天井の高すぎる廊下とは思っていた。高く支えられた構造はほとんど吹き抜けと呼べるほどで、しかし壁際の高くにはバルコニーらしきものの影さえなかった。城内にドラゴンの棲むがために高く開けた上空の空間かとも思われたが、裂けやすい布製の調度、絨毯もカーテンも重い皮翼が羽ばたくには不向きだった。

実のところ、そうした城内の設備があの大理石の巨人のために設えられたものであるのかは今もわからない。彼はひとつの傲慢を通すにはあまりに奥ゆかしく、あまりに付き人じみて、あまりに惨めだった。機構は魔導人形の一種と思われたが、青い瞳の奥に揺れる感情や、当惑げに差し出す指先や、ためらいがちに少女の立つ場所を用意する一歩の身振りや、そうしたはしばしの仕草はひどく人間的で、それは石の奥に潜む魂を示すとなく示していた。どこかの生物から振り当てられた魂であるのか、それとも生まれつきにそうしたことの起こる種族であるのかは、メルンテーゼの地誌に決して明るくない私にはわからなかったにせよ。

青年というよりも少年に思われた。あるいは自らの身の処し方をひどく早い時期に決めた少女のように。いずれにせよ彼にあったのは年若さと未熟さだった。その精神上の幼年を大理石の肉体の強固は凌駕してある種の暴君の身振りをさえなしたとはいえ。

私が彼に、ダイゴに立ち向かうことができた理由は二つあった。一つは彼らが王政の側についていたこと。もう一つは、彼があまりに強かったこと。
立ち向かうべきものに立ち向かうことはレルヴォヴェールの革命者に強い後押しを与える。後押し、という比喩の通りに、私たちはそれを背を押す風の圧力のように感じる。しかしその風の弱まり、途絶えたとき、私たちの足は踏みしめ方を見失ってよろめきながら倒れるだろう。これまでどの世界においても、王を殺したあとに私を襲ったのは、起き上がることさえできず、食事さえろくにとれないひどい鬱だった。しかし皮肉なことに、私にもう一度立つ力を与えるのは、いつの時も衣裳や台詞を変えて舞台に戻るあの権力、王の死したあとに王の座を再び占めるあの権力だった。
戦うもののある限りは私たちは戦い続ける、そうしてその戦いは永遠に終わらない。聳える大理石の壁の高く厚いほど、抑圧の強いほど私たちを反抗へ急かすあの風は強くなる。地を蹴るとまだ飛べるように思えた。であるなら飛ばない理由はなかった。そして飛び立つのなら崖がよかった。それくらいには風を信じていた。風を、吐き気を誘うほどに生かしがたい私たちの敵が私たちを飛ばすあの風を。