戦の最中も今も街のメインストリートは一揆などなかったかのように変らぬ人々の賑わいがあった。
いや、むしろ今のほうが賑わいがある。そういった意味では穏やかな変化が訪れているのかもしれない。
だが、それも長くは続かないのかも知れない。
一揆に集まったのはこの世界や街の住人ばかりではなかったからだ、彼らにもそれぞれの本来生きるべき世界がある。少しずつそこへと去っていくのだろう。

今は全てのものに感傷めいた感情を抱いてしまう。
らしくもない自分に対して自嘲の笑みを浮かべながら、この世界での家へと足を運ぶ。

雑踏の中に見慣れた人影を見つけた。
出会ったころよりも一回り大きな彼の背中に声をかけた。

以前にあったときよりも、その狼のような青年は幾分かたくましく見えた。
いざ再会してみると、呼び止めておきながら、急にどんな声をかけていいのかと黙り込んでしまった。
一揆が終わった後、龍はメルンテーゼを見て回るささやかな旅から帰ってきたところだった。
龍はこの世界にも、そう長く滞在する予定はない。
だが、それをあえて伝えることも無粋に感じられた。

小さな瓢箪を差し出した。

それはいくらか残った、醸造者が失われた酒だった。それを手渡すと、

とだけ言って、最後に一陣の風だけを残して去っていった。