気がつくと鞄に何だかよく分からないものが入る事件は、結局原因が不明のまま今もたまに変なものが混じっている。
でも、お金が減る訳でも無いし、物も減るわけでもないので取り敢えず様子見ということで、あまり気にしない事にした。
そんな訳で、気分転換にと休日を利用して、ヒノデ区の観光に私とアズちゃんとユカラで一緒に行くことになった。
ヒノデ区はそれほど観光施設が有るわけではない。
栄えているのは隣のチナミ区や、ツクナミ区の方だ。
それでも、動物園やカフェなどはあるので、遊べる無くもない。
まずはヒノデ動物園へ行こうと、二人を誘ってバスに乗ってヒノデ山へと向かった。
ヒノデ山の上の方にあるのがヒノデ動物園で、隣には実はヒノデ遊園地もある。
どちらの規模もあまり大きくはないが、半日ぐらいを遊ぶのだったら十分な大きさである。
「先ずは入場券買おうか。一応年間チケットとかもあるんだけど、そんなに頻繁に来ないかもだし普通ので良いよね。三枚買っておくね」
私が入り口で入場券を買ってくると、アズちゃんがにっこりと微笑んだ。
「深雪ちゃん、ありがとー!幾らかかったかな?お金出すよ?」
「あっ、全然大丈夫。これ経費で落ちるから。課外授業の一環ということで」
私はヒラヒラと手を振って、二人を動物園の中へと案内した。
「観覧ルートは上の番号である程度決まってるんだけどね、最初にゾウが見えるところから下に降りると、ふれあいコーナーがあってそこでウサギさんとかモルモットを触れるんだよ行こう!」
「ウサギが出てきた時点で、最初に行く場所の予想はついたよ……ヒノデ区は深雪が詳しいんだし、着いていくけど」
二人よりも先にふれあいコーナーに駆け出した私だったが、そこにいるのは大きなニシキヘビだった。
「あれっ?ウサギは!?あっ、今日はニシキヘビのコーナーしかやってない!?」
落胆して肩を落とす私に、ようやく追い付いたユカラとアズちゃんが近づいてきた。
「わぁ、大きなヘビ。強く巻き付かれたりしないのかな?ちょっと怖いね、ユカラくん」
「ヘビなら何度も捌いてるから、大丈夫だよ。今日は短剣は持ってきてないけど」
「待って、ふれあいコーナーだからね?別に退治するアトラクションじゃないからね。攻撃したらダメだよ!?」
物騒なことを言うユカラにツッコミを入れる私。
「それぐらいは、分かってるよ。動物を見たり触ったりする場所なんだろ。水族館の動物版だろうから、こっちから攻撃したりしないよ」
「そ、そう?分かってるなら良かったけど……せっかくふれあいコーナーなんだし、誰かニシキヘビに巻かれてみれば?面白いと思うよ」
私の提案にユカラとアズちゃんは、口を揃えて言った。
「深雪がやれば」
「深雪ちゃん、やってみて?」
いや、確かに面白いとは言ったけども……私が巻かれるんか。
「ぐ。多数決なら仕方ないよね。あんまりヘビ得意じゃないんだけどなぁ。あっ、飼育員さん。お手柔らかにお願いします……」
飼育員さんは、にこやかに私の体にニシキヘビを巻き付けてくれた。
結構重いんですけど、これ。
ついでに昔ユカラと一緒に旅してた時も、こういう大蛇に絡まれて骨折れかけて死にそうになったトラウマも甦ってきた。
「首飾りみたいで似合うんじゃない?」
「ユカラさ、人がアクセサリー付けてる時はそんな事、一言も言わないよね?」
「深雪ちゃん、すごい……ヘビに巻き付かれて、平気なんだ?」
アズちゃんには、変なところで感心されてしまった。
飼育員さんがニシキヘビを外してくれると、何だか体が軽くなったように錯覚したのだった。
「ウサギさんは居なかったけど、取り敢えず後は順番通りに歩いて回ろうか」
私はまた二人を先導するように動物園の順路を歩いて行った。
園内を知ってるので私が必然的に先に歩くお陰で、アズちゃんとユカラが一緒に歩いてくる形となるのだが、こうやって見てると美形男子と美少女がデートしてる感じに見えて絵になるなぁ……等と思いながら日中のあんまりやる気のない動物たちの檻を見て回った。
動物は鳥とか、猿とか猿とか猿がなんか結構多かった。
あ、一応キリンもいたし、サイもいたし、虎も熊も居たので、それなりに色々な動物を見て回る事が出来たのだった。
目玉商品とも言える爬虫類館には、色々な蛇やトカゲがいてカラフルで楽しかった。
「あっ、あれ。白と黒の色した動物がいるよ。パンダかな?」
アズちゃんが指差す檻には、確かに白と黒の色をした動物が餌を食べていた。
「あーっ、パンダに色は似てるけど、エリマキキツネザルだね。まぁ、かわいいけど」
「深雪ちゃん、色々詳しくてすごいね。何でそんなに知ってるの?」
アズちゃんが不思議そうに聞くので、私は頬をかきながら答えるのだった。
「ヒノデ動物園に来たのは初めてなんだけど、この荊街と似たような所に私が住んでいたから、自然に何となく分かっちゃうみたいな?」
「でも、深雪が元々住んでた所とは違うんだろ?そんなに共通点があるもんなの?」
「共通点ありすぎというか、イバラキを真似て造った街って感じなんだけど……住んでる人は、全然違うんだよね。まるで、街の中の人だけ入れ替わったような気持ち悪さはあるかな」
日頃から私が思ってる、荊街に対する違和感をユカラやアズちゃんに説明した。
「ジェイド王国で言ったら、王様も王妃様も違う人で、サクラさん達の姿も無い見た目だけ同じ国に居るようなもんか。それは確かに気味悪い」
「何だか、パラレルワールドに来ちゃったみたいな感じかな?元の世界とそっくりだと、安心するより逆に怖くなっちゃうね」
二人にも納得して貰ったところで、丁度動物園もまわり終えたので今度は遊園地へ。
遊園地の遊具は子供の頃来た時とほとんど変わらず、大人になってから来てみるとチープ感がすごいのだけど、アズちゃんとユカラにとっては初めての場所なので、私が思ってるよりも楽しく遊んでくれたみたいだった。
個人的にはお化け屋敷が苦手なので、アトラクションの中に無くて密かにホッとした。
ジェットコースターは、それほどコースは激しく無いだが、老朽化のせいかジェットコースターが疾走する中でレールがミシリミシリと軋むので、違う意味でスリルが満点だった。
「なんか、ジェットコースターは二度と乗らなくていいかなって思った」
「わ、私も。怖かったよ……こんなの初めて」
「アズも深雪も怖がりだな。遊園地なら他の所にも行った事はあるけど、ジェットコースターはこれより派手だったよ」
ユカラはこのジェットコースターの真の恐ろしさを分からなかったみたいだが、もう一度乗って検証されるのも辛いので、二人で怖がりだって事にしておいて遊園地を出たのだった。
「ヒノデで遊べる所は全部回ったかな、とりあえず喫茶店にでも行ってお茶する?お茶ぐらいなら、インテグラセンターでも飲めるけど」
「インテグラセンターって、深雪の働いてる所だっけ。仕事なんて本当にしてるの?」
「今の今まで、私が遊びに行ってると思って無かった?仕事してるよー!司書のお仕事で、本の貸し出しとかやってるよ」
私は三階がプラネタリウムになっていたり、二回が図書館だったりすることを二人に説明する。
一階にはお土産屋さんに喫茶店もあるので、ひとまずコーヒーでも飲んで休憩をとることにした。
「大使館から依頼されてるのは分かるけど、深雪がここを仕切ってるって現実味が無いね。インテグラセンターでは、一番偉いって事でしょ?」
歯に布着せないユカラの発言は、清々しいけど何か引っ掛かる。
「現実味が無いって酷くね?現に働いてるんだからちゃんと評価してよそこは。このお茶代だって経費で落ちるんだからね」
「深雪ちゃんって、本当は王立錬金アカデミーの先生だもんね。やっぱり、深雪先生って呼んだ方がいいかな?」
「あ、いや。アズちゃんに先生とか言われると恥ずかしいから、アカデミーで会った時以外は呼ばないで欲しいかな……」
照れている私が面白かったのか、ユカラがクスリと笑った。
「俺も呼んだ方がいい?深雪先生」
「絶対やめて。大体先生って言うのは尊敬してる相手に言う言葉なんだよ。ユカラは私の事を尊敬してんの?」
「うん。尊敬はしてないな」
「即答かよ、泣くぞ」
アズちゃんが驚いて、私達の前で手をパタパタさせて仲裁に入った。
「深雪ちゃんもユカラ君も落ち着こう!せっかく楽しい一日なのに、最後に台無しにしたら勿体ないよ」
「……せやな」
「うん。そうだね。今日は深雪の案内でスムーズに回れて良かったよ。ありがとう」
「えっ、お礼とか別にいいって。みんなで楽しかったんだし、そーゆーのは無しにしよう」
予想外な所でユカラに褒められたので、私はちょっと挙動不審になってしまったのだった。