【眠り薔薇の吸血鬼】
昔むかし あるところに一匹の吸血鬼が産まれました。
吸血鬼の名は ティアナ。
幼く 何も知らなかった少女は ただ行く場所も 目的もなく
ただ 彷徨いつづけました。
人間たちは そんな少女を恐れ 近づくことなく
ただ 遠くから見ているだけでした。
そんな彼女の前に ひとりの青年がやってきました。
青年は 少女に『友達になろう』と ささやいたのです。
初めての友達 少女には ティアナには わからないことだらけでした。
でも 青年との時間は とても とてもとても 楽しく幸せな時間でした。
しかし それは青年の罠だったのです。
青年は 満月の月夜に少女を薔薇が咲き誇る庭園に呼び出すと 少女の胸に銀のナイフを突き立て
苦痛に泣き叫ぶ少女に 封印の術を施したのです。
薔薇の根は 次々と少女を縛り上げ 地中深くへと引きずり込んでいったのです。
――こうして 世界から 恐ろしい吸血鬼は姿を消したのでした。
めでたしめでたし
ティアナ
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ティアナ 「――ああ、世界よ。我々魔族は生まれることすら罪だと言うのですか?」 |
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ティアナ 「ならば、なぜ我々を作り、野に放ったのでしょう。」 |
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ティアナ 「あの青年の武勲のため?」 |
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ティアナ 「そんなことのために、私は作られ、封じられたというのですか!!?」 |
――そっと顔を伏せ、再びあげれば、その目は紅く、より紅く染まる。
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ティアナ 「まあ、今となってはどうでもよいことですが。」 |
もうあの青年は死んだ、私の夢の世界に引きずり込んで殺した。
昔よく遊んでいたように、遊んでくれたように。
楽しい楽しいお人形遊び、あらぬ方向に捻じ曲がる青年の手足。
かつて、泣き叫んでいた私に封印の術を施してた時に見せた笑み、それをそっくりそのまま返して。
――思い返すだけで、血の涙がこぼれ落ちてくる。
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ティアナ 「今は、泣いてる場合ではない……。」 |
何もなかった、わずかにあった温もりすら虚構であった私にも、守るものが出来た。
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ティアナ 「遊香……。」 |
そっと、真紅の薔薇の花園に浮かぶクリスタルに目を向ける。
そこには、学生服に身を包んだ『音琴遊香』の姿がいた。
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ティアナ 「あなたには、楽しい思い出をわけてもらいました。 だから、次は私が、あなたの楽しい思い出を守る番……。」 |
――そうだ、遊香だけじゃない。
遊香には大切な友達がいた。
結城逢、藤美鳴、イノカク部のみんな。
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ティアナ 「全く、寝起きの私に無理難題を押し付ける。」 |
もう少しだけ、この薔薇のベッドで寝ていたい。
そんなことを思うが。
ローズ・ヴァンパイア
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ローズ・ヴァンパイア 「起きなさい、我が主よ。」 |
どうやら、我が相棒たちは二度寝を許してはくれないらしい。
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ティアナ 「わかりましたよ、もう惰眠を貪るのはおしまいです。 まずは、出来うる限り敵のアンジニティを始末しましょう。」 |
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ローズ・ヴァンパイア 「あまり無理はなさるな。 あなたといえど、アンジニティはおそらく手強い相手だ。」 |
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ティアナ 「ええ、私だけでは無理でしょうね……、でも。」 |
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ティアナ 「私にはあなた達がいる、そうですよね?相棒たち。」 |
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ローズ・ヴァンパイア 「――ッ!!」 |
心がざわつく、握った拳は震え、血が滴りおちるのを感じた。
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ローズ・ヴァンパイア 「ああ、ああ……そうだ。あなたには私達がいる!! 我々の力を合わせ、絆の力で……友情の力で勝利を掴み取ろう!!」 |
ヴァンパイアは他のモンスター達への方に振り向き、号令をかける。
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ローズ・ヴァンパイア 「……いくぞ、皆のもの。 我らが主の……いや、"仲間"のために戦うのだ――!!」 |
モンスター達の咆哮が夢の世界でこだまする。
それは決して消えゆくことのない、熱き絆の印であった。