----------------
|
御手洗忍 「おーい! お前ら小難しい話は終わったのか?」 |
かけられる声に視線を向けた。
高い瓦礫の山の上に立ち此方を見降ろす、自らを特攻隊長と名乗る影……
それはイバラシティで君島隼とよく行動を共にしていた『御手洗忍』だった…
Cross+Roseの通信で一度会話をかわしたが…、
あの時は、アンジニティの姿の違いに笑っていたからあのテンションだったのだと思っていた。
だがしかし、こうして対面してみると
明らかに様子がおかしい。
曾我部と同じく姿は変わっていない人間……彼はたしかに、『御手洗忍』のはずだ。
しかしそのテンションは異様なもので、普段のイバラシティでの様子とはまるで違う。
まるで曾我部零夏とテンションを交換したかのよう……
|
ヤト 「……―し…、………。」 |
思わずイバラシティでの呼び名が口をついて出そうになった。
ハグ待ちのレオンに容赦なく突撃していく御手洗忍………特攻隊長の名は伊達ではないという事だろうか…。
曾我部零夏といい、御手洗忍といい、
何故コイツ等がベースになった人格が、イバラシティではテンションが真逆な…あんな人間になってしまったのか…。
…謎が深まるばかりだ。
イバラシティで過ごすうちに、不本意にも変わっていってしまった…というのならば、共感できなくもないが。
|
御手洗忍 「まあ、名前違うのはわかってんだけどさ、コスプレしてる君島にしか見えないから君島なんだよな~~~ あ、ハヤト!ハヤトでいっか!!!ヤト入ってるしな! ハヤトハヤト~~」 |
自身の名を告げてもなお、『君島隼』の名で呼び続ける御手洗忍に苛立ちが募る。
ガキの世話はレオンに任せてしまおうと内心決意した矢先に、猛然とこっちへと向かってくる御手洗忍。
此方は誰とも関わりたくないというのに、木まで上ってくる始末。
このままではレオンの様に『特攻』されてしまいかねない。
子供の手が届かないうちに逃げてしまおう。
そう思って翼を広げた。
|
ヤト 「!!?」 |
飛び立とうとする瞬間半身へ飛びつかれ、空中でバランスを崩した。
|
ヤト 「……――ばっか…!!」 |
御手洗忍もろとも地面へ向かって墜落していく。
とっさに体を抱きかかえて翼を広げ飛び上がろうとするが、
高度に余裕もないこの体勢から人間を抱えて飛び上がる事ができず――…
|
ヤト 「…――っぐ…!」 |
忍を庇うようにして背中から地面へ叩きつけられた痛みで低く呻く。
…これだから人間は嫌いだ。
特に
『人間の子供』は…
自分が脆い…すぐに死ぬ生き物だという自覚もなく、考えなしに行動をする…愚かな下等生物。
|
ヤト 「アホか!!テメェ!死んだらどーすんだ!!」 |
半身を起し自分の上に乗ったままの御手洗忍を怒鳴りつけた。
|
ヤト 「すっ転んだ程度でうっかり死ぬ様なクソ弱種族の癖にイキがってんじゃねーよ!!」 |
礼を言いながら不躾に触れてこようとする御手洗忍を押しのけた。
本気で払えば殺してしまいかねない為、微妙に遠慮した力で…だが。
|
御手洗忍 「―コッチのお前は僕のこと嫌いなのか?」 |
撫でる手を拒否したから…なのか、
どこか悲しげな雰囲気で紡がれる言葉に、無意識にぐっと、言葉を飲み込んだ。
妙に胸がざわつく、 …――気持ち悪い…。
御手洗忍が言う、クリスマスパーティーも温泉も…
此処にいるメンバーと過ごした日々は全て、
『君島隼』との思い出だ。
『自分』と『御手洗忍』は初対面で、何の思い入れもない。
…はずなのに。
|
ヤト 「…………、…俺と『君島隼』を混同するな…」 |
視線を逸らしたまま、言葉を紡ぐ。
|
ヤト 「……でも別に、『俺』がお前を嫌いなワケじゃない。」 |
…これも恐らく、本心。
嫌いじゃないと告げた途端、一瞬で元のおかしなハイテンションに戻った。
ゲンキンな子供だ。
羽を広げてふわりと浮かび上がる。
人間の手の届かない高さまで。
君島隼とは違い、慣れ合うのは…苦手だ。
すっかり機嫌がなおった御手洗忍は、
自身が元々イバラシティの住人にもかかわらず、アンジニティに加担していることを告げる。
メリットもないのに此方へ加担する意味などあるのか……まったく理解できなかった。
|
御手洗忍 「――それに僕たち約束しただろ?」 |
確かに約束した。
…自分ではなく、『君島隼』が…だが。
仮初の人物と遊びで交わしただけのただの口約束を
どいつもこいつもどうしてこんなに信じているのだろう。
――人間はバカばっかりだ。
|
ヤト 「……―そーな…」 |
誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。
疲労感にため息をつく。
これからこの二人の人間を相手にしていかないといけないと思うと手を組んだことを軽く後悔した…。
早々に手を切ってしまいたいが、レオンと二人だけで戦うのは効率的に悪い。
他の誰かと組む事も考えたが、…この二人以外と組む事は…かなり難しいだろう。
一時的とはいえ、手を組む相手は此方を信用している駒でないと意味がない。
そういう意味ではこの二人はイバラシティで『君島隼』との繋がりが深い分…他の人間よりはマシだ…。
あの日の口約束でさえ、律儀に守ろうとしてくるぐらいだ。
『君島隼』を簡単に裏切る事はしないと考えていいだろう。
…故に、多少の面倒や不自由は…我慢するより…ほかないのだ。
――せめて、ひと時の間でも安息を得ようと、
レオンに子供の相手を任せて、忍が上ってこられない高い枝の上で精神を休めるのだった…。
----------------