「よろしければ、一輪、どうぞ」
「え、あ……はい、ありがとうございます」


花冠さんたちと別れ、買出しに立ち寄った街中。
細々とした必要な品を買ったところで、花を一輪貰った。目の覚めるような、綺麗なオレンジ色。
店主の見送りの声を聞きながら、外へ出る。

今日はまだ暖かいとはいえ、故郷の気候に慣れた体には寒い。
少し前に買い求めたコートの襟を立てて、吐く息も白く、歩き出した。

待ち合わせ場所の広場へ向かいながら、さっき貰った花を眺める。
故郷でも見慣れた花だった。育てていたのか、買ったのかは分からないけれど、切り口の瑞々しさからいって、水差しにでも挿しておけば、まだニ、三日は眺めて楽しめると思う。
花の街と呼ばれたあの街で暮らしていたから、分からなかったけれど、他の街では、男が花を眺めたり、持っていたりするのは、珍しいことらしい。
誰かへのプレゼントとか、お祝いとか、そういうことには使っても、日常的に眺めたり、飾ったりということは、ないようだった。
花について尋ねた時、店主が少し物珍しそうにしていたのを思い出す。
で。


「……どうしようか」


もらったはいいけど、旅暮らしをしている身としては、少々困った。
家なら、机の花瓶にでも挿して、飾っておける。でも、今はそういった拠点は持っていない。
捨てるのは忍びないし、押し花にするには、まだ新鮮すぎる。
それでは、どうしようか。

暫く考えて。

ふと、思い浮かんだのは――コトカさんの、金色の髪。
いつもはフードに隠れて見えないそれは、とても綺麗で。
この花を飾ったら、どうだろう。

きっと、良く似合う。そう思って――は、っとする。


「！」


自分は、今、何を。



――コトカさんとは。


戻ってきてから、暫くは気まずかったのだけど（あんなことをしたらそれはそうなるだろうし、今思えばなんて事をしたんだろうとも思う）、時間が経って。
とりあえずはまた、話せるようにはなった、と思う。私が思っているだけかもしれないけど、それは確かめようが無い。

一緒に旅をすると決めて、そう言って。こうやって、共にいる。
まだ何日も経っていないし、そんなにすぐに改善なんてしないのは分かっているし。
少しずつ、頑張ってみる、と決めたから、焦る必要もないけど。

でも。

なんでそう、発想が突飛になるんだろう。絶対良くない。
それはコトカさんを驚かせるだけだし、また微妙な空気になるだけだ。
似合いそうだ、なんて、そんなこと。

首を振る。
寒い中でも、咲き誇るオレンジ色の花を荷物の隙間に挿して、一息ついた。


とりあえず。


コトカさんの所へ着く前に、どうか顔の熱さが普通に戻りますように。彼女に悟られませんように。
それだけを祈って、少し、歩みを緩めた。

　イヌワシは、主にフィンやフローラを見ている。

と微笑んで

言うかいうまいか、少し悩んだ様子の後

やっぱり覚悟、足りてないよ。そううつむいて

と明るく言いました

見るもの殆どが新鮮で、だから、好奇心が尽きない。
迷い込んだ異世界を、これだけ楽しめるのだから、楽観的だとは思うが。
彼の言を、一つ一つ拾いながら、へにゃ、と笑って。

彼と自分とを一緒にするべきではないし、何より、自慢げに言うことではない。

ちらり、とフィンの方を見やる。

フレイルを構えると、じっと相手を見据えた。

　イヌワシは、一つ、大きく羽ばたいた。