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『君と一緒に居られるのは、楽しいんだよ。
君が笑ってくれていると、僕も楽しい気持ちになるし
君が嬉しそうにしてくれれば、僕も嬉しくなれる』
なら、今のこの心の痛みは何だ?
でも、"そう"だった。
侵略者だった。
敵だった。
嘘だった。
罪人だった。
化け物だった。
一緒に居てはいけないんだと、彼女はそう告げている。
だったら、どうする?
――侵略のことは、正直信じていなかった。
アナウンスがあってから数か月も経つのに、未だイバラシティでは何も起こっていなかったから。
それもそのはずだ。侵略は日常の裏で、イバラシティでの自分が知ることも無く行われていたのだから。
もし侵略が起こったら?誰しもがそんな話題をしていた頃に考えたことがある。
もし侵略が起こっているのなら。例えばスパイもの作品のように、作られた経歴を用意して、どこかの組織の中に入り込んで、そして秘密裏に、機会がくれば破壊工作を始めていくような。
そういうものなんじゃないかって。
まさかこんな場所に飛ばされて、知らないうちに侵略の戦いに参加させられるなんて、思いもしなかったのだけれど。
こちらの世界に来て間もない時に、自分はアンジニティだと伝えてきた――清と名乗っていたあの人は、イバラシティでは変わらず絵を描き続けていた。
……そして、こちらでのノイは、全部思い出したと、そう言っていた。
……自分が、イバラシティの人々がそうであるように、アンジニティの者達もイバラシティにいる間はハザマでの……あちらにとっては本来の記憶が無いのだろう。
そして、ハザマに来た時にそれを思い出しているのだろう。
自分達も知らないうちに、スパイのようなことをさせられているのだろう……
……人を傷つけることを怖がっていたノイが、まさか侵略者なわけがないと、そんなことをするはずがないんだと。
そう思っていた。思いたかった。
――やっと、やっとだ。こちらで経った時間は数時間程度のはずなのに、とても、長かった気がする。
やっと、見つけることが出来たのに。
荒廃した世界からの侵略。アンジニティという世界はどれほど荒れた場所なのだろう。
このハザマのような場所なのか、それよりももっと酷いのか。
アンジニティの者達は、そんな世界から出る為に侵略をしてるのだろうと。
少なくとも、あちら側が勝てば、荒廃した世界からの脱出という望みは叶えられるのだろうと。
そういうものだと思っていた。
『忘れて』とノイは言った。
怪け物だから、一緒には居られないから、居てはいけないから。
『殺して』とノイは言った。
もし本当にそれを望んでるのだとしたら、彼女にとって勝利は希望ではないのか?
そうだとしたら、それほどまでに、彼女は――
それでも会いに行かないと。
それでも会いたかったんだ
君と話さないと。
君のことが心配で
会って、話をしないと。
自分たちの世界を守る為には戦わなければいけない。
自分たちの日常を守る為には戦わなくてはいけない。
……でも、僕にとっての"守りたい日常"は、なんだった?
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