突如、女性……？いや、坊主だし、声や体格は男性のそれだ。
インターネットカラオケニャン界隈でもたまーにみかける、男の娘……？いや違う。
まあ所謂『女装』をした男性……であろう、不思議な人物に声をかけられ、
ブルーノの契約エンブリオ、フォッセグリムの星瀬グリムはたじろぐ。

黙って、目の前の、唇に紅を引いた男から発せられる言葉を聞くが、なんか頭が追い付かない。
星瀬グリムは人間の言語を理解できるエンブリオである。
しかしながら、度重なる戦いにおいて、粗暴な契約者に酷使され続けている星瀬は身も心も大変疲弊し、
常に頭がぼんやりとした状態になっていた。
その上この男性のこの格好である。星瀬の頭は混乱に満ち満ちていた。
暫しの沈黙の中、ようやく頭の中が整理できたのか、死んだ魚のような目で、
どこを見るでもないような様子で、口を開く。

星瀬グリムは蚊の鳴くような声でぼそぼそと貴方に返答をすると、
ちらり、と、自分の横で、貴方に背を向けるようにしゃがんで、ナイトキャップを被った渋い声のワニとあれこれ会話をしている金髪の男に視線を向ける。
そして。

と、またもか細い声で、話しかけると。

ブルーノと呼ばれた金髪の男は星瀬グリムの言葉に反応して振り向くと、ういしょ、と言いながら、ゆっくりと立ち上がる。
大きい。ざっと2メートルはあるだろうか。
顔半分、体の所々に生えた鱗がぬるりと光り、口元には銀色のピアス。そして、鋭い牙。
手足には太く鋭い鉤爪が生えている。どうやら人間ではないようであるが……

と、その凶相に似合わずへらっと笑うと、
貴方に向き直り、目線を合わせるように少し屈む。

一度、握手を求めようと手を差し出す動作をするものの。

などとぼそりと呟き、その大きな手を引っ込めるのだった。