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（お久しぶりの、敗走です。めそめそ。）

柊魔異は苦虫を噛み潰したような表情で目の前に広がる敵軍を睨み付けていた。
ルドとクローシェも、呪術師とゲオルグも、森のエンブリオたちに全く邪魔をされることなく目的の地点へ移動出来ていた。
事前に決めておいた合図が何も出ていないということは、つまりそういうことだ。
そして、その二つのルートが手薄であったということは、
自分たちのいる地点に何らかの理由で野良エンブリオが集まってきているということに他ならない。
つまりは、今現在のこの状況。２人しかいないこちらが、都合８体という大所帯に囲まれているというシチュエーションは、
神の気まぐれでも悪魔の悪戯でもなく、起こるべくして起こった事象なのである。

その時だった。
遠くから、僅かに聞こえる排気音。メルンテーゼにはそぐわぬような、機械じみた駆動音。
それは、少しずつこちらへと近づいてきていて――

＞初代グレート君

――ブロロロロロロロロ....!!

エンジン音を響かせながら森林を爆走する影があった。
少し前、大草原をあとにしたニケは無人走行するひとつのバイクと出会っていた。
バイクの勢いに乗せられ、ついでに背に乗せられ一時のドライブを楽しむ…はずだったのだが

ガコン　バキンッ　ブロロロロロ
木の根を乗り越え、枯れ枝を踏み折り、絶叫とともにいろんな音が鳴り響く
ニケを『載せた』バイクは、森林を抜けるために車輪を進めていた。

――森の中とは思えない速度で

ブオン！とひときわアクセルを強めたかと思ったら、不意に宙に飛んでいた。
これまでの加速と少しの傾斜を使った、大ジャンプだ。
野良エンブリオの群れを避けるための回避行動だったのだろう、だが其の先には予想外の光景が広がっていた。

ニケの着地点、そこには多数の野良エンブリオに囲まれた2人の影が
咄嗟に人影を避けるべく、ハンドルを強く握りなおす。
このままでは人影を避けたとしても、野良エンブリオの群れに突っ込んでしまう。
どちらも避けなければいけなかった

ドォーン!!!!　ガリガリガリ!!

ひときわ大きい砲撃音と、森林のわずかな地面を壮大に削る音、そしてそれに伴う砂煙が巻き上がる

　
　重ねて言って、大丈夫だというようにその頭を軽く、叩くように撫でる。
　そう言ってくれると有り難いと、付け加えて。
　

　
　少女が上げた声には、少し笑うような色を混ぜ込みながら。珍しく殆どが姿を現しているその様子は、端から見れば賑やかだが。
　視線に気付いたのか、氷のそれがくるりとこちらを向いた。被り物を揺らして、首を傾ける。
　

　狼狽えたその仕草にはに、と意地悪げに笑ってみせ。
　

　
　練習試合の、あの時の様子からしてそうだろう。だから、今のあの少年に対して何か思う所があるわけでもない。
　――危ういとは、思うが。それは一つに対してだけではなく。だが確証もない懸念を言葉にする意味も感じられずに、沈黙する。

　聞き慣れない言葉に首を傾げるも、続く言葉で理解を得たのか、なるほど、と呟き頷いて。

　おずおずと、訊ねる。

　ごにょごにょ、と語尾を濁す。口元に浮かぶのは、とても微妙な苦笑い。

　丁寧なお辞儀をし返しながら、続く言葉に首を傾げて。

　ぱちりとまばたきを二回。驚いたように、口元には手を当てて。

少年は盛大に転倒した少女に対して声を投げかける。
彼女との面識は無いが、確か彼女の駆っていた奇妙なバイクには見覚えがあった筈だ。
ヘイアン、フィア、それにミモザ。その三人と行動を共にしていた自律機。
それが何故見知らぬ少女を『載せて』こんな状況に突っ込んできたのかは分からないが、
この突然のゲストに面を食らっているのは野良エンブリオたちも同じようだった。
ならば。

　　　　　差し出された手を取り、立ち上がる
　　　　　それと同時に、ずれかけたキャスケットをきっちりとなおすと二人に向き直る

　　　　　そういう彼女自身は、ほとんど無傷の状態に見える
　　　　　着地の衝撃などなかったかのように、落ちている自分の長槌を拾い上げると

　　　　　長槌を構え、問いかけた

土煙が晴れた頃、再び感じる視線。
少年達を囲う彼らは、まだ戦意を失ってはいなかった。

既に面識のあるバイク、長柄の槌を構える少女。
少年の表情は先程よりも明るく。けれどその瞳は、周囲を油断なく見据える。

キャスケット帽の少女を助け起こした少女もまた、風と花の子を傍らに呼び寄せた。

　　　　　

　　　　　そういうと、なぜかさらに森の奥のほうに歩いていった。

自信満々な筈なのに不思議と不安になる背中を見送る中で、少年がはたと顔を上げた。

　　　　　先に進んだと思っていた、ニケが戻ってきた

　　　　　そう聞くと、呆然とした顔で行き先だけを指さす二人を残して
　　　　　　　　また森の奥へとニケは姿を消した――――

　　　　　彼女の歩みは止まらない―――――