
兄貴は、強い人だ。
様々な意味で、あきれ返るほどに強い。
きっと、本来ならあの人はオリンピックになんらかの格闘技系の種目で選手として出場して、今頃もっと華やかな表舞台に立っていたことだろう。
結果的にそうならなかったのは、もしかしたらよかったのかもしれない。
あぁ言う華やかな表舞台は、その裏でどろどろとしたものは悍ましいほどに蠢いているから、兄貴にはきっと向いていない世界だった。
…………まぁ、精神面もあきれ返るほどに強すぎる人だから、案外何とかなった可能性も否定できないのが恐ろしいところだが。
そう、兄は華やかな舞台に立つことはなかった。
予定はされていた。
だが、その予定はあっさりと破壊されてしまった。
たった一つのフェイクニュースによって。
兄貴は、そんな事していなかった。
はめられたのだ。
世間はそのフェイクニュースに踊らされ、兄貴はオリンピックの出場権を失い、当時勤めていた会社をクビになり、婚約者からは散々ののしられて捨てられた。
通常であれば、自殺を考えるほどに……実際、自殺を決行するほどに追い詰められる事態だろう。
自殺の自の字も考えなかった兄貴の強すぎる鋼メンタルを通り越した何かが異常すぎただけで、通常ならばそうなのだ。通常ならば。
……そう、通常であれば、そのフェイクニュースは「人を殺しえる」レベルのものだったのだ。
許せなかった。
人の人生をそこまでに破壊しておきながら、その連中がのうのうと、せせら笑って生きているのが。
だから、調べた。
調べつくした。
フェイクニュースを作った連中も、意図的に広めた連中も。
調べて、調べて、調べつくして、そいつらが誰であるのか突き止めたというのに。
足りなかった。
証拠が、足りなかった。
完全な証拠が、なかった。連中がやった事であるのだと、完全に立証できる証拠がなかったのだ。
その証拠は、もはや、完全に消されてしまっていたから。
諦めきれなかった。
そいつらに報いを与えたかった。
真実を捻じ曲げ、新たな悲劇を生もうとしていたと言うのに、その責務を負うことなく生きている連中が許せなかった。
なんとしてでも。
なんとしてでも、連中を追い詰めたかった。
そうして、気づいた。
「証拠がないなら、「作ってしまえば」いい」
「あいつらもやった事だ。こっちがやったところでおあいこだ」
「ほんのわずかでも、連中に疑いの目が向くように」
「そうして、ちゃんとした「真実」に、「フェイクニュース」に踊らされている連中が少しでも目を向けられるように」
だから、それを実行した。
決定的な証拠だけを偽造した告発記事を書き、なんとか伝手を使って記事を乗せてもらった。
正直、証拠の偽造についてはバレることを覚悟だったのだが、不思議とバレることはなく。
真実は明るみになり、兄貴の無実は証明された。偏見の目は完全に消えなかったけれど、兄貴の名誉を回復することは、できたのだ。
あの時だ。
あの時、二つ目の異能が発動したのだろう。
きちんと気づいたのは、それからだいぶ経ってから……大学を卒業してからの事だった。
認識阻害の異能。
自分が書いた記事のそのもっともらしさに応じて、異能の強さは変わってくる。故に、下調べが大事な異能だ。1の嘘(フェイク)を隠すために100の真実の中に紛れ込ませるような使い方が、一番効果的なのだから。
真実を暴き立てるためならば、多少の嘘くらいは許容してやろう。
真実が覆い隠される事によって新たな悲劇が生まれるよりは、ずっといい。
フェイクニュースを書く事によって責め立てられようが、訴えられようが、構わない。受け入れてやろう。
新たな悲劇が生まれるよりはずっといい。
『真実は俺が書く《フェイクニュース》』
この異能があれば、もう、兄貴のような思いを……いや、兄貴はまったくこたえてなかった。
兄貴の周辺の、兄貴を心配してくれた人たちのような思いをさせずにすむ。
だから、俺は自分がやっていることを止めるつもりはない。
これが、俺が貫き通すべき事なのだから。

[845 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[409 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[460 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[150 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[311 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[202 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[149 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[68 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
―― Cross+Roseに映し出される。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
 |
白南海 「・・・ロストの情報をやたらと隠しやがるなワールドスワップ。 これも能力の範疇なのかねぇ・・・・・とんでもねぇことで。」 |
 |
白南海 「異能ならリスクも半端ねぇだろーが、なかにはトンデモ異能もありやがるしねぇ。」 |
不機嫌そうな表情。
 |
エディアン 「私、多くの世界を渡り歩いてますけど・・・ここまで大掛かりで影響大きくて滅茶苦茶なものは滅多に。」 |
 |
エディアン 「そういえば貴方はどんな異能をお持ちなんです?」 |
 |
白南海 「聞きたきゃまずてめぇからでしょ。」 |
 |
エディアン 「私の異能はビジーゴースト。一定の動作を繰り返し行わせる透明な自分のコピーを作る能力です。」 |
 |
白南海 「あっさり言うもんだ。そりゃなかなか便利そうじゃねぇか。」 |
 |
エディアン 「動作分の疲労は全部自分に来ますけどねー。便利ですよ、周回とか。」 |
 |
白南海 「集会・・・?」 |
 |
エディアン 「えぇ。」 |
首を傾げる白南海。
 |
エディアン 「――で、貴方は?」 |
 |
白南海 「ぁー・・・・・どうすっかね。」 |
ポケットから黒いハンカチを取り出す。
それを手で握り、すぐ手を開く。
すると、ハンカチが可愛い黒兎の人形に変わっている。
 |
エディアン 「わぁー!!」 |
 |
エディアン 「・・・・・・・・・」 |
 |
エディアン 「・・・手品の異能ですかー!!合コンでモテモテですねー!!」 |
 |
白南海 「なに勝手に変な間つくって憐れんでんだおい。」 |
 |
白南海 「糸とかをだなー・・・・・好きにできる?まぁ簡単に言えばそんなだ。 結構使えんだよこれが、仕事でもな。」 |
 |
白南海 「それにこれだけじゃねぇしな、色々視えたり。」 |
眼鏡をクイッと少し押し上げる。
 |
エディアン 「え!何が視えるんです!?」 |
 |
白南海 「裸とか?」 |
 |
エディアン 「ぇ・・・・・」 |
咄嗟に腕を組み、身構える。
 |
白南海 「・・・嘘っすよ、秘密秘密。言っても何も得しねぇし。」 |
 |
エディアン 「ケチですねぇ。まぁ私も、イバラシティ生活の時の話ですけどねー。」 |
 |
白南海 「・・・・・は?」 |
 |
エディアン 「案外ひとを信じるんですねぇー、意外意外!」 |
そう言ってチャットから抜けるエディアン。
 |
白南海 「あぁ!?きったねぇだろそれ!クッソがッ!!おいいッ!!!
・・・アンジニティぶっ潰すッ!!!!」 |
チャットが閉じられる――