「テオは見つかったか」

「いや、まだっスね〜」
「…………」
「わかってますって全力で捜してますよ〜。だからそんな怒んないでよボス〜」

「それにしてもどこ行ったんスかね〜。まあ普通に考えたら逃げたんでしょうけど〜。
　まあ当然っちゃ当然っスよね〜あんな――」
「おい」

　怒気の篭った声が響く。

「無駄口を叩いている暇があったらさっさと捜しに行け」
「へいへ〜い、りょ〜かいで〜っすっと」

　跳ねるように部屋を出て行った。
　それと入れ替わるように、一人の男が姿を見せる。


「ボス。あいつ見つかりましたか」
「まだだ」
「そうですか……俺も探したほうがいいですか」
「お前は自分の仕事に専念しろ。ただでさえ一人減って依頼消化するのに苦労してんだ」
「……わかりました。でも、」

一呼吸置く。

「無理、しないでくださいよ？」
「何の話だ」
「……失礼します」

その問いには答えずに立ち去った。




男が立ち去った後、一人になった部屋で頭領の男は赤い指輪を眺めていた。

頭を撫でてやると えへへ、と嬉しそうに笑っている。

後ろ黒くなくても現在実行系の黒歴史である。
とはいえ、隠すほどの内容でもなかったのでため息をひとつついた後で続けた。

森のなかで再度着替えるのも何なのでこの格好で動き回っている、という事情を一応追加しておいた。
好きで女装のまま動き回っていると勘違いされても問題なので。

御年256歳のドラゴンである。
そうそう年上の相手は長命の種でもなければ居ないので面映いものを感じつつ、尾を揺らす。

などとぼそぼそと返答する青年。
続く忠告には、流石にぎょっとしつつも赤くなる。

言われるまでそんな可能性など思いもつかなかった。
しかし、一旦言われて想像してみれば……恐ろしいものだ。
耳も尻尾も想像してしまった恐怖に落ち着かなげにピクピクしている。

染み染みとした口調でぼやく青年。
ふと、その視線が後方のもう一人の人物に止まった。
ヴォルフとその人物を交互に見やる。

問うた。

あなたの顔を見て、エルの表情が凍りつく。
自分が何か致命的な失言をしたのではないかと、そういう思考が読み取れるほどの狼狽具合だ。

それでも数瞬の後に、あなたがそれをなかったかのように話すので、
エルも同じように話を合わせるが、どもってしまう辺り動揺を隠せていないらしい。

それでもやはり、以前よりは変わってきたのか、
逃げることなく、先ほどのことを出来る限り気にしないように会話を続けてくる。

……あまりに抽象的過ぎて説明になっていない言葉を、青年はどこか自分に言い聞かせるようにはっきりと宣言した。