＜始まる前と、引き籠りと＞ikki　-3rd

別に希望のある未来とか、夢のある日々が欲しかったわけじゃない。
ただ、人並みな生活が出来ればそれでよかった。
けれど、人並みな生活をするのにも人並みの努力をすることが必要で。
愚かな僕はそんなこともすらも出来なかったからに、いつしか徐々に徐々に自らの殻に閉じこもっていった。
最初のきっかけは何だろうと考えようにも、候補があまりにも多すぎて思い出せない。
そして、思い出せないということはそれが大事な出来事ではないということで。
そんな取るに足らない出来事で落ちぶれて行った僕は、誰よりも劣った人間なのだろう。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 らくえん
そうして、僕はあの日も自分一人の世界に閉じこもっていた。

「…………」

誰も、何もない空間が心地いいとは思わない。
ただ、誰かがいる、話しかけられるということに比べれば遥かにマシだから、引き籠っているだけだ。
こうやって一生、誰とも関わらずに生きていければいいのだけれど、
現実はそんなに甘くないというか、ごく自然な制約が存在する。
食事を取らねば腹は減るし、お金を稼がなければ食事を買うことが出来ない。そんな、誰にでも存在する生理現象と、それに関するしがらみだ。
僕は他人と関わるのが嫌でも別に死にたいわけじゃあなかったから、その問題をどうにか解決しなければならなかった。

「……ッ、は、は、はい、な……なんでしょう」

……運が良かったのか、悪かったのか。
僕には、作家と言う仕事を斡旋してくれた人や、食料の調達を手伝ってくれる人がいた為に、
こんな非現実的な生活を送ることが出来ていた。
そもそも、僕の為にそんなことをしてくれる人がいるということ事態が非現実的なのだが、そこはそれ。
僕の為ではなく、僕の祖父が培った作家としてのコネだとか、
エ　リ　フ　ァ　ス・レ　ヴ　ィ
魔術師としての祖父を慕っていたオカルト愛好家が、エリファスの名を継いだ僕に価値を見出して、色々な支援をしてくれていた。

今来た女性―――ヴィルジニーさんもその一人だそうで、なんでも祖父と親交があった人の孫らしい。
もっとも、彼女自身はオカルトを嗜んでいるわけではなく、あくまで彼女の祖父の意思でこの場に来ているそうだが。

全て伝聞形になっているのは、僕が彼女から直接聞いたわけではなく、最初に僕の元を訪れた彼女の祖父がそう言っていたからだ。
僕自身その時は早くこの会話が終わらないかとどうでもいいことばかり考えていたから、記憶が正しいかは微妙なところである。
ともあれ、彼女が原稿を編集者へ届けてくれたり、報酬者や食料を持ってきてくれているからこそ、今の僕の生活は成り立っている。
他人の使い走りとはいえ、女に養ってもらっているのは、男として情けないのか―――と言われると、まあ情けないとは思う。
引き籠りの僕でも、いや、引き籠りの僕だからこそ人一倍プライドが高い。
本当はこんな筈じゃなかった、本当の僕はもっと出来たはずだ―――そんなありきたりの言葉が湧いては消えていく。
でも、だったら行動を起こそう……なんて殊勝な考えには決して至らない。
『ここはとても楽だ』『わざわざつらい思いをしたくない』『このままこうしていよう』
その誘惑に、僕のちっぽけで肥大したプライドは決して逆らえない。逆らおうとも思わない。
だから結局、僕は今もこの生活を続けている。

その言葉に、僕は小さな首肯だけで意を示す。
必要がないのに喋ることは苦手だし、どのみち相手の印象は今や最悪となっていることだろう。
ならばコミュニケーションを増やす必要など感じられない。
僕は彼女に視線すら向けることなく、かといって何もしないでいるというのも据わりが悪いので、
適当な本を二冊ほど手に取った。
―――“大いなる神秘の鍵”“高等魔術の教理と祭儀”
祖父が書いた、二冊の魔術書。
「…………くそっ」
いやなものを手に取ってしまった。ようやく原稿が終わったばかりなのに、こんなものは見たくもない。
僕にとって、祖父とは忌避すべきものであり同時に縋るべき存在でもある。
はっきり言って関わりたくないものの第一位でありながら、それの残光に縋らなければ生きていけない現状は、僕を常に苛立たせている。
だったら、そんなものに縋らずに自分の力だけで生きて行けばいいだって？
笑わせないでくれ、前述したとおりそんなつらい道を、僕に歩めるはずがない。
きっと、一生僕はこのコンプレックスを抱えて生きていくことになるのだろう。
一生……本当にそうなのだろうか。こんな歪な生活を、続けていくことが出来るのだろうか。
「…………？」
と、そこまで思考を進めたところで、視線を感じた。

何故か、いつものセリフで別れを継げたはずのヴィルジニーさんが僕の方を見つめていた。
―――あの、どうしたんですか。
「あ、あ、あの……ど、どど、どうしたんですか」
人に面と向かっていなくてもどもってしまう己の性質に歯噛みしながらも、どうにか質問をする。
彼女は答えない。
ただ、無言で……僕をじっと見つめているだけだ。
「………あ、あの！」
煩わしい。見つめられると、自分が卑小な存在であることを思い知らされるから、身体が震えてくる。
……果たして彼女は、そんな僕の醜態を見て、

そんな侮蔑を残して去っていった。

「……は？　な、なんだよそれ……」
僕だけが残った空間で、情けない声が響き渡る。
生きてて楽しいかだって？
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛！　なんだ、なんだあの女！　そんなもの、そんなもの―――！」
―――つまらないに決まっている。
日々は作業のようで、一度も楽しさを覚えたことなんかない。
唯一の娯楽である読書だって、この先の人生を考えると集中できなくなることがしょっちゅうだ。
今はまだ、パトロンのような存在があるからいい。
けれど、僕の作家としてのネタが尽きれば―――外部からの刺激がない僕にとって、唯一の源泉は無数の本と祖父の魔術書だけだ。いつか必ずネタが尽きるときがやってくる―――尽きなかったとしても、彼らの気まぐれ一つで僕の生活は破たんする。
ましてやあのヴィルジニーという女はきっと僕のことを軽蔑しているのだろう。
彼女の祖父が死んだ途端、僕への援助を切ってくることぐらい、平気でやりかねない。
―――だったら、こんな生活をやめて一からやり直せばいい。
「そんなこと、できるわけがないし、方法だって思いつく筈ないだろ……！」
親には縁を切られて、もはや行方もわからない。
だからこの生活をやめれば頼りになる相手なんている筈がない。
家も職も何もかもを捨ててゼロからやりなおす勇気などある筈がない。
僕はこんな自分が嫌いでも、今ある何かを捨ててまで変えたいとは思えないのだ。
どんなにみじめで格好悪くても、安楽な生活を捨ててまで変えたいとは思わないのだ。

……祖父の晩年を僕は知っている。
宗教者として、あるいは魔術師として己の正しさを主張したかったであろうエリファス・レヴィ。
彼の晩年は……ただの八百屋の親父だった。
オカルティストとして、あるいは作家として一定の評価を得たであろう祖父は、
それでも最期にはそんなことをしなければ生きていけなかったのだ。
自らの主張を世に出したことで険悪となったカトリックとも和解し、最期はただの人として死んでいった。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぼ　　　　　　　　　　　　く
……けれども自らの痕跡は残したかったのだろう。エリファス・レヴィ・ベートを自らの後継として残し、
かつての賛同者に僕の面倒を見るよう頼んで、死んでいった。
僕は彼のように、自分の正しさを押し出した挙句、その相手に頭を下げるなんて真似はごめんだ。
……大体、そんなことをするぐらいだったら、最初から豚のように生きていけばいいだけの話だ。
出資者が喜ぶような文章を適度に書いて、代わりに餌をもらう。
さぞ、彼らの目には僕が哀れに映っているのだろう。
魔術師だなんだといって、結局は自分たちに縋らなければ生きていけないじゃないか、と。
腹は立つ。腹は立つが……事実だ。だから甘んじて受けよう。
その代りに、貴方たちも僕の事は放っておいてくれ。
僕がいないところで、好き勝手に僕のことを笑ってくれればいい。
……そう、思っていたのに。

「なんで……今更そんなこと言うんだよ、ヴィルジニーさん……」

そんなに僕のことが見苦しいのか。世話をするのが苦痛だったのか。
だったら最初からあなたの祖父にそういえばよかっただけの話だ。
僕の世話役だって、きっと人件費をかけるのが惜しかったから身内を使っただけのことであり、
別に彼女は僕の許嫁でもなんでもないのだ。
彼女が祖父にそういえば、きっと金がもったいないとぼやきながら、次の人を新たな世話人に据えることだろう。
「僕はどうせ家畜だよ……パトロンの為に本を書いて、後は餌を食べて排泄して寝る。それだけの存在さ」
けれど、わざわざそんな言葉をかける必要なんかない筈だ。
家畜のモチベーションを下げて、商品価値を下げる危険を冒す意味がわからない。
……それとも、ただの嫌悪感が口をついて出ただけだとでもいうのか。
「…………もういい」
彼女の祖父に事情を話して、世話役を変えてもらおう。幸い、最近の作品は一定の評価を受けている。
祖父の才能や閃きを持ち合わせていなくとも、そのようなことが出来るのは、
僕が元々他人の考えを咀嚼することに長けていて、それを祖父の魔術理論のまとめ方に活かすことができたからなのだろう。
むしろ、他人の評価と言う一点においては、僕は祖父よりも多くの支持を得ていたかもしれない。
だから僕の意見はきっと通る筈だ。

そう思って、僕はそういえば祖父の魔術書を出しっぱなしにしていたな、と本棚に戻そうとして―――

―――魔術書が、突然光りはじめた。

「……え？」
目の錯覚ではない。
どんなに熱狂的な信者を生み出そうが、所詮はただの本と侮っていたものが、
目が潰れそうなほどの光を帯びている……！
「あ、ああ……」
知らず、尻餅をついていた。
逃げなければ。そう思っても、今のショックで腰が抜けてしまったらしく、ずりずりと満足に後退もできやしない。
光は徐々に強く大きくなっていって―――
「う、うわああああああああああああぁぁぁぁぁッッ！」
僕を飲み込んでいった。

彼の言葉に頷いて、僕は話の続きをする。





光が収まった時、そこは見知らぬ場所だった。
「あああぁぁぁぁぁぁ…………え？」
穏やかな風と、透き通るような美しさの湖。
僕の家の外にこんな場所はなく、仮にあの光が爆発だったとしてもこんなところまで吹っ飛びようがない。
「こ、ここは一体……」
抜けた腰になんとか鞭打って立ち上がり、辺りを見回そうとしたところで……

「……え？」

エリファスは初めて会う相手に緊張している。

その一方で、少女人形はあなたの力に興味があるらしい。
スカートの裾をつまんで挨拶した後、興味を持った素振りであなたを観察し始めた。

すぅ、と長く細く煙を吐く。
……声をかけたのは、『リスク』の為であった。

この後に行う『狩り』の邪魔を防ぐ為の行為であり、
火に寄る幼子にかける声ではなく、むしろ野犬を土を踏み鳴らし払うモノだった。

彼女は【人斬り】狩の対象は人であり、”野犬”としてうろつく彼も人。

故に、その対象をずらす事にも頓着はしなかった。

ただ ―――

最初の怯える様な小心な仕草。
人を見る、物珍しげな視線。

……そして、少しの会話で薄れる警戒心。



狩るのは一匹。　　　　狂気
自分には、姉のような強さが無いのだから。

思考を顔に出さないようにしても、僅かに眉根が潜まるのが解る。
とはいえ、最初に声をかけたのは自分だ。

訝しげな声。
彼女の視線を辿れば、貴方の手に持つ魔道書に注がれているのが解るだろう。

　どうやら身体に異常はきたしていないようだ。
　華奢な見た目より頑丈な造りをしているのか。……もしや本当に慣れで鍛わったのか。

　空に文字を書くようにして名を復唱する。名前を覚えるのに、最低２更新はかかるのだ！

　ちら、と少女の方へ視線を流す。
　礼儀正しい、というよりは慇懃無礼な類にも見えた。だが、鼻につく態度には感じない。
　元来ツヅミは、このようなプライドが高い少女の態度を好ましく思う性格である。

　人形らしい、ということは見た目に理解した。人形扱いでいいのどうかは、まだ判断つかない。
　エリファスの失言は、くすくすと笑って受け止め。

　答えにくければ、森の木を相手に話しておると思えば良い。木は、決して笑ったりせぬからな。
　――そう、続けて目を細めた。

「俺には仲が良さそうに見えるよ」とも小さな声で呟いた

少しの間が空く。それでもレヒトは口を開く

少し待ってろと言い、場を離れる

マクナはこの場を離れたレヒトの代わりに話す

そうしている間にもレヒトは別のエンブリオの

頭を掴み引き摺ってくる

レヒトは連れてきたエンブリオに語らせる

トギハと名乗るエンジェルはレヒトから貴方達の名を聞く

トギハはレヒトが小さくなった理由を話し出した

レヒトが別の世界から来たこと。別の世界で犯罪を起こした事

その罪を裁く為にこの世界に飛ばされた事も

トギハはレヒトの監視役で、裁いたのはトギハの先輩だとも

後半はレヒトに内緒とエリファス達にしか聞こえないよう話す

エルのそうじゃなきゃ…の発言に、リシュは小首をかしげる

が、エルの次の言葉を聞きそのことは頭から消えてしまったようだ

すごいでしょ！と言わんばかりに胸を張って答えたリシュは
ゴソゴソとバックの中を漁り一冊の本を取り出した

リシュはとても楽しそうに一揆に参加したきっかけを語っている

何故頭を撫でられているのかわからないようだ。

笑顔を作りながら、あなたの怪我をした部分を撫でる。

撫でている途中で、何か疑問に思うことがあったようだ。

思案げに首を傾げながらジョウは言った。

絶妙なタイミングでエンブリオに突っ込まれ、ジョウは狼狽える。

あなたが慌て、飛ばされ、硬直し、……そして謝罪してきたのを見て、笑顔を向ける。

少年はちょっと戸惑い、照れくさそうにしながら、

そうお礼の言葉を言うと、少年の傍らに炎が灯り、大型の犬ほどの大きさの赤いトカゲがその姿を現す。

どうやら、聞かれれば素直に話すようだ。
深く突っ込めば、取り付けた経緯なども話す……かもしれない。

何かに変身した

何かに変身した

何かに変身した

何かに変身した

何かに変身した

何かに変身した

アンリエットはバシークの変身をじっと眺めている……

何かに変身した

何かに変身した

何かに変身した

何かに変身した

何かに変身した

何かに変身した

何かに変身した