ジャギさんは、しゃべらないエンブリオだ。

　といってもそれは別にそんなに珍しいことではなくて、この前契約したばかりのシーちゃんはどう見てもふわふわしたただのネコだし、他の人のエンブリオを見ても、同じタイプのエンブリオでもしゃべれたりしゃべらなかったりまちまちのようだ。
　ジャギさんも、オレの声には反応してくれるし、声を返してくれることもあるけれど、それはやはり言葉を成さない。オレと一緒に戦ってくれるのだから、オレの味方でいてくれることは、事実なのだろうけれど。
　……物言わず、オレを助けてくれて、ついてきてくれる。
　だから、オレも彼に「ジャギさん」なんて名前を、勝手につけてしまったのかも知れない。

　名前を呼ぶと、ジャギさんは応えてくれる。無骨な鉄仮面は、オレの記憶の中にあるものとは少しも似ていないけれど、それでもついつい思い出してしまう。

　……いま、もしこの瞬間、前の世界に戻れたら。

　そんな風に考える。
　ジャギさんたちエンブリオとははぐれてしまうかも知れない。せっかく会えたレイさんとも、別れることになるだろう。
　でももし、前の世界に戻れたら、俺はたぶん、もっと違う形で、あの人に接せられたはずだ。

　ディーネさんに声をかけられて、オレは慌てて姿勢を正した。
　元の世界よりは、前の世界に戻りたいって考えているのが少しふしぎだ。あの世界で味わった無力感を、オレは何とか解消したくて、オレはジャギさんやディーネさんたちを、その道具にしているのかも知れない。
　……でも、オレがやりたい、と思っていることはきっと、悪いことじゃないはずだ。

　首を振って自分に言い聞かせ、オレは歩き出した。

生物的な動作で少年に振り向くと感情の無い表情で、しかしあくまで軽やかな口調で挨拶をする。