妖精の護り手とかいう、スカした色男に二回、負けた。

　ゴンザブロウと一緒にほうほうの体で逃げ出して、なんとか大草原を後ろにまっしぐら、息も切れてへたり込んだところでグサリと、トムが白い目でこちらを見る。

　頭を下げて謝るしかなかった。



◇　◆　◇

　トムと別行動になって、手を振って別れて一人になって、ようやく僕はうっぷんを叫ぶことができた。
　八つ当たりに、その辺りの木の根元を思いっきり蹴る。
　あ、痛い、これ痛い、自然破壊やめよう絶対。

　代わりに、恨みを込めてもう一度、地団太。
　前回の恨みとばかりに殺意を込めた結果、僕は思いの外強くあの男を攻撃しすぎてしまい、結果、妖精の守護領域はものの見事に僕の攻撃に反応した。
　おかげであの色男は傷一つなし、トムの魔法の分も僕が回復しすぎて結果、二度目の敗北という体たらくだ。

　誰のことを思い出すから、とは言いたくない。

　大抵の場合、着る物はその人の身分が色濃く出る。
　僕は小作農だ。着るものと言えば、与えられるお古の古着と相場は決まっている。だから良い服を着てるやつなんて嫌いだし、ロクでもないやつばっかりだと思う。
　ところがネザーは、僕のこの言葉を「もうちょっと良い服が着たい」みたいなそういう意味合いだと思ったらしい。

　昔、ユニコーン捕獲作戦の時に着（たくなかったのに気が付いたら着てい）た若い女の子向けの礼装を取り出してきて、ネザーが「これは？　これは？」みたいに嬉しそうに見せつけてくる。
　……前から思ってたけど、こいつ、契約レベルが上がってから考えてることが分かりやすくなってきた……気がする。

　ちょっと心配になって聞いてみると、「え、これ？」と言いたげに服を指差した後、スカートの端がくるくるとネザーの身体と同じ様な材質の黒い影になって解けはじめる。
　……あ、なるほど、そういう理屈……。

　あのドロドロで出来てるんだと思うと、ちょっと着る気がだいぶ失せるけど……。
（でも、前に着せられたときはいたって普通の服の感触だった）

　もっともな提案だったと思う。
　ところが、ネザーは首を傾げた後、いくつか試しにあれこれ、服を（相変わらず口の中から）出してはくれたのだけど、そのどれもがどこかで見たことがあるようなものばかりだった。
　トムの着ている服、アリエスの着ている服、レーネの着てるドレス、トートの羽織っているマント、花冠の被っている笠、アイヴォリーさんの着ている鎧に似たガントレット、小っちゃいミニチュアサイズの軽トラ……。

　じゃあ、この女の子の礼装はどこから来たんだ？
　レーネが着てるやつともちょっと違うし……。

　そこまで考えて、はたと行き当たった。
　アイヴォリーさんのガントレットは、これはネザーは見たことがない鎧のはずだ。
（アイヴォリーさんと話しているのは僕が一人の時だったからだ）

　はあ、と思わずため息をついて、木の根っこに座って空を仰いだ。

　トガノさんの言葉が、ぐるぐると頭の中を回ってる。
　ネザーがひょっこり、僕の顔を上から覗き込んでくる。

　あいつが捕まったあとの話を、僕はサッパリ、聞いたことがない。
　別に気になる訳じゃないって前は思ってた。あんな場所、別にどうなってもいいって。
　僕があいつに引き取られてから、あの村はどうなったんだろう。あの男がいなくなってから、あの館はどうなってしまったんだろう。
　今、あの沼は、

　僕の顔を覗き込んでいるネザーが、大きな口をばっくりと開けて、あ、はい、これ、いつものパターンですね。

　ネザーの赤い口の中にこんにちは、だ。



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※メッセージをやり取りしている

ENo.50 レーネフィア・ディ・ステラさん
ENo.206 アリエス＝マークフェルドさん
ENo.344 アイヴォリー＝ウィンドさん
ENo.986・花冠さん
ENo.1023・トート=ロードストーンさん
ENo.1500・ハルシオンさん（のサブキャラのトガノさん）

とのメッセから一部、内容をお借りさせて頂きました。
あといつも通り、PTMのENO.1741・トムがいます。

（こちょこちょされて、身を捩ってにげようとしながらも笑いが止まらず力が入らない。
そのままノエルのなすままにこちょこちょされ、涙を浮かべて笑い続ける）

ノエルの話を聞いて、なるほど、と頷く。頷きはするが。

諦めは悪いようだった。
…というよりも、自信が無くなって来たので自分に言い聞かせているような気もする。

少し考え込んで。

退治できるものならしてみろと、堂々と少女は語る。
それは過剰な自信でもなく、おぼろげな夢や理想などでもなく、何が起こってもそれだけは変えないという、確固たる意志だった。

信じられていなかっただけかもしれない。

呼ばれた理由について、知っている事を伝える気はないと言われれば、むーん、と唸りながら黙り込む。

唸りながら、何かの誘惑と戦っていた。

※突然ですがPL事情により、しばらくメッセージをお休みいたします。
7月には再開できると思いますが、よろしくお願いします。
。