それを感受し智覚する事が全てなのだろうか。或いはそれが、一つの到達点なのか？





　　　　　　　　　　　《てか、正体って言われてもなぁ。そもそも『正体』って何？》

　　　　　　　　　　　《実は『ドラゴンでした』とか、『スズメでした』とか？》





　　　　　　　　　　　幾重にも肉と骨に守られ、
　　　　　　　　　　　薄皮一枚の内に熔熱のように脈打つ心臓を他者に曝したとき、
　　　　　　　　　　　果たして人は誰も傷つけず、また受ける痛みに耐えられるのだろうか。
　　　　　　　　　　　私の火が誰かと――大抵はレシェフ兄さんとだったけど――傷つけあう時、
　　　　　　　　　　　苛烈さを増すほどに互いの正体が露わになっていったものだったけれど。





　　　　　　　　　　　《楽しそうだった？俺が？　っハハハっ！ははっ》





　　　　　　　　　　　真正面から尋ねても、分かるものではないのだろう。
　　　　　　　　　　　文明が多くの言葉や思考を得ても、生きる者らに情と五感の血が通い続けているのは、
　　　　　　　　　　　正体への手触りを失わない為でもあったのかもしれない。

　　　　　　　　　　　光の下に暴かれることはない。闇の下に全て隠されてもいない。
　　　　　　　　　　　手燭一つしか灯らぬ部屋、その薄闇に浮かぶような輪郭から嗅ぎ取るしかなかった。
　　　　　　　　　　　雇い、護られながら、彼の背にまなざしを向ける。






　　　　　　　　　　　彼は闘争に生きていた。目の前の敵とではなく。

　　　　　　　　　　　だから、きっと、笑っている。
　　　　　　　　　　　本当は私などよりもずっと脆くて、臆病なのかもしれなかった。






　　　　　　　　　　　そして私が人の姿を解いたところで……
　　　　　　　　　　　それは結局、自らの正体とは言えないのだろう。
　　　　　　　　　　　精々が欠片程度のものだ。（けれど、そこから辿れる道もあるのかもしれない。）





　　　　　　　　　　　《先ほどお前が見たものも、今のお前が見ているものも、我が姿であることに変わりは無い》





　　　　　　　　　　　私にとって――
　　　　　　　　　　　正体は求めるものではなく、決めるものでもなく、しかし目を背けるものでもない。

　　　　　　　　　　　それが彼らと出会って、知ったこと。
　　　　　　　　　　　そして正体を知るのは、知ることの終わりでは無いということも。

今は近くには居ない。別隊として挟撃のような形で攻め込んでいる。

水がうすい金属板を弾くような、奇妙な音ばかりで、人の言葉ではなかった。
けほん、と咳がひとつ続いた。



いくばくか間が空いて、今度は人の声が零れた。

面白そうにクツクツと笑いながらそう答える。

心の底から不思議そうに、軽く首をかしげながらそう問う。

いつかユキナにもそうしたように、ヴァルを一度強く抱き締めて、離れる。