緩やかな傾斜は山頂まで延々と続いているように思われた。
　星屑の山といわれるこの場所は、同じ名を冠する小川に似て、美しい光景が広がっている。
　群生する木々が太陽の光を遮る役目をしているので、薄暗さは山道全体を覆っている。
　だがわずかな光を受けて輝く岩石や、空気中に居る力の弱いエンブリオの輝きが陰気な印象を振り払っていた。
　輝きの種類は多く、単純に反射しているものから色相を変えている物、暗所でこそ輝くものもあるようだった。
　空気は湿気を含んでいる、注意深く嗅げば雨の日のように、土の臭いも感じ取れるはずだ。
　だが地面はしっかりとしていて、兵舎へと急ぐ彼女の邪魔をすることはなかった。
　フィーナ・タルムードは一人兵舎へと向かい山道を下っていた。
　同行するものは居ない。いつも一緒の彼女らは先に向かっているはずだ。

　昨日のことを思い出し苦笑する。喧嘩別れというと大げさになるだろうが、どうにも気まずかったので先に行ってもらっていた。

　本で読んだり人に聞いたりしたことならある、ただ自分の周りには喧嘩をするような相手は居なかったなと彼女は思った。
　知らないことが沢山ある。もちろんそれらを知っていくことがこの旅の目的ではない、でもやることをやっていれば、そういうことを考えることも許されるのではないだろうか。
　さく、さく、かつ。背の低い草を避けるようにして、石の上を通る。地面とは違う感覚と、そこに残る土の足跡を横目に小走りを続ける。

　道のりの八割を超えるあたりにそれはあったはずだ。山へと踏み入るときには最初のほうで見かけたのだから。

　速度を緩める、歩くと言ったほうが正しいぐらいに落として遠目にそれを見つける。
　目的の岩に相違なかった、全体は白く自然に磨かれたにしてはよく光を反射している、全長は彼女と同じぐらい、てっぺんは平らになっていて、細かいでこぼこを我慢するのなら、座ることもできる。
　今はそこに一人の少女が座っていた。

　正確に言えば少女なのかどうかはわからない、瞑目し顔は前に傾けている、眠っているようにも見えたが寝息が聞こえることはない。
　身体は小さかった、岩の上にちょこん、と座っているというのが適切な表現のように思える。
　純白のワンピースはその白い肌に良く似合っていて、細い腕や脚が儚げな印象を与えた。何より印象的だったのは光り輝く髪と、背から生えているであろう大きな翼だった。

　想像をめぐらせる、翼の生えた人と出会ったことはあるが、それとはまた別の存在だと感じる。

　そういう結論を出して、観察をしなおす。
　自然の中に彼女を当てはめると、そのまま消えて生きそうな透明感を感じて、やっぱりそうなのかと勝手に納得したところで。
　すると視線を感じたのか、少女はゆっくりと目を開ける、フィーナと目が合った。

　気まずい沈黙が降りる、とりあえずの目礼をして先へ進もうとすると

　透き通った声で、全く予想できなかったことを言われ、少しだけ身構える。
　相手はこちらのことを知っているようだけれど、こっちはまったくわからない、あんまりいい気分ではなく、ついつい怪訝な目つきになってしまう。
　しかし岩の上の彼女は返事を聞くと、表情を明るくして、言葉を続けた。

　反射的に疑問を口に出す、それに大きく頷きながら

　謎が解けた。彼女の友人ならば知っていてもおかしいことではない。それに全員の交友をしっかりと把握しているわけではないので、こういうことも起こりえるだろう。
　フィニーは笑みを浮かべると岩から静かに降りる、とてとてと狭い歩幅で至近距離まで近づいてきて

　と元気よく挨拶した。だが

　フィーナの悲鳴にかき消される。
　左足にしびれるような痛みが広がっていた、崩れ落ちそうになるのをかろうじてこらえ、何が起きたのかを確認しようとする。
　痛みの源と思われる場所、左のふくらはぎ外側あたりに少女の細い右足が当たっている、それはちょうどローキックをぶち込んだ形に似ていた。
　涙を溜め込んだ目で彼女の顔を見る。
　ふっと微笑をこぼし、しゃがみこんでその部分へと手をかざすと、ゆっくりと痛みが引いていった。

　ぺしぺしと叩く、確かに痛みはもうなくなっていた。

　そう問うと彼女はにっこりと笑った後

　気合と共にローキックをぶち込まれた。先ほどと同じような痛みが広がる、十分に修練を積んだことがわかるいい蹴りだった。
　痛みに顔をゆがめ今度は膝をつく、見あげる形になって、彼女の声を聞く

　どこの世紀末だ。だけれどとりあえず理由はわかった。

　否定しながら蹴りがとんでくる、今度は何とか身をかわした。

　決まってますか。
　あまりにも当然だといった物言いに怯んでしまう。まぁ友人といきなり引き離されたとしたら寂しいかもしれない。

　それはちょっと違う、細かいところはまた後で決めるから、とはみんなに告げた、人魚ちゃんのは却下したけど。

　びゅおっ！　と空を切って廻し蹴り。体をそらしてよける。
　どうやらわりと悲しい誤解があるようだった。流石に切り伏せるのは気が引けるなぁと思ったところに

　聞きなれた声。それに従うと今居た空間を雷光が走り、フィニーに直撃する。

　そういい残して倒れるフィニー、友人にライトニングをかましていいのだろうかと思いつつ、助かったよと礼を言う。

　シェイミーは深々と頭を下げ心底申し訳なさそうに言う、シェイミーのせいじゃないよ、とほとんど本心でいったけれど、恐縮するばかりだった。

　もじもじと、言いにくそうにしてから

　と足をさすりながら言う。しかしそれには

　変な方向に我慢強くなれるかもしれないと思いつつ、小さな体を背負って美しき山を降りていく、次の場所は日の光から遠い兵舎の中だ。
　
　
　
　

そう言いつつも浮かない顔だ。あちこち怪我のあともあるし、どうやら何事も無く奪われただけには済まなかったようだ。

動かなくなったロックゴーレムを弄りながらつぶやく。

少し考えた後、「ああ」と声を漏らして

羨望のまなざしを向けています。二刀流とかかっこいいとおもう年頃のようです。

一人が気楽と聞けば、にこりと笑って

監視と聞けばちょっとびっくりした様子で

弟の特徴をたずねられれば、少し考えて

いつに無く真剣なまなざしを向けて、ふかぶかと頭をさげました。

自分に言い聞かせるように呟いて。

まずは一揆を終わらせないと、と苦笑い。

願いを込めて付け足して。

　彼女は別の世界から来たと言っているし、一揆は危険なものだ。
　メルンテーゼの為に奮闘することが、彼女にとって利益があるとは、あまり思えなかった。

少し考えている。

何か言おうとしているが言葉にできないようだ。

＞あなたの目の前には、付き纏う影法師のような、ゆらめきがその存在を誇示している。
　この影法師の話によれば、自分はあなたと話に興じていたアエレアだと言う。
　ヒトは一日もあればその姿を変える、そんな話をしていたばかりだが
　しかしこれは幾らなんでもあんまりではないか。と、あなたは苦言を呈してもいい。

ごそごそと動きながら上着を脱いで、腰に巻く。

Ikkiを成功に導いて
君も英雄になろう！

と黒字に白で書いてあるＴシャツをドヤ顔で披露して名乗りを上げる

微笑んでそう挨拶をし

深く頭を下げました