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ふぅむ。このハザマと言う空間の特異性。何とも妙なものである。
イバラシティでの己の記憶、そしてそれ以前の記憶を保持出来るのか。便利な様で酷な事をする。
何者か、それとも人智を超えたナニかの作為かは分からんが、この余、イルハザークにとっては些細な事。
…しかし。フィーも此処に来ているのだろうか。
まだ会話の可能な個体に出会って居ない故に確信は無いが、妙な感覚がする。フィーも居る、という感覚が。
…無事であれば良いのだが。
まぁ、アレも余の従者。そう易々とはくたばるまい。
それよりも、今気を配るはこの身体よな。
アンジニティにおいては正直殆ど意識が混濁していた故に記憶らしい記憶が無いのだが、
ハザマにおいて1つだけ、自覚出来る強い感情が有る事に気付いた。
…守らなければ。
誰を?何から?記憶も何もかも綯い交ぜの今果たして真に己の感情なのか定かでは無いが、
この強く尊い感情が今の己を作り上げている自信は有った。
今の余の体躯は咎人ではあるが、余は紛れも無く、イルハザークなのだ、と。
色々とこの体もイレギュラーな仕様で有る様だが、面白い。この力、使いこなして見せようとも。
少ししてから、子供の声が聞こえた気がした。
啜り泣く子供の声が、断続的に聞こえる。
よもや幼子までこのような場所に居るのではあるまいな…。この環境下、弱い個体には余りに過酷。
早急に見つけ保護せねば。
…と、周囲を散策して居たのだが、見つけたのは
黄金のポンパドールだった。俗に言うリーゼントだ。
このシルエット…よく覚えている。カガラだ。
いや、あの泣き声はカガラでは無かったのだが。そもそも見た感じあやつ泣いてはいないしな。
では誰が…と、隣に子供が居る事に気付いた。
余りに覇気が無いので一瞬居る事が分からなかったぞ。
無論その子供でも無かった。子供と言えど成長期には差し掛かって居そうだしな。
2人は休憩している様だが何とも…何と言うか…とても頼りなさげであった。
少しつついてやれば今にも破裂するのでは無いかと思う程に。
カガラの方も泣いては居ないが今にも泣き出すのでは無いかと思う程に強ばった顔で笑顔で
懸命に友人とも思われる子供に話し掛けていた。
しかし友人の方は力無く俯いている。
うむ、やばいな。
余であれば臨む所と言えようが、あれらは子供。
望まぬ戦闘でも続けていれば疲弊もするか…。
であれば選択は一つ。
余は改めてカガラと合流する事にした。
カガラは訝しんでは居たが、味方である事、余が庇護する旨を伝えると
背に腹は変えられないとかそんな所なのだろう。承知した。
その友人の晴、は元々大人しい気質の様だ。余り視線が合わない。日本人故なのだろうか。
己の気の在り方を問うにも資質という物が有る。
晴に関しては少し要観察していた方が良さそうだ。
そうこうする内子供の声はいつの間にか消えていたが、そもすればこの出会いは必然的なものであったのかも知れない。
誰を何から守るか。
思い出せはしなかったが、ひとまずはこの子供達をアンジニティから守る事にする。
余はイルハザーク。余が余で在る限り、敗北等有り得はしないのだ。