
声はすれども姿は見えず、けれど実体はそこにある。
H. G. ウェルズが『透明人間』で描いた怪人、グリフィン博士とそっくりの存在。
私の膚は生まれながらに透明で、実の親さえも本当の顔を知らずに
この体質が「ふつうの人」と違うことを知ったのは、いつのことだっただろう。
小さい頃の私は箱入り娘で、家の外に広がる世界から隔てられて育った。
先天性の異能は時として、保持者を苦しめることがある。
世の中に異能と呼ばれるものはさまざまにあり、その中には容姿に影響を与えるものも少なくはない。
一般的な人間―――いわゆる、ホモ・サピエンスからの外見的乖離をもたらす異能群。
伝説上のスフィンクスやハルピュイアも、異種族の因子をとりこむ異能の産物だったという人もいる。
生まれながらに人間らしく在れないものを、人々は隣人と認められるのだろうか?
時に祝福にさえ例えられる異能が、ごく当たり前の社会生活を送ることを不可能にする。
そんなことはあり得ない、と言う人もいるけれど、それは偶然にも知る機会がなかっただけのことだ。
私たちはつまり、自分とは違う存在を怖れてしまう生き物だ。それは仕方のないことだと思う。
けれど、《グレイゴースト》は異様さという一点において、他に類を見ないものだった。
はじめて『透明人間』を紐解いた日のことを、今もはっきりと覚えている。
グリフィン博士は研究の果てに透明人間となり、決定的に狂ってしまった。
父親を死に追いやり、友人の好意さえも振り払い、名前のない怪物に成り果てたんだ。
人でありながら怪物に堕ちた存在を怪人と呼ぶのであれば、彼ほどその名が相応しい人はいないと思う。
―――ああ、私は紙一重なんだ。
こんな体質だからこそ、私は誰よりも善良でないといけない。
疑われるような事をしてはいけない。怪しげな素振りを見せてはいけない。
「やっぱり怪物だった」なんて思われたなら最後、私は人間ではいられなくなる。
たった一度でも疑いをかけられれば、身の証を立てることも、善良さを証明することも望めない。
たとえ誰かが私をかばってくれても、疑いそのものは消えないのだから。
グリフィン博士が転げ落ちていった様子とそっくり同じだ。
疑心暗鬼を招いてはいけない。そんな恐怖が私の心を支配した。
それと同時に。
外の世界に恐怖を抱いた。両親が家の中に置いておきたがる理由も理解した。
私は外の世界から隔絶されて育ったけれど、何も知らされていないわけではなかった。
むしろパパもママも、積極的に教えようとしてくれていた様に思う。
いつか二人がいなくなって、私が一人で生きないといけなくなった時のために。
………私の家庭教師(ガヴァネス)は、いつも穏やかに笑う人だった。
物心ついたばかりの私の前に現れた、家族以外のはじめての人。
パパが連れてきたその人が、窓の外に果てしなく広がる世界のことを教えてくれた。
おとぎ話の魔法使いみたいに、何を聞いても答えてくれた。
美しいものと、醜いものの話をしてくれた。
世界の驚異を。数理の神秘を。神々の伝説を。人の歴史を語ってくれた。
アブラカタブラ、なんて呪文もなしに、世界のどこへでも連れて行ってくれた。
世間知らずの私がソラコーで何とかやっていけてるのも、たぶんあの人のおかげだよね。
彼女との別れは、11歳の春の日のこと。
「透明人間の異能」について、専門の研究所で本格的に調べることになったんだ。

[842 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[382 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[420 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[127 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[233 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[43 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[27 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
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白南海 「・・・・・おや、どうしました?まだ恐怖心が拭えねぇんすか?」 |
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エディアン 「・・・何を澄ました顔で。窓に勧誘したの、貴方ですよね。」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
落ち着きなくウロウロと歩き回っている白南海。
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白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!! 俺これ嫌っすよぉぉ!!最初は世界を救うカッケー役割とか思ってたっすけどッ!!」 |
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エディアン 「わかわかわかわか・・・・・何を今更なっさけない。 そんなにワカが恋しいんです?そんなに頼もしいんです?」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
ゆらりと顔を上げ、微笑を浮かべる。
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白南海 「それはもう!若はとんでもねぇ器の持ち主でねぇッ!!」 |
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エディアン 「突然元気になった・・・・・」 |
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白南海 「俺が頼んだラーメンに若は、若のチャーシューメンのチャーシューを1枚分けてくれたんすよッ!!」 |
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エディアン 「・・・・・。・・・・他には?」 |
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白南海 「俺が501円のを1000円で買おうとしたとき、そっと1円足してくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
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エディアン 「・・・・・あとは?」 |
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白南海 「俺が車道側歩いてたら、そっと車道側と代わってくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
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エディアン 「・・・うーん。他の、あります?」 |
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白南海 「俺がアイスをシングルかダブルかで悩ん――」 |
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エディアン 「――あー、もういいです。いいでーす。」 |
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白南海 「・・・お分かりいただけましたか?若の素晴らしさ。」 |
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エディアン 「えぇぇーとってもーーー。」 |
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白南海 「いやー若の話をすると気分が良くなりますァ!」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!!!!!!」 |
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エディアン 「・・・あーうるさい。帰りますよ?帰りますからねー。」 |
チャットが閉じられる――