荒廃したハザマの世界に、異形の影が佇んでいる。
ヒトの背丈を大きく超えたその影には、およそ生身の生物とは思えない金属質の脚が一本、四本の腕が生えた胴体の胸から上は骨が剥き出しになり、頭部には牛と思しき頭骨が乗っている。
悪趣味に屍を繋ぎ合わせたようなその美術品が不意に顔を上げ、両手を動かし始める。本来の姿の動かし方を確認するように、時に軋むような耳障りな音を立てながら。
――懐かしい。
そんな感覚を覚えた。
この身体になる前に自分がどんな存在だったのかという記憶はない。少なくともアンジニティという世界に送られたのだ、それに見合うだけの罪や咎を背負っていたのだろう。
もしかしたらあの街での仮初の姿である生身の肉体を持っていたのかもしれない。それを魂のどこかで覚えていたのかもしれない。
しかしそんな事はどうでもいい。自分がどのような経緯を経てこの姿に成り果てたのかなどと。全てどうでもいい。
この姿こそが、この身体こそが、この精神こそが、正しいものだ。
近づく者を嬲り、潰し、切り裂き、破壊する。それだけがこのタウラシアスの歓びであり、唯一の残された機能なのだ。
あの街で過ごした記憶が流れ込んでくる。
随分と情けない姿になったものだと、自らの変異体でありながら笑えてくる。
だが侵略の為に違和感なく溶け込むにはあれが最適なのだろう。戦うなど考えた事もない臆病で矮小で惰弱なあの男が。
あのような形に歪められ、抑えつけられた怪物としての凶暴性があのような形で発露した事は予想外だったが、それでもあの街に適応しようというつもりはあるようだ。それならば問題はない。
もはや侵略は始まった。このハザマという戦場に降り立つ事が出来た。それならばあの街での出来事もあの変異体の行く末もどうでもいい。
侵略自体にはさして興味もないが、ここならばアンジニティよりも壊しがいのあるものがたくさんありそうだ。あの街が手に入れば更にいい。それを考えるだけで胸が躍り、魂が高揚する。
|
タウラシアス 「さぁて……まずは向こうの連中に挨拶くらいはしねぇとな。フフ、楽しい楽しい答え合わせと行こうか」 |