──血生臭い。
でも私にとっては慣れ親しんだ匂いだ。
私だけじゃない。
生き物ならみんなその皮の下に血が流れている。
私はただ、それを自在に扱う術を持っているだけだ。
「……あれ、もう終わっちゃった」
地面に転がったままの生き物を踏みつけてゆすってみたが、反応はない。
先程までは随分と元気に泣き喚いていたのだが。
こちらへ来て早々に出会った血のような色をした生き物。
今まで見たことのあるどんな生物にも当てはまらないソレは、
このハザマ特有の生き物らしく。
手始めに準備運動でも、と相手をしてみたものの
こちらでは異能が強化されるのかあまり加減ができなかった。
「先に仕掛けてきたのはそっちなのに…。
困るなあ。これじゃあこっちが悪者みたいじゃないですか」
いつものように血で形成した刃物を使ってみたが、
あまり振るえず終わってしまった。
「こんな生き物でも、痛覚はあるんだ。不思議なものですね」
しばらく屈んで様子を見ていたが、
やっぱりどれだけ待っても動かないので興味が失せてしまった。
立ち上がり、歩き出しながら
さて、これからどうしたものか、と思考する。
「まずは生徒の安否確認かな…来針ちゃんも探さないと」
小さな同居人の顔が頭に浮かぶ。
あの子は強がりだから、きっと一人で平気だと言われてしまいそうだけれど。
私にも大人としての義務がある。一人にしてはおけない。
ああ、そういえば同僚の先生方も無事だろうか。
当面の行動に当たりをつけたところで、背後に気配を感じる。
────振り返り終わる前に、頭部に衝撃を受けた。
もう一度視線を向ければ、先程の生き物が起き上がっていた。
液状の身体で物理的な攻撃手段なんてないと思っていたが、
どうやら手近な石をぶつけてきたらしい。
こめかみ辺りが切れてしまったが、異能で止血すれば問題ない。
「不意打ちだなんて賢いこと、できたんですね。
まあ、結局無駄に終わったわけですけど」
血が固まった傷口を指先でなぞりながら、ゆっくりと近づく。
「この程度で止められるとか思いました?」
問いかけても、呻き声のような音しか返ってこない。
まともに会話ができないのは残念だ。つまらないから。
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シュリ 「…まだ生きてるなら、しっかりトドメを刺さないといけないですね」 |
再び異能で武器を作り出す。
形は何でもいい。斬れて、刺せればそれで充分だ。
目の前の生き物とよく似た色だな、と思った。
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シュリ 「おとなしくしていれば良かったのに。 …お気の毒さま。運が悪かったですね」 |