あの敗戦から、
水辺の攻略に関しては一旦中断し、
砂地へと向かう。
闘う場所変われば相手も変わる。
組しやすい相手と戦いながら、
装備を整え、
今日も砂地を進んでゆく。
――やはりというかなんというか……
装備を整えると戦いが楽になった気がする。
なんというか、
私は私自身が闘う訳でもなく、
霊達が装備を整える訳でもないのだが、
私の装備を整えることで、
霊との親和性が高まる為、
やはり馬鹿にはならない。
個人的にあまり好ましい事とはいえないが……
そもそも元の世界にいた時と比べれば、
これでも親和性が低いくらいなので、
正直どうでもいい話だし、
この効能についてはその世界でのみ働くのは、
以前に分かっていた為、
疑問に感じるとかはなく、
そういうものだと認識している。
異世界には異世界の常識、理があるという事に他ならない。
――だが、それ以上に面白いのは、
そんな中でも個人差というのは存在する。
無論、
比較対象が私とはまた違う世界から来た人な為。
単純に来た世界によって適用方法が違うといわれると、
それまでかもしれないが――
「うん。
　魅月さんのやり方確実におかしいから、
　普通じゃないから。
　というか、そんなやり方で大丈夫？」
まぁ、聞いたアルネスさんもまたそんな風にいっているので、
これは純然たる個人差というものだろう。
「別に問題ないけど？
　というよりも……
　寧ろ他に何かやりようがあるのかという方が疑問だけど。」
そういって、
ネクターを自分の口の中へと放り込み、
水で流し込む。
「……えっと……美味しいの？
　それ……」
「……カプセル薬飲んでる感じだから、
　水で流しこむもので、
　味を楽しむものじゃないわね。
　――そもそも、いいかしら？」
「うん。何？」
「――正直、契約の仕方とかの方が分からない。
　魂を取り込む方法なら詳しいけど。
　実際それが出来そうなの相手にそれを仕掛けて、
　力の方向性を確定させながら、
　霊達の干渉力を高めているのだけど……
　それ以上でも以下でもないわよ？
　――正直体感的には契約って何？
　みたいな。
　ネクターとか正直いらないんじゃないとか思ってるくらいね。」
「へーそうなんだー。
　なにそれすごい。
　じゃなくって……！
　それネクターの無駄遣いじゃないですか！
　っていうか、
　今までの話なんだったの！？
　なんていうかその話一つで今までの話が台無しだよ！？」
そう。
私とアルネスさんは話をしていた。
なんでも、
私が契約している様子ないけど大丈夫？
と聞いてきたので、
契約しているけど？
と私が答えたのが始まり。
――え、でもネクター捧げてる様子ないんだけど、
あ、ひょっとして私が気づかなかっただけかな？
いや、ほら、
不意に気になってというアルネスさんに対し、
私がネクター？
ネクターは食べてるけど。
というような内容の話をしていた。
そんな話の後のやりとりがこれである。
ならば、
何故私は契約している等といったのかが問題となる訳だが……
「まぁ、この世界では、
　エンブリオと契約しないと、
　闘う力が無いに等しいのでしょう？
　なら契約している事に他ならないのではないかしら？
　干渉力が増え、
　様々な干渉がこちらの世界に出来るという事は、
　新しいエンブリオが増える事に他ならない。
　けど、まぁ正直……
　取り込むくらいしかしてないし、
　ネクターの使い方なんて分からないから、
　定期的に飲み込むくらいしか思いつかなかったのよね。
　私が相手を取り込むのであれば、
　私もネクターを取り込めばいい。
　――シンプルで合理的な話だと思うのだけどどうかしら？」
私が契約と思っていない事でも、
契約として作用する事はある。
ただそれだけの単純な話。
「まあ、確かにそうかもしれないけどさ、
　貴重で大切なものなんだし、
　その扱い方はちょっと……ねぇ？」
「――最初は、
　エンブリオの力使うたびに必要なものだと思ってたんだけど、
　契約の時だけで良かったのね。
　って知ったのはつい最近だけど。
　まぁ、良いんじゃないかしら？
　少なくとも……
　体内にあるネクターの数の分くらいは力得れるんじゃない？」
「……魅月さんって変な所で大雑把だよね……
　そんな適当でいいの？
　本当に……
　なんか物凄く心配なんだけど。」
「まぁ、私も万能じゃないもの。
　勘違いもするし、
　分からない事は分からないわ。
　ただ、それで上手くいくならそれで十分だし、
　そういうミスも含めて確信的にはぐらかしながら話すことで、
　相手から色々引き出して、
　自分の考えとすり合わせて予測する。
　そうすれば大体違えないものよ。
　肝心な時にやれることが出来る。
　……それで十分じゃないかしら？
　そもそも私は楽しければそれでいいのだもの。
　――正直楽しくなればそれ以外はどうでもいいわ。」
基本的にはだけどという言葉を飲み込んで静かに微笑む。
その微笑をみてぐったりした様子になるアルネスさんを期待して。
期待した通り、
私の微笑を見てアルネスさんはがっくりと肩を落とし、
「デスヨネー。
　まぁ、そういうとは思ってた。
　つまりアレ？ハッタリが肝心。
　っていうか魅月さん……
　自信ある事というか、
　確信めいた事ばっかりいってる気がするけど、
　あれすらも適当なの！？」
「外れてたら冗談で済むと思ってるけど？
　まぁ、最も……
　そう言いながらも本当の所はどうだか知らないけどね。」
「しかもはぐらかされた！？
　……うん。
　まぁ、
　大雑把なんていってごめんなさいでいいのかな？
　なんかこれ以上失言したらどんな反撃されるか怖くなってきた。」
「あら、残念ね。
　まぁ、大雑把なのは確かじゃないかしら？
　基本的に投槍な部分が多いのは認めるわよ？
　今は真剣に考える必要もないし、ね。」
「ま、それもそうか……
　……
　そういえば魅月さんは私にも見える霊とかは使役しないの？」
「使役、というのがそもそも間違ってるわね。
　私は別に使役してる訳じゃないわ。
　私はただ力の流れを制御してるだけに過ぎないわ。
　――抑えつけられなくなった時、
　私に害を及ぼす訳だし……
　ま、憑かれてるという方が正確ね。
　何名か見えるくらい力のある人はいるけど……」
「けど……？」
「そういうのは意識が強く残っているから、
　気が向かないと姿を見せてくれないわよ。
　一癖も二癖もあるようなのだし……
　ま、そのうち見れるかもしれないけど、
　期待しない方がいいわ。」
「あー……
　そっか、なんか残念だなぁ。。。
　私も見てみたかったのに。」
「見える力あるなら間違いなく気分悪くなるわよ？」
「それは勘弁。」
私の言葉に笑うアルネスさん。
流石に耐性が無い人が、
私に群がる霊を正視した場合、
発狂しかねない。
慣れてない人が見えるほどではないから安心だが、
想像して欲しい。
ありとあらゆる死に方をした人間が、
数千、数万と一人の女性に群がる様子を。
「ま、エンブリオとの契約、
　ネクターの使い方は本当に人それぞれよね。
　アルネスさんは倒した相手にネクター渡してお願いしてるんだっけ？」
「うん。
　まぁ、そんな感じ。
　誰と契約していいのかよく分からないから、
　きちんと自分と相性いいのと契約できてるか分かんないけどね！
　うん。なんていうか本当に私の方が適当でゴメンナサイ。」
「ま、らしくていいんじゃないかしら？
　ちなみにエモさんはネクターは食べるのやめたみたいね。
　――味ないわよ？っていって、
　口にいれたけど本当に味が無かったっていってたし。」
「その代わり契約したエンブリオ食べてたけどね……
　いや、ネクターは不味いけど、
　エンブリオは美味しいって……
　それでいいの？
　本当に。何か盛大に間違ってる気が……」
「良いんじゃない？
　エモさんらしくて。
　エモさんらしいってのは大切よ。
　ペルチェさんは普通よね。
　普通二人に食べるのが二人。
　バランスは良いわよ。」
「そんなバランスの取り方でいいの……？
　いや、まぁ、良いけど……
　うん。
　なんていうか……
　カルチャーショックってこういう事いうんだろうなぁ。。。」
諦めたかのように首を振るアルネスさんに、
思わず私は手を伸ばし――
「――」
微笑んだまま頭を撫でた。
あまりにも反応が可愛らしかったので、
つい反射的に手が伸びてしまったのは仕方がないと思う。
「何で撫でるの？」
別に悪い気はしていないのか、
頭を撫でる手を振り払わずに、
怪訝な表情で私を見ながら疑問を浮かべるアルネスさん。
そんなアルネスさんに対し私は――
「なんだか無性に可愛くなってつい？
　……可愛いものの頭を撫でるのは自然な行為よ。」
「いや、まぁそれは私も分かるけどさ……
　なんで私にやるの？」
決まっているじゃないと微笑む私に、
憮然とした表情になるアルネスさん。
「――可愛らしい女の子だと思うからだけど。」
そんなアルネスさんに、
どうしてそんなに憮然としているのかと、
微笑ながら素直な気持ちを伝える私に、
アルネスさんは少し顔を赤くして、
「えっと、
　ありがとう？」
それだけをいう。
それに満足した私は撫でるのをやめる。
「……撫で心地いいのよね。
　けど……
　髪の毛もうちょっと手入れしたらどうかしら？」
「あー……
　割と私手入れ雑だからなぁ……
　え。
　そんなに髪の毛痛んでた？」
「痛んでたというか……
　少なくともあまり手入れしてないのは丸わかり？」
「ごふっ……
　うん、キチントシマス。」
「……ま、私がやってもいいから、
　どうしても上手くいかないなら聞きなさい。」
「ハイ。」
全くしょうがないわねと思いながらアルネスさんへと背を向ける。
「じゃ、食材調達よろしくね。
　私はちょっとやる事あるから、
　ご飯を作る前に済ませてくるわ。」
「ハイ、ワカリマシタ。
　ん。
　まぁ、何するか分かんないけど気を付けてね。」
「そうね。
　そちらも気を付けて。」
「ん。ありがと。」
アルネスさんを見る事なく、
私は手を振りながら手をひらりと振る。
さて、と。
それじゃあ――

――私は一人、皆が居ない場所へと移動し、
指を鳴らした。
「この辺りでいいかしら？」
そして、誰に問いかけるでもなく、
私はそう言った。
反応は、無い。
期待もしていない。
何故ならこれはただの一人言なのだから。
暫くじっと待つ。
やっている事は単純。
この辺りについての調査である。
砂地に来てから、
霊が妙にざわめくというか、
霊にとって都合のいい何かを感じとっていた為、
この近くに何があるのか調査させているのである。
皆が居る場所でやってもいいのだが、
調査をする際に妙なモノを呼び寄せてしまってはいけない。
私一人なら問題ないが、
そうでないのであれば、
どれくらいの被害が出るか分からない。
勿論返り討ちにする可能性もあるが、
こういった時にやってくる類はろくでもない何かと相場が決まっている。
故に、
一人誰でもいない場所が都合が良かった。
暫くして、
散らした霊達が戻ってくる。
と言っても、細かい報告をしてくれる訳ではなく、
大雑把な報告だけ。
その報告を纏めると……
この砂地の何処かに牢獄のようなものがあるらしい。
様々な人間が閉じ込められ、
様々な悪しき感情が籠り、
そこで死んだ魂は高確率で強い怨念の籠った霊になる。
常人にとってそこは居心地の悪い場所ではあるが、
それが私や霊にとってはその評価は反転する。
非常に居心地がいいのである。
強い感情がこもる場所は糧となり、
縛り付ける。
無論、そこで縛り付けられている者にとっては、
苦痛だろう。
自分が苦痛でしかない場所へととどめられているのだから。
だが、
私にまとわりつく者達は違う。
そういったものを糧として現世に留まり続けている者達である。
更に言えば――
「ひょっとしたら、
　力の強い人達も力を貸してくれるかもしれないわね。
　媒介となりうる何かが存在しているかもしれないし、
　そういうのが居れば多分、
　実体をもってまとわりつく以上……
　自然とそうなるかもしれない……
　――それはそれで面白いかもしれないし、
　旅も便利になるわね。
　一考の余地があるかもしれないわ。
　……フフ、
　面白い事になって来たわ。
　……行けるようになったら行くように提案しようかしら？
　――用意を整える必要はあるでしょうけど。」
口に出して考えを纏め、
悪くないと一つ頷く。
楽しみが一つ増えたと喜ぶ私は、
自然と軽やかに微笑を浮かべながら皆の元へと戻る。
これからどうなるのかを想像し、
早くその時が来るように楽しくなるように願いながら。
とても、待ち遠しい。

先制で「代わりに聞いてほしいとかは受け付けないから」言われて言葉に詰まる少女。

端末押し付け合ってるらしいドタバタが収まり。

状況違えど、数か月前の岩絃と同じ切り出しで話しかける葛築。
その声は声というより蜘蛛がギチギチ鳴らす音であり、
聞き手が魅月さんだからこそ、霊的に翻訳されて意味が通る言葉であり…