（※これは、タンポポ荘「パジャマパーティ！」で話し中の、怖い体験談です。）

「左側のエレベーター」（前編）

これは私が中学３年生の時に経験した出来事です。
当時、自宅を改築する事になり、工事が終わるまでの間、同じＴ市内のマンションに移る事になりました。
そこは年季が入ってはいましたが、１０階以上もある大きな「コの字」型のマンションで、私達の部屋は９階の端の方にありました。

そのマンションでしばらく生活するうち、私は奇妙な事に気付きました。
住民用のエレベーターなのですが、ふたつの角にそれぞれ一基ずつあります。
ですが不思議な事に、住人は正面から見て右のエレベーターばかり使うのです。
左側のエレベーターも使われる事はあるのですが、それは稀にしか見かけません。
「左は故障しやすくて敬遠されてるのかな」とも思いましたが、私自身は部屋に近い左のエレベーターをいつも使っていました。
時間が勿体ないし、「いつも空いててラッキー」くらいの考えだったと思います。

そんなある晩、自室で寝ていた私は、レンタルしていたDVDを今日中に返さなければいけない事を思い出しました。
机上の時計を見ると０時をとっくに過ぎていましたが、そのショップは１時までは開いています。
中学生の身に延滞料金はかなり痛く、私は今からDVDを返却しに行く事にしました。

急いで制服を身につけ、家族を起こさないよう静かに靴を履き、ドアを開け、外に出ました。
中庭に面したマンションの廊下は照明も暗く、足音が響くほど静まり返っています。
左のエレベーター前にも人影は無く、私は時間を気にしながら呼び出しボタンを押しました。
幸いにも、上階にあったエレベーターはすぐ降りてきたのですが・・・。
中に入ろうとした私は、ギョッとして後ずさりしそうになりました。

蛍光灯が切れかかったエレベーターの中に、女性と子供がいました。
白っぽい服を着た、やけに背の高い母親と、小さな女の子。
ですが、二人の顔は見えません。
どういう訳か、彼らは入口に背を向け、奥の壁ぎりぎりに立っているのです。
その異様な雰囲気に一瞬、私は乗らずにスルーしようかとも思いました。
しかし、時間が無いという気持ちに押され、結局そのまま入ってしまいました。

（「後編」に続く）