（今回の日記もEno.547　柊魔異とリンクしています。）

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「……言いたいことも、伝えなきゃいけないことも、沢山あった筈なんだ」

彼からぽつりと、言葉が零れる。

瞳に彼の姿をうつしてから、それきり、離すことが出来なくなってしまった。
何かに魅入られたわけではなくて、
ただ、このまま視線を外してしまったら、また彼が何処かに行ってしまうような気がして。

「でも、いざお前の顔を見たら、全部真っ白になって……。
　……なんて言ったらいいか、分からなくなってしまった」

少しだけ笑うように、張り詰めていたものが解けたように。ぽつり、ぽつりと。

「……先輩、私は……」

それは、私も同じだった。同じで、それでも気付けば、音は零れていて。

伝えたかったことを、伝えて。
ずっと願い続けていた言葉も、聞く事が出来たのに。
それでもまだ、不安に思うもの。

「……ふれても、……良い？」

言葉として溢れてから、それが何かを理解した。
あなたの、存在。
此処にいるという、何よりの。


「……うん」

暖かい声に、泣きそうになる。
伸ばした手が、震える。
それは、初めて人に、自らの意志で傷付ける力を行使した名残か、
緊張や安堵から来るものなのか、わからなかったけれど。

彼の緩く曲がった人差し指を、そっと右手で掬い、引き寄せる。
それから全体を包むように持ち直して、左手を重ねた。
少しだけ固くて、暖かい。まだ少しだけ慣れない、包帯越しの、手の平の感触。

「……うん。あの頃よりも、ずっと、大きい……」

あの頃の彼と、今の彼を確かめるように。かすかに、握る手に力を込める。

「……ありがとう。
　此処に、いてくれて。……私を、覚えていてくれて」

思うままに呟いた声は、笑みと涙に震えて。
それ以上溢れないように、息を止めて、きつく目と唇を閉じた。
視界が闇に塗り潰され、彼の姿が消える。けれど、彼の熱と息遣いは、確かにそこにあって。
──気が付くと、手の震えは止まっていた。

「たがいに会いたいと思っていたら、あえるものだから」

「……正直、もう、会えないと思っていたから」

あの日の出会いを、約束を、思い出すまでは。
懐かしい言葉に、開いた瞳から涙が滑り落ちる。それでも今度は、ただ笑うだけでいられた。

彼の存在に、ただ縋るだけの自分ではいたくなかった。
あの日と同じように、彼の為に、出来ることをしたくて。

「……強く、なれたかな」

「うん。私が知っているあなたよりも、ずっと」

左手を彼の右眼に伸ばす。暖かで真っ直ぐな、翡翠色。
そこにはもう、最後に覗き込んだあの日のような、悲しみと後悔の色はない。
だから、はっきりと頷く。

「……上手く、言えないけれど。前よりも、『一緒』に、いる」

彼は、強くなった。私も、強くならなければいけない。
その為にもどうしても、自分から伝えたい事があった。
ひとつ、深呼吸をする。

「先輩と離れてから、気付いた事が、たくさんあった。
　逆に見えなくなってしまった事も、たくさんあった。
　先輩とまた出会えて、ようやく認められたものがあった。
　より強く、揺るがなくなった思いも。……だから、」

先が続かず、途切れてしまう。ここから先は、初めてだから。
別れは別れでしかなく、拒絶もまた、別れでしかなかったから。

知らなかった。
別れのその先に、続きがあるだなんて。

「……これからも、」

──よろしくお願いします。
紡いた音は、自分でもわかるぐらいぎこちなくて。
まるで、言葉を覚えたばかりの子どものようだった。


「ああ――」

指先に、熱い雫が触れる。
堰を切ったように、それは彼の瞳から溢れ出して。

「泣いてるのか、俺」

けれど、その声は安らかで。柔らかで。
それは、幼いあの時のような、「止めたい」と思わされるものではなかった。

「そこまで言われたら、俺の話すことが無くなるじゃないか」

そうして、力を抜いたような微笑を浮かべる。
自分の前で、そうしてくれている。
その事実にまた、感情が溢れそうになる。

彼は、私の隣にいてくれるのだと。共に、歩んでくれるのだと。改めて。

「俺はお前と出会って、その時初めて、世界の美しさを知ったんだ。
　だから、お前がなんて言ったって、もう手を離したりするもんか。必ず一緒に、元の世界へ帰るんだ」

この日の言葉も、彼のぬくもりも、私はきっと、忘れることはない。
一度閉じられてしまった物語が再び開かれ、新たな始まりを迎えても。
たくさんの想いとともに、連れてゆくもの。

「こちらこそ、よろしく」

私と彼が、歩んできた軌跡に、そっと挟む、栞の花の名は──、

https://dl.dropboxusercontent.com/u/69846349/ikki/d12diary.mp3

解せぬ。と言いたげに、ぽつり呟いて。

足は引っ張らない、といつもの淡い表情で、ぺこりと頭を下げた。

　ちょいちょい、と。――もしその場にいるのであればルトゥを指さして。そうでなくても、エンブリオのことを指していることはわかるであろう。

離れる為に下がろうとして、踵を地面に引っ掛けた。
そのまま後ろに傾ぐ身体を、少年が慌てて引き寄せる。

反射的にしがみついた腕。至近で交わる翡翠と冬青。
彼らにとっては何気ないやりとり。
けれどそれはともすれば、熱い抱擁を交わしているように見えたかもしれない。

カカシの視線の先にいたのは、魔異と見知らぬ少女がキスしている……
ように見える場面だった。

ちえりの女子特有の勘が動き出す！
女子特有の勘によってちえりはカーキアスの魔異への想い、
実はカーキアスが少女の心（ハート）を持っていたこと、ついでに自分の果たすべき役割に気づいた！

ちえりは女子特有の勘で確信する。『波乱の気配』を。
奇しくも双方が邂逅した平原には、女性の方から告白して生まれたカップルは
永遠に幸せになれるという『伝説の木』があった……！