第二話 予知の姫とサーディラン・グッドスピード
「本当に、いいんだな?」
俺の声が密かに目の前の綺麗な着物を着た女性に届く。
……懐かしいな、あの時の夢か。
「ええ、構いません。サーディラン・グッドスピード、忍びの里の一人の忍者……私は、貴方に殺される運命にありました」
目の前にいる女は「予知の姫」と呼ばれる女性だ。
実際彼女のいる国は、彼女を女王として国を興し、そして、あらゆる国に攻め入っていた。
俺の住む里がある国も襲撃対象であり、里にはこの依頼がいくつも何重にも舞い込んできたが、これまでで述べ29人の当時の同胞、里の仲間が帰らぬ人となった。
中には俺に忍びとしての戦い方を教えてくれた先輩や上司もいた。
俺はどちらかと言うと、あまりにも有力な里の人間が帰らぬ人となりすぎたため、「仕方なく選ばれた」と言ってもいいであろう忍びだ。
要は、「もう当たればいい」と自棄になった鉄砲玉の一つに過ぎないわけだ。
「分かんねえな……俺よりも腕のいいやつ、賢いやつ、強いやつ……さんざんあんたの所に送られてきたはずだ。そしてそれをあんたの『予知能力』で全て死んでいった。
だが、俺の時は見張り兵すらいなかった、罠なんか当然ない。
こんなの、ナイフの使い方を覚えた齢二桁になったばかりの人間でも、殺すのは容易いだろう。
なぜ、俺の時だけ『こう』なんだ?」
予知の姫から帰ってきた答えは、まあ、大したものではなかった。
「ここで、貴方に殺されると予知にあったからですよ」
そうとしか言わねえよな……と思いつつ、手元の刃物を首にあてようとした時。
「その前に、私は貴方に三つ、伝えなければならないことがあります」
俺は手を止める。
「命乞い、じゃねえよな流石に。そもそも命乞いをするのであれば最初から予知を潰すために『サーディラン・グッドスピード』を見つけ出し殺すようにするべきだ。
でも、あんたはそれをしなかった。死にたいのは確かなんだろう」
「ええ、私は貴方に三つ、伝えたいことがあって、ここまでしてきました。
他の国を滅ぼし、貴方の国に致命的な制裁を与え、全ては、貴方にこれらを伝えるために」
俺如きのために?ただ里で生きてただ忍びとして生きて、そして忍びの任務で死ぬか、寿命で死ぬしかないであろう平凡な忍びとして生きるであろう俺に?
そんな心の声を見透かすように、彼女は続けた。
「貴方は自分の人生において、恐ろしいほどの奔流にのまれることになります。
まず一つ。貴方は今回の任務成功によってかなりの腕前だと見込まれますが、それでもとある男の暗殺に失敗します。さらに言えば、失敗後の退却の後、とある男の部下にあたる少年にまで負けてしまいます」
俺の眉間にしわがよったのを見たのだろうか、少し慌てて続ける。
「いえ、貴方がヘマをしたとかそういうのではありません。貴方の世界ではいずれ……いえ、実際には既に私がそうなのですが、P-BLOODと言う血液感染症による異能が発現していきます。
これについては、そういうものがあるとだけ思ってくれていればいいです」
「なるほどね……あんたもそうだと」
「そして二つ目。一つ目で話した任務で失敗した貴方は、その任務で殺す対象だった彼らによって救われます。
貴方はそこで新たな仲間と、かけがえのない友人を手に入れます」
里の掟を覆すほどの者と出会うというわけか。
しかし、その程度の予知だけで国を滅ぼすものなのか?
「ここまでは、貴方に私の予知を信じてほしいからこそ伝えた内容です。
最も重要な予知は最後の三つ目です」
本題はここなのだろうな。そう思いつつ、聞くことにする。
「貴方が二つ目の予知で入ることになった組織。そこで貴方の仲間が世界花を咲かせます。
その世界花が私そのものであり、そして……
『私が咲き続ける限り この世界は他の世界に侵食され……この世界が、この世界でなくなります』」
なるほど、あくまでも俺と言う存在のためだけに国を滅ぼし続けるには大きすぎる予言だ。
もちろん、それが当たればの話だが。
……当たればの話だが。
「一応、覚えてはおく。
とりあえず、どれか一つでも間違っちまえば、一番最後のは起こらねえ、そうだろう?」
彼女は首を横に振る。
「いいえ、むしろ変えられるのは一番最後の予知だけです。
そこだけ、枝分かれした未来になっていて、その鍵を握るのは貴方を含めて5人の仲間です。
……伝えたいことは伝えました。それでは、貴方は貴方のなすべきことを」
俺は、そのまま刃物を彼女の首に当て。
引いた。
この夢からの後日談になるが、俺はこの件がきっかけとなり、P-BLOODの発現が起こった。
さて、夢の通りであると、俺たちのいた世界をなんとかするために戦う理由があるのは、「ラルクベルテ・ハンドレッド」「ミリー・ブロッサム」「グランバスタ・ダブルシザース」「レシチア・マリンシンガー」、そしてこの俺「サーディラン・グッドスピード」となるわけだ。
なんだかんだいって、主にミリーの働きにより同行者が増えたものの。
……俺たちは、アンジニティの勢いを削ぐことが出来るのか?