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【Replace】
だから置き換えよう。自分と、あの子を。
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十二歳。
現代で言えば小学六年生。
大人か子供かと言われれば明らかに子供。
まだ知ることより知らぬことの方が多く、けれどそれでも
親に、大人に守られながら、未来に向かって育ってゆく。
昔の十二歳は今よりは大人に近かったが、それでもやはり子供は子供。
まして武家や公家なら兎も角、自分の家は山の麓にある小屋で。
何か責任を負うでもなく、学ばねばならぬ理由も無く。
ただ自由に、望む時に臨むだけ、尋ね、知り、知恵と経験を得た。
それだけで良かった。
面白い遊び道具がある訳でもなかったけれど、毎日楽しかった。
山は何時だって少しずつ変化してたし、優しい村人もいたから
仕事を手伝ったり、一緒に遊んでもらったりした。
それが。
それだけが。
その十二年だけが、自分にあった。
その十二年しか、残っていなかった。
荊尾 水渡里は。
ずっと。ずっとずっと。ずぅぅぅぅぅっと。
穏やかで平和で幸せだった十二年を、繰り返し繰り返し思い出してきた。
戦いとは名ばかりの一方的な殺戮に手を染めた時も。
異形の存在と対峙し、その悉くを微塵に裂いた時も。
竜だのカミの使いだのと名乗る有象無象を叩き落とした時も。
……否定の世界とやらに放逐された後も。
戦い始めてから堕とされるまで、一年も無かったように思う。
たった一年の間に全てが変わってしまった。
自分はおかしな異能を手にしていて、その使い方も異様に上手くなった。
だがその結果がこれだ。碌なモノの無い、碌なモノの居ない薄汚い世界。
それでも、自分は間違ってなかった。自分は頑張った。
これが最良だった。家族を守ることができた。
私は偉い。私は凄い。私は優しい。私は強い。
だから大丈夫、大丈夫、私はお姉さんだから、だから、大丈夫……
繰り返し、繰り返し。
ぶつぶつと呟いては、行く当てもなく彷徨い歩く。
十二歳の少女は、十二歳の少女のまま、荒野を行く。
五十年が過ぎても、百年が過ぎても。
荊尾 水渡里は、自分を正気だと思っている。
狂いそうになっても、ギリギリで踏み止まっている。
自分は強いから。自分は凄いから。だから、大丈夫なんだと。
数秒前まで人の形をしていた肉塊に向かって、そう、優しく語り掛けながら。
やはり変わらず、自分を正気だと思っている。
こころは ねじれ ゆがみ ひびわれる。
そんなものに いくらみずを そそいだって
うつわが みちることは ない。
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想像して欲しい。
百年もの間、一滴の水も飲むことを許されず、ずっと飢えに
苦しんでいたとして……
そんな折、目の前で美味しそうに水を飲む様を見せつけられたなら
どれだけ思慮深い善人であったとしても、この時ばかりは憎しみを
抱かずにはいられない。そう思わないだろうか。
まして水渡里にもたらされたのは、記憶の雫。
自身の弟が仕組んだ血の呪いによって、子孫代々が弟と自分と同種の異能を
継ぎ続けたせいなのか、ごくたまに“波長が合う”子供が生まれる。
そしてその子供が生きて行く上で、見聞きした光景や言葉等の記憶が
稀に自分の元に飛び込んでくるのだ。
どれだけそれ以上を望んでも見られない。
なのに諦めて忘れかけた頃にまた“合ってしまう”。
知らない街。知らないもの。楽しそうな、誰かの顔。
記憶の共有だから目をつぶったって避けられない。
生殺し。
気持ちがぐちゃぐちゃになって行く。
自分が頑張ったから彼らは今を生きられるのに、なぜ頑張った自分が
こんな所に閉じ込められているのか?
なぜここから出してもらえないのか??
弟は自分のことをずっと考えていた、と言った。
どうにかして否定の世界から取り戻したい、とも。
その為に策を練ったのだ、とも。
でもその弟は妻を娶り子を成し老いて大往生している。
自分の人生をきっちりと最後まで謳歌している。
そんな弟に自分のこの灼熱の溶岩のような気持ちが果たして
理解できるものだろうか。
小佐間の兄妹。今代の荊尾。
彼らも確かに困難にぶつかり、懸命に生きている。
分かっている。最初から見てきたのだ。
多少なりとも情のようなものだって湧く。
だけどそれ以上に重い感情がある。
嫉妬。羨望。そこにいるのが自分でないことに対する怒り。
だって彼らはちゃんと今を生きている。自分よりも長い時間。
ならもういいじゃないか。自分に代わってくれたって。
……あの、事件の時。
美鳥夜に体を返したのは、自分だ。確かに自分の意思によるものなのだ。
身に余る力を得て、それでも家族を護る為に戦い続けた彼女の善性は
今も確かにそこに存在する。
でも、憎い。
もはや理屈ですらない。感情が抑えきれない。
自分が欲しくて欲しくてたまらないものを目の前でチラつかされている。
中にはそれを粗末にして、無下にして、自分は不幸だとのたまう奴もいる。
彼女は美鳥夜を通して、度々それを見せつけられる。
だったら寄越せよ。私に。
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それが違いだ。姉と弟の。
今回のこの数奇な巡りの果て、姉の再臨ができれば重畳だが、
弟……繋譜音からしたら、成功しても失敗してもこれ限り。
元より本人はとうの昔に死んでいる。今いる彼は亡霊のようなもの。
何をどうしたってもう、次が無い。
だけど姉は違う。この試みで変化が生じなければ、またあの不毛の荒野を
延々と歩み続けることになる。彼女だけは『これで終わり』にならない。
だから諦めきれない。強く優しい姉、という幻想を抱え続けられない。
全部踏み躙ってしまえばという思いが、どうしても漏れ出でる。
その変化は。煮えたぎる感情は。
少しずつ、少しずつではあるのだが───
兄と、
妹を、
染めて行く。
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[845 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[409 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[460 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[150 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[311 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[202 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[149 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[68 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
―― Cross+Roseに映し出される。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
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白南海 「・・・ロストの情報をやたらと隠しやがるなワールドスワップ。 これも能力の範疇なのかねぇ・・・・・とんでもねぇことで。」 |
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白南海 「異能ならリスクも半端ねぇだろーが、なかにはトンデモ異能もありやがるしねぇ。」 |
不機嫌そうな表情。
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エディアン 「私、多くの世界を渡り歩いてますけど・・・ここまで大掛かりで影響大きくて滅茶苦茶なものは滅多に。」 |
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エディアン 「そういえば貴方はどんな異能をお持ちなんです?」 |
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白南海 「聞きたきゃまずてめぇからでしょ。」 |
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エディアン 「私の異能はビジーゴースト。一定の動作を繰り返し行わせる透明な自分のコピーを作る能力です。」 |
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白南海 「あっさり言うもんだ。そりゃなかなか便利そうじゃねぇか。」 |
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エディアン 「動作分の疲労は全部自分に来ますけどねー。便利ですよ、周回とか。」 |
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白南海 「集会・・・?」 |
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エディアン 「えぇ。」 |
首を傾げる白南海。
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エディアン 「――で、貴方は?」 |
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白南海 「ぁー・・・・・どうすっかね。」 |
ポケットから黒いハンカチを取り出す。
それを手で握り、すぐ手を開く。
すると、ハンカチが可愛い黒兎の人形に変わっている。
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エディアン 「わぁー!!」 |
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エディアン 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・手品の異能ですかー!!合コンでモテモテですねー!!」 |
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白南海 「なに勝手に変な間つくって憐れんでんだおい。」 |
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白南海 「糸とかをだなー・・・・・好きにできる?まぁ簡単に言えばそんなだ。 結構使えんだよこれが、仕事でもな。」 |
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白南海 「それにこれだけじゃねぇしな、色々視えたり。」 |
眼鏡をクイッと少し押し上げる。
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エディアン 「え!何が視えるんです!?」 |
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白南海 「裸とか?」 |
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エディアン 「ぇ・・・・・」 |
咄嗟に腕を組み、身構える。
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白南海 「・・・嘘っすよ、秘密秘密。言っても何も得しねぇし。」 |
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エディアン 「ケチですねぇ。まぁ私も、イバラシティ生活の時の話ですけどねー。」 |
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白南海 「・・・・・は?」 |
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エディアン 「案外ひとを信じるんですねぇー、意外意外!」 |
そう言ってチャットから抜けるエディアン。
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白南海 「あぁ!?きったねぇだろそれ!クッソがッ!!おいいッ!!!
・・・アンジニティぶっ潰すッ!!!!」 |
チャットが閉じられる――