「ったく、どこもかしこも同じだな・・・・・」


けんきゅうとうのようすをみにいったししょーとセバスチャンがようやくかえってきました。
どうやらおしろのほかのばしょとおなじように、なかはエンブリオやそのほかのいきものがうろついているようです。


「んで、これからどうすんだ？」


ししょーが猫のまえにおりたちます。
猫は――すわってうつむいたまま、なにもこたえません。


「危険なのはどこも変わらねェ気がするがな。一旦退いて別のトコから攻めてみるか？それとも――」







『もうやめなのです。』


ししょーがいいおわらないうちに、猫のもつボードにはそんなもじがかかれていました。


「あ？やめる？何をだ？」


『もういっきはあきちゃったのです。だから小生やめることにしたのです。』


それをみたししょーははじめのうち、めをまるくしていましたが、だんだんとけわしいかおになって猫につめよります。


「――おめぇ、本気で言ってんのか？」


『あたりまえなのです。小生、たたかいなんかやめてもっとちがうことをするのです。』


たいする猫はうすらわらいをうかべています。
そして――


『だからみんなともここでおわかれにするのです。
ししょーがおこってばかりだし、セバスチャンはおせっきょうがうるさいし、このごろはうんざりしてたからちょうどいいのです。』


なんだったら、とつづける猫。


『――みんなとけいやくをやめてもいいのです。』


「――ッ！！てめぇ！！」


いまにもとびかかりそうなししょー。
それをかたてでおさえ、セバスチャンがまえへとすすみでます。
ひとみをややほそめつつも、しっかりと猫をみすえています。


「坊ちゃん。それが坊ちゃんの望みですか？」


『しつこいのです。なんどもいわせないでほしいのです。』


「――本当に？」


セバスチャンのしんけんなひとみに猫はすこしばかりけおされつつも、コクリとうなずきます。


「そう、ですか。・・・・・では暫く暇をいただきます。」


「おい！？」


あっさりとひきさがったセバスチャンにあわてるししょー。
ただし、とセバスチャンはつづけます。


「契約はそのままの方が宜しいかと。戦いでなくともエンブリオの力は何かと役に立つでしょうから。・・・・・構いませんね？」


いぬくようなめでうむをいわせないくうきに、猫はただうなずくしかありませんでした。


それをみとどけると、セバスチャンはしずかにさがります。
なっとくいかないのはししょーです。


猫がたちあがってせなかをむけてあるきだすと、いてもたってもいられずおいかけようとします。


「おい、待てって！！」


と――




ししょーのすぐよこをまりょくのやがかけぬけていきました。
しんじられないおもいでししょーは猫をみつめます。





ししょーにむけてまりょくのやをつがえる猫のすがたを。


『つぎははずさないのです。
小生についてきたらししょーでもゆるさないのです。』


そのひとみはいてつくようなつめたいひかりをともしています。
ししょーがショックでうごけずにいると、猫はひとつはなをならしてたちさりました。

















































ししょーとセバスチャンのすがたがちいさくなり、やがてみえなくなって―――
猫はかけだしていました。



ひたすら、
ひたすら、
どこまでも、
どこまでも。



やがてもりをぬけると、そのばでいきをきらせてたちどまります。



『…これで、よかったのです…』


『これでみんなをまきこむことはなくなったのです…』


『これで…これで小生、は…』












――ほんとうにひとりぼっち。











『………いや、なのです…』


みんなといっしょにいられたじかんは、とてもあたたかくて、やさしくて。


『……いやなのです！！』


ぽたり、とじめんにしずくがおちました。
それは猫のりょうめからとめどなく、したたりおちてじめんをぬらしていきます。


『――セバスチャン！！――ししょー！！
小生は、小生、は――！！』






猫のおおきななきごえが、あたりにひびきわたります。
けれども、いまは猫のせなかをささえてくれるものはいません。
それらは、猫じしんのてでふりはらってしまったのだから。







きおくをなくした猫は、ふたたびひとりぼっちになりました。

引きずられていく様を見送りながら。

ニヤリと頷き＆サムズアップ返しするも、盛大にツッコまれて愕然とした表情に。

完全に目が泳いでいてめっちゃ挙動不審。

と、こっそりロクに耳打ちした。

根拠の無い考えだけれど。自分も間違えて呼ばれたから此処にいるのだと付け足して。

薬を受け取りながら、声無くも表情豊な黒猫の姿に、微笑ましげに目を細めて。
ふかふかの手を取れば、傷口に障らないよう、出来るだけ優しく薬を塗りこんで行く。
──それでもばっちり当然、染みてしまうのだろうけれど。

きりりと板に紡がれた言葉に、意外気に目を丸くしたものの、少女は素直に信じたようで。
けれどしょんぼりと反省した様子に、つい小さな子を慰めるように手を頭へと伸ばしてしまう。
拒まれないのなら、そのまま数度撫でるようにして。

近しい存在なら、同じ種族なのだろうかと。そう思ったらしい。
今更ながら少女は黒猫の姿形に興味はあれど、疑問は抱いていないようだった。

てをだそうかどうしようかまよっているようでしたが、

おんなのこをまもるようにまえにたちました。

おおきないかがたおれるのをみとどけると、あんしんしたようにかたのちからをぬきました。

直立するその姿にほんわり癒されたような白いの。
この世界の通貨を渡しながら、ふとじっと相手を見つめ、
ひくりと鼻を動かした。

そんな事を、ぽつりと呟いて。