【拾壱：三人目の伊吹鬼・了】

蛇────。
蛇、蛇、蛇
────蛇。

囲まれていた。
他にも、悪霊やスライムの類の姿もある。数は──九。
対して、こちらは四。開幕から、劣勢だった。

ナッツとテリオスが倒れ、横で奮闘していたカタナも崩れ落ちる。
最後に残ったのが、私だ。

油断していた。
水辺は安全な場所だと聞いていた、というのもある。
実際に、水のせせらぎに心休まっていたのも、それに繋がっただろう。

油断していた。
それが、この様だ。

悪霊の最後の一撃が、私に迫る。
避けれずに、直撃する。意識が、薄れる。

負ける。

その時──意識が途絶える瞬間、視界の隅で。
あの、エンブリオが。
白い虎の妖怪が。

──　──　──


「う……あ、あれ？」

気づけば。
また、森にいた。

まるで時間が戻りでもしたかのように──
風景は、水辺へと来る前の森だった。

あの、白い虎の妖怪を拾った辺りに、良く似ていた。

白い虎。
あのコが、私達を連れてきてくれたのだろうか。
あの状況から、突破口を開いて、逃がしてくれたのか。

ふと、周りを見わたす。
小柄な、白い虎。その姿を探す。

程無くして、見つかった。
あのコは──敵を、引き連れてきた。
妙に筋肉質な化けリンゴと、ドラム缶風呂？……あとは、スタンダードな妖樹か。
おそらくこの森に生息する生き物達だろう。

「どういう、つもり？」

問いかける。
答えは、言葉で帰ってきた。

「御姉様、今一度貴女が伊吹の長に相応しいか、試させて貰います」

まだ幼い、女の子の声、だった。
『傍についてすぐにあの様など、あなたは不甲斐なさ過ぎる』
『あの程度の敵に負けるようでは、私は認められません』、と続ける。

だが、その前に、何と言った──？

「お、御姉様って、いったいどういう…？」
「問答無用！あなたのお力、この伊吹虎白が見極め致します。いざ！！」

描かれた絵の、ことさら頭に生えた角を目にして、少しだけ顔を強張らせます。
そうしてすぐに、慌てて首を振ってから、八葉さんに視線を戻しました。

じーっと思わず虎耳を見てしまってから、失礼になる前にコホンと小さく咳をして。

プルは、知らない言葉を聞いたかのように首をかしげた。
そして流れる沈黙。
しばしの間の後、横に居たカリナがため息をついて話しはじめた。

淡い色の、虎模様の見える髪を眺めて。