一章続き...

山を下り、森に差し掛かる。
隣には、新しくこの一行に加わったフェリシア・ウェンティ(以降フィー)が音楽を聞きながらお姉さまと話している。
……っと、まぁ何事も無く過ごしているのだがやはりその格好には一風変わった様子が見られる。
まぁツッコミどころは他にも多々あるのだがソレを口にはしない。

「話を聞いて面白そうだったので、スカウトしたわ。」

簡単に告げられたこの一言は、少女にとっては納得するに値したからだ。(自分自身が似たようなものだった)
ま、そこまではいいのだが……問題はスカウトの一言だ。
なんとか言葉を止めたが……なんだか社会の暗い部分をがそこにあった気がしたからだ。
無論、自分の気のせいだって事もあるだろう。
だが……思わずには居られなかった、この冒険のその先を――

「どうかしました？」

どうやら雰囲気に出てたらしい……なんだか最近は仮面を被ることもうまくいかない。

「だ、大丈夫……ちょっと……疲れただけ。」

当り障りのない言葉をかえす、どうやらお姉さま達との距離も少しだけ離れてしまってたようだ。
ちょっとだけ急ぎ足で追いかける、フィーも深い追求はせずに自分を先導する。
このちょっとサッパリした態度は冷たく感じることもこの先あるかもしれないが、今の自分には助かった。

「……だから……みんな恋をするのかな。」

独り言を呟く、もう何度も読んだ冒険譚の中でもちょっとだけ特殊なお話に入ったからだ。
主人公と村娘の痴話話……まぁ、結果としては残念に終わっているのだが。
その主人公と今の自分の心境はとても似てるように感じるものがあった。
村を訪れた理由が仲間の埋葬であり、その事を後悔し、この先を不安に思うその主人公の気持ちと――

「……はあ」

思わずため息がでる……この話は自分は好きでは無かった。
何度も馬鹿馬鹿しい思っていた話だったが……今では痛い程気持ちがわかる。
……自分でも思わなかった心境の変化だ……人はこれを成長と言うかもしれないけど……自分はそうは思いたくなかった。

「……あ。」

短くまとめられた話のクライマックスシーンに差し掛かったところだった。
そのシーンでは主人公が村娘の腕を振りほどき、罵倒する場面が書き記されてる。

その言葉でお互いは涙を流し、決別を持ってしてこの村の話は終わっている。
当時は何故主人公も涙を流すのか理解できなかった……それが今はなんとなくだけど分かる気がした。

「……でも……何で……冒険することを選んだんだろう。」

この物語は意図してか"その理由"だけは頑として語られなかった。
どうして前に進むことを選んだのか……同じことがあったら……自分は――

「アズ様……？」

ヘイルの言葉で意識を本から現実へと戻される。
どうやら集中し過ぎて立ち止まってしまったようだ。

「最近は、随分とその本をお読みになってる様ですが？楽しいのですか？」
「……ううん……そんなに……ごめんなさい。」
「いえ……謝れる事は――」

ヘイルが言い終わる前に本と同時に思考をしまい込む。

「はやくしないと……日が暮れちゃう……だったよね？」
「……はい、ですので……ですかご要望とあらば休憩にいたしましょうか？」
<I3>「ぇと……もう読んだから大丈夫……行きます。」

何よりこのまま読んでいたら……きっと悪いことばかり考えてしまう。
せっかく賑やかになったのだ、一人だけ暗い気持ちでいたらきっと駄目だ。
それに……まだ早いはず……この先の答えを出すのはまだ……あの人にだって――

一章終わり。

話は通じていない、というのは。よくもあり、悪くもある。
そもそも押し売られ、という事すらよくわかっていないようで、ただひたすら言葉が通じない事に困っていたようで。
早口になられると、どうしても聞き取れない。

ただ、突然見知らぬ人に引っ張られ……その上、爪が食い込むことで痛みが与えられれば流石に拒絶するようにその手を振りほどき。
擦ろうと伸ばされた手は、露骨に拒絶しようとはしないものの、そっと一歩下がって触れさせない距離に。

家族はとりあえずこの場にいない。だから、×を手で示す。
そもそも救出された事に気付いてはいないし、相手の用事もわからず。
唯一聞き取れたのは名前で、うん、と一つ頷き。

此方も名乗って、やっぱりじゃあ、何の用事だと。
お金、については、あ、と何か思うところがあったらしい。
鞄の中から、――……通常の一揆参加者にしては多少多めであろうPSの袋を取り出して相手の視界に。これが、どうかしたの？とばかり。

そう言って１冊の本を取り出した。タイトルはただ一文「ラーフィ＝バルドル」と書かれているだけだった

自分の招いた結果にちょっとイラつきながらもそれを表には出さず。

手を軽くあげ余裕をもった表情で回りに微笑む。

相当イヤらしくジタバタしている

　

お返しに撫でてあげよう　なーでなで

水の何かが喋った　丁寧な口調の、男の声だ
紫色をした瞳で、じいっと貴女を見ている

（万感の思いを籠めて感謝を告げるあなたにたまらず手を伸ばしかけて、しかしすぐに引っ込める。
出来ることなら頭を撫でて、その言葉を、その意志を、あなたの受難を肯定したい――そう思うと、自然に手が伸びていた。）

（でもそれはきっと逆効果で。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　笑いかける
だから、というかやはり、その代わりに出来ることをした。）

（そう言った彼の表情は、あの時と同じ笑みだった。）

（『――いい名前。』その褒め言葉で青年はそわそわと、先ほど以上に挙動不審になっている。
いつものように誤魔化す笑いも小さく、どうやら本当に照れている――もしくは、人に肯定された経験が少ないのか――ようだ。）

（口調こそ違えど――それにあなたは絶対にそんなことは言わないだろうけど、
しかしその声だけは、完全にあなたの声で再現されていた。どうやらこの青年は声帯模写が出来るようだ。）

（バツが悪そうに頭を掻きながら言葉を返す表情は、苦悶のそれではないものの憂いを抱えているように見えた。）

　彼女の目線に視線を合わせ、優しく微笑む。
　そうした後は、少しばかり歩き……

と、親しげに手を振って答えてから、慌てたように自分もお辞儀して

腕を組みながら、小首を傾げて

フェリシアに闘技大会の補充として連れて来られたのは
白い長髪に白い羽毛の異形の男だった。どうやらハーピィのようだ。

礼儀正しくお辞儀をし、柔らかな笑みを浮かべている。
初めての邂逅故に、どうやら相手が男性恐怖症などとは知らない様子である。