気がつくことができました。
彼には申し訳ないけれど、あなたの支配は、もう必要ない。
僕らの来世を相談する必要は、なさそうです。
そもそも、
「僕が望むのは、荒井八式、お前の、」
「僕自身の、破滅だ」