いかような衣服にも着る者がいる。

　私も多少の化粧はしている。
　それこそ、ほんの色づく程度のものだし、
　あまり濃く施してしまえば戦っている最中に落ちてしまう。

　私自身のことはひとまず抜きにして。
　姉さまはそうした方が美人だよ、とよく褒めてくれたものから。
　嬉しくて、今でも何となく続けている。

　ただ女性と括らずとも、特別なことをせずとも、綺麗な人は綺麗だ。
　外面だけでなく、眼差しやしぐさ、戦い方、そのこころ――
　そのひとの挙動に見惚れてしまうことは度々ある。

　私なんかが、と思うことは昔からよくあった。
　そう卑屈になるものではなく、
　もっと自分を持てば、自然と欲する所は寄ってくるのだ。

　褒められたぶんだけ、恥じぬ自分を。
　そういう心持ちで良いのだろう。
　『もうちょっと、自惚れてもいいですよね、神様』。

嬉しさを表情に滲ませ、慌てて取り繕うナスルを見て笑う。
誉められなれていない、と言うのは本当のようだ。

じぃ、と瞳の奥を見つめられ わずかにたじろぐ。
感情を透かし通す様な、神秘的な火色の瞳。
まるで無垢な獣と視線を交わしているようで、少し慣れない。
・・・─。
こちらもそんな心中を取り繕うかの様に、再びナスルの顔に手を伸ばす。

乾いた大地のような頬を、むにむにと引っ張る。
肌が傷つきやしないかと、適度に力を抜いてみる。

不思議な触り心地であった。

手を伸ばし、ナスルの掌を両手で包み、
固く握り締めた。

　外套を翻し、仲間を一瞥したナスルはおおらかに笑った。
　

　やや覚束ない足取りでナスルは進み始めた。
　

　唸り声を漏らしながら、周囲を警戒するナスル。
　覚束なかった足取りも元の調子めいてしっかりしている。
　

　一礼したナスルは、
　長い三つ編みをふるいながらそのまま別方向へ歩を進めていく。
　

　張り詰めた緊張感とかすかな炎の氣を纏い、ナスルは片方の拳を突きつける。