(※このPCは、基本的にテストプレイ時からの流れをふわっと引き継いでいます)
Jackdaw Jack the Ripper Huckebein
――『虚飾で彩られたカラス』『切り裂き魔のジャック』『歪な趾』......
元居た世界では行く先々、悪行を重ね様々な名で呼ばれた。
しかし本来、一体の異形にすぎない自分に固有の名前などは無かった。
ジャックドゥと自ら名乗るようになったのがいつだったかはもう覚えていないが、通りが良く、何より本質に近い言葉なのが理由だったように思う。
そうした意味では、名もわからぬ切り裂き魔を意味するJack the Ripperも悪くはなかったのだが――カラスを意味するJackdaw、そして名もなき誰かを意味するJack、二つのニュアンスが含まれている今の名の方が収まりが良い。
……ふとそんな事に思いを馳せてしまったのは、高崎千里と出会い言葉を交わしたからか。
高崎千里。
行く先で幾つもの名を使い別人になり続けて、本来の名を忘れてしまった男。
彼に対し、どこか己と似ているものを感じていないと言えば嘘になる。
――同時に、それでいて全く異なる存在だとも。
何より生きてきた世界が違った。アンジニティの咎人に与していながら本来イバラシティの側にいるべきだった存在だ。
自分と異なる存在というのは、怪異も同じだ。
生き延びるためには"九重隆二"にならなければならず、怪異のままではいられない。
つまり、今こうしてハザマで行動を共にしている彼は、この戦いの結末を迎えた後にはそれがどんな結果であれ、もういないのだ。
自分の両手には、何も残らない。
"貴方は何処に居たいですか"
『Cross+Rose』の問いかけに忌々し気に息を吐き出し、小さく首を振る。
何処に居ても満たされないのであれば変わらない。
それならばいっそ、イバラシティなどではなく、元居た世界を望もうか。
車輪と蹄が濡れた路地を通り抜けて水が跳ねる音も、鉄道が響かせる蒸気機関の音も、霧と煙に曇る街灯の薄明かりもきっと変わらず心地良い。
だが──。
手元に視線を落とせば、掌にずしりと収まっているのは黒い鉄の塊――怪異と高崎千里からイバラシティでの知り合いを手にかけたと聞いた後、処分しておくと言って回収したものだ。
けれど、本当は処分するつもりなど無かった。
手の中の銃をくるりと回して弄びながら、今まで伏せていたもう一つの異能を解放する。
ひび割れたガラスに映る姿が一瞬揺らめき、次の瞬間そこに映っているのはこの銃の本来の持ち主──高崎千里の姿だ。
最初の否定──怪物を生み出すきっかけとなった出来事──に由来する異能。
その性質はシンプルで、『他人の身につけていた物を自身が身につけることにより、その姿に擬態する』というものである。真似られるのは姿形のみで、本人の記憶や能力まで写し取れるわけではない。
故に、その場しのぎに相手の視覚を誤魔化す程度で、使い道は限られていたのだが……。
万が一には、自分がこの姿で囮に。
本来ならば怪異が身につけている物も手に入れられればよかったのだが、あまり露骨にしては不審がられる。その上、本体から離れたものは消えてしまう彼の性質を考えれば難しい所ではあった。
まさか自分がこんな目的でこの能力を使おうと思う時が来るとはと、そんな事を思い返す頭の片隅で、いよいよ木染玄鳥に毒されたかと自分の冷ややかな部分が嘲笑する。
自嘲気味に口元を吊り上げてみてから、異能を解いて元の姿に戻った。彼らにこの異能の事を知らせるつもりはない。
いつもと同じ顔で、いつもと変わらぬように、同行者たちが待つ合流地点へと向かわなければ。