――結局、勘違いだった。

二度三度と勘違いをして、それでもまた似たような噂を聞くとついそれを追いかけてしまう。
優先すべき順位は決めるべきだ。
第一は、元の世界に帰ること。
第二に、一揆に参加すること。
第三に、……仇を探すこと。
いや、もし奴がこのメルンテーゼに来ているのならば、ここに放置していくわけにもいかない。
それは――そう、厄介者をこの世界に押し付ける他にないのだから。
だから、……やはり第一に、仇を探すべきだ。

――これは、言い訳だろうか？




ジョウはまったく心配もいらないくらいに元気だった。
相も変わらずエンブリオに押されているくらいで、人影を追っていった時は焦ったけども、まあお互い問題なかったのだからいいのだろう。
二手に分かれたことで、得た情報も違ったらしい。
気づけば他の参加者に率いてもらい、強力なエンブリオと契約しにいく……のだとか。
それに比べて、俺はというと。
正直、空振って人に迷惑をかける、の繰り返しだけだった。

そこには、様々なチラシが貼られている。
文面には、様々な場所と、様々なエンブリオが書かれている。
ただ、共通して書かれているのが、「仲間募集」という言葉だ。
俺はようは、「仲間」を探していた。


花々が美しかったあの場所で、確かに狼の遠吠えを聞いた。
さほど遠くはない、探せば当たるだろうという、それくらいの距離だ。
言い切ってしまったが、確信はある。
とはいえ、経験則でしかないのだけど。
参加者の噂を聞きかじれば、どうにも狼もまたエンブリオとして契約ができるらしい。
――狼。
なんとなく近しいものを感じてしまうのは……やはり自分が"ブラックドッグ"であるという、ただそれだけの理由だ。
犬と狼は違う、と言われてしまうともうダメだし、何より別に自分が犬変化である、というわけでもない。
雷を纏うという点だけの名称だ。
……そのくせ黒髪だとか、目が赤いだとか、亡霊、ヘルハウンドとしてのブラックドッグと自分に共通した特徴があるのには、なんとなく運命を感じ……いや、それほどでもない。


とにもかくにも。
仲間が集まらないわけだ。
やはり募集が遅かったのがいけないのか、それとも元より後発の参加者が少ないのか。
まあ、運がよければ一人でも探せば見つかるし、運が悪ければ四人でも探しても見つからないのだから、自分の運にかけてみよう。




――自分の運に自信は正直、この世界に来ている時点でまったくない、けども。
ただ、能力をさほど隠さなくてもよさそうなのは、――ウイルスが存在してなさそうなのだけは、……幸運と言えた。
ちょっとだけ、この世界で生きてみたいと、考えてしまうくらいには。

どうやら前にも何度かこの格好について指摘された事があるようだ。

取り出したのはスマートフォンである。

なお、ユニバーサル（略）やハルス（略）とは一切関係ありませんｗ

特別、驚くでもなく続ける。

そう、懐かしむように声を漏らした。

いう間も耳やら尻尾が動いているが、これは多分無意識の行動である様子。
続く問いには「ん？」という感じで聞いていたが、ひとつ頷いてみせる。

メルンテーゼ産の竜については俺もよくわからん、と一応一言。
だが、参加者の中に竜の気配は多いことは伝えておいた。
最も、彼らがソレを見破れるのかどうかは分からないが。

ただ、空気がちょっと悪いからなぁとそんな感想を漏らす青年である。
名乗りを何度か復唱し、

小さく微苦笑を浮かべるのであった。

でもちょっと嬉しそうだ

　イヌワシの方は兎も角、少女の方は、若干勢いに押されていた。

　私が契約したのはそれより少し前だったんだけど、と付け加え、それからウルヘアについて触れられれば。

少女の形をしたエンブリオは、伸ばされたあなたの手に驚いた顔をして、ぺしっと軽く叩いて跳ね除けた。

ぷいっとそっぽを向く少女は、しかしその口調の割りにそれほど機嫌を損ねている風ではない。
どうも、ただ照れているだけらしい。

ぽつりぽつりと話すジョウの視線の先には、物言わぬゴレムのエンブリオの姿がある。
少年は少し沈黙し、再びあなたを上目遣いに見た。

※節分の掛け声ではありません。

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