パーティーメンバーと離れて、雫は一人瓦礫に腰かけていた。
一人でいる時間を確保することは大事だ。特に、考え事をするときは一人でいたい。それが自分自身でもよく分からない、自分の心に関することであればなおさらだ。
唇にそっと手を当てる。みずみずしく、なめらかで柔らかく、指で押せばプルンとした弾力で押し返してくる唇だ。栄養も清潔も、最低限を上回ればそれで構わないと思っている自分にしては、きれいな唇だと思う。
しかし、この前、この唇に触れた千雪さんの唇はもっと美しく、心地よかった。抱き着かれてから、千雪さんの白くきれいな顔がすっと自分の近くに寄ってきて、あれ、と思うころには唇どうしが触れ合っていた。少しだけ触れて、すぐに離れたが、その感触の余韻は少しの間残っていた。
初めてのキスだった。
キスというものは知識として知っていたし、実際に他の人がしているのを見たこともあった。同じ部隊の仲間には、挨拶代わりにやたらとキスをする子もいた。夜、興奮が収まらない仲間たちがお互いを慰め合うために、水音を響かせ舌を絡ませ合うキスをしているところを見てしまったこともあった。
指先で唇にチョンと触れる。自分の初めてのキスを再現するように。同性でのキスは全く嫌ではなかった。
昔見てしまった濃厚なキスとは、比べ物にならないほどあっさりとしたキスだった。挨拶代わりのキスに似ていた。しかし、自分の感じたドキドキは強かった。顔は熱く、心臓は早鐘を打っていて、胸の奥が熱くて、興奮なのか緊張なのかよくわからない感情だった。
もし、もう一度千雪さんとキスをすることになったのなら、自分からキスをするのは怖いと思うが……千雪さんからしてくれるのなら、それは嬉しいし、してほしいと思う。
千雪さんも、キスをした後は赤くなっていた。千雪さんが自分にキスをしてきたのは、どういう意味なのだろうか。あの子と同じように、さようならの挨拶だったのだろうか。それとも、それ以上の意味があったのだろうか。
それに……自分がキスをしてほしいと思うのは、どういう意味なのだろうか。千雪さんとのつながりを感じていたい、そう思ってはいる。ただ、それはどういう意味なのだろうか……
雫には、自分の心がよく分からなかった。