［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

　それでもすんなりと反応出来たのは、ただの幸運でしかなかった。
　《有有有利有利有利（アドアドアドバンテージテージ）》が機能したのか否かすら、認識する暇もない刹那。精巧な歯車仕掛けの機械人形に、小さな小石を差し込むように楔を打つことで相手の行動に割り込みを仕掛け、動作の起点を阻害し、機能停止に追い込む。一連の動作を、その刹那の間に行わなければならない。
　白衣から覗く試験管は、彼女の意思を具現化させる何らかの力だ。原理は知らないが、見たことはある。今まで経験したことのないような精密と心掛けたことのないような繊細さで、蓋を外さんとする彼女の機先を制し、力を行使する意思を削ぐ。倒すためでなく、勝つための一撃。
　──出来れば、傷をつけず。人を惑わせて喜ぶ邪悪な女神の掌の上で、それだけは己自身の確かな意思だった。



「……は？」

　思わず声が漏れてしまった。
　間抜けな声だ。目の前の現実が理解できていない証拠の、感想でも分析でもなければ、電気信号が脳を経由せずにこぼれ出てたような疑問の声。仮にも研究者の助手を務める者として、こんな反応は下の下だろう。開発薬科茅芽研究室の名に泥を塗ってしまった。

「これは……読めなかったわ。別行動だとこういうことも起こりうるのね。勉強になったわ」

　先刻、チャット機能で通信を行ったばかりの上司が告げる。それなりの覚悟を持って別れた上司が目の前に現れたのだから、虚を突かれたのは仕方ないだろう──それも、別れてからの行動を確認しあった直後のことだ。報告の途中、近くに人影が見えたので、通信を切り上げた。アンジニティ陣営との遭遇と戦闘という最悪の事態を想定してのクレバー極まりない行動だったのだが。

「いやいやいや、いやー……茅芽さん？　こんなところで何を……？」
「せっかくだし、そうね。手合わせ願えるかしら？……ねえ聞いてる？」
「あれ？　ランデヴー地点ってここでしたっけ？　違いますよね？　なんで？？」
「……もちろん手は抜かないから、安心してそこで倒れていきなさい」
「え、あれ。マジでやるんですか？」
「……まあ本気で殴り合おうとまでは考えていないけれども……」

　小さく笑ったように見えたのは気のせいだろう。混乱と動揺が、必要以上に過敏に反応しているだけだ。運命のいたずらで相対することになった上司が、困惑し続ける部下を前に、笑うはずなど無いのだから。

「せめて怪我しないようにちゃんと構えてなさいね？」

　そう言って、こちらの都合などお構いなしに、上司は普段通りの自然な構えを取った。お世辞にも格闘技経験があるようには見えない華奢な身体とは裏腹に、戦闘体勢自体は堂に入っている。研究室での研究が主な仕事だと聞いていたが、過去に戦闘の経験でもあるのだろうか。
　最悪の事態とは、敵対陣営との戦闘などではなかった。敵と戦うのは義務だ。仕事であり、役目でもある。元来好まないような暴力行為でも、なんとでも理由をつけて誤魔化すことが出来る。
　最悪の事態とは、敵と戦うことでもなければ、戦闘に負けることでもない。牙を鳴らし吼える竜が行く手を遮ろうとも、百万の敵が立ちはだかろうとも、それは決して最悪ではなかったのだ──茅芽笹子その人に、刃（ワイヤー）を向けることに比べれば、この世の事象のすべてが最善だ。
　事前の想定が甘すぎたと認めざるを得ない。別行動のリスクは十分考えたつもりだった。だからこそ、純粋に詰めが甘かった。
　直感は、何も囁かなかった。




　とはいえ、仁王立ちで防戦一方というのはいただけない。同行者に不審がられるのも面倒だし、何よりも自分の知っている上司ならば、そんな手抜きは許さないはずだからだ。気は進まないが、言葉通り怪我をしないようにちゃんと構える。
　右足を半歩下げ、半身になって相手を見据える。上司と違って格闘技経験もないわけではない（柔道初段）。それでも、構えは全く経験を生かさない我流のものと決めていた。ワイヤー片手に、掴んで投げるような戦いをするのは得策ではない。

「異能──」

　彼が持つ異能は、直感の強化だ。
　その名の通り””リスクリターンの直感を強化する異能””だと考えているし、認識通りの効果を発揮しているものと認識している。認識外の能力は、今のところ認識していない。認識外なのだから当然と言えば当然か。
　直感の強化とは何か。本当に強化されているのか。強化されるのは本当に直感だけなのか。それも単なる偶然と思い込みではないのか──疑えば疑うほどに疑わしい。正しく己の異能を認識し、己の異能に認識外の能力が無いと言い切れる者など、この世に存在するのだろうか。

「””有有有利有利有利””！！」

　別に掛け声などなくとも異能は発動できる（と思っている）のだが、気分の問題で彼は大きく異能名を唱えた。
　異能とは逆説だ、と彼は思っている。
　現実に生じた結果に至る過程を検証する中で、超自然要素無しには説明が難しいものに当たった時、人は初めて異能の存在に目を向ける。他の人に出来ないことが自分には出来る、だから自分は異能を──他とは異なる能力を持っていると思うに至る。《有有有利有利有利（アドアドアドバンテージテージ）》なる異能は、彼だけが存在を信じているだけの、ただの偽薬に過ぎないのかもしれない。発動の実感が自分にも分からないのだから、それを妄想であると断ずることは誰にも出来ない。異能の観測には、他者の目線より先に、自己の認識が必要だ。一度認識さえしてしまえば、紛れもなくそれは異能だ。

「ほら、ボーっとして！　そんなんじゃ怪我するわよ？」

　上司に忘我を指摘される。ふと我に返った時には、結果が生じていた。逆説的に考えていく。先刻まで数歩先にいたはずの上司が、密着するほどの至近距離に移動している。強化された直感強化による自己強化が生じていない。一方で、肉体へのダメージは無い。構えに割って入り、発動を封じたのだろう。予備動作の隙を突かれた。
　発動するつもりだった異能は、直感強化の強化系の一つだった。強化された直感で相手の行動を一手早く掴むことで、反応速度を疑似的に高める。スリッピング・アウェーや消力のようなお伽話じみた効果は望むべくもないが、当たり所さえ外せれば被害をいくらかは軽減できるため、相対的に耐久力は上昇することになる。
　当然、代償もある。戦闘中に走らせている基礎的な直感の上に更に強化を重ねることで無理やり自己強化を実現しているのだ。一人で扱える異能の許容量を超えるのだから、肉体と精神へ負荷も重く、戦闘中に数分の仕様が限度だった。リスクを考えれば、これ以上の使用は試すのも難しいだろう。最悪の場合、ハザマで身動きが取れない事態に陥ってしまいかねない。

「ねえ、こんな機会だから無茶しない範囲で、改めてお互いがどう動けるのか知れるいい機会だと思わない？」

　唇の動きがはっきりと見えるほどの距離だ。この距離ではワイヤーも効果を発揮しにくい。おまけに動揺も激しかった。二人で踊っている最中、耳元で睦言でも囁かれたような精神的動揺を立て直すべく、一旦退いて距離を取る。
　大地を踏みしめ、構え、解き放つ。腰だめに構えた拳のうち、三指に括り付けたワイヤーが跳ぶ。小指と薬指は握りしめたまま。ワイヤー自体は五指全てに括っており、二つを残したのは保険の意味合いが強い。
　腕と指のばねで十分に加速したワイヤーが走り、彼女の動作を牽制する。傷つけるためではなく、あくまで行動を制限するためのワイヤー操術。行動を潰すのは一度だけで良い。二度同じ手を使うほど、彼女は愚かではない。

「理解るんですよ。”””直感”””なんか無くても……」

　決断的な行動をする際に、彼女に生じる微妙な変化を読み切った。先んじて虚空に放ったワイヤーは、彼女の半歩先にある空間を切り裂く。行動を起こすタイミングを狂わされ、上司は小さく舌打ちした──ような気がした。あるいは部下の成長を喜んでいたか。そこまで確認するほどの余裕はなかった。
　構えていたのは試験管だ。解き放とうとした切り札は分からないが、何らかの液体、深緑の何かが蠢いているのが目視できた。致死性の猛毒ではない。多分。

「傍で見てきましたからね。戦いを！」

　その動作には、見覚えが無かった。少なくとも、記憶の中の茅芽笹子はその行動を取ったことが無かった。
　否、それは正確ではない──見覚えはある。しかし、よく知った彼女の癖ではなかった。目の前の上司、茅芽笹子と行動を共にする中で、何となく掴んだ癖だ。ハザマで過ごす中で知った、新たな情報。

　それでもすんなりと反応出来たのは、ただの幸運でしかなかった。

ENo.564 PSY.B.峰子 とのやりとり


ENo.831 Dr.笹子 とのやりとり

ItemNo.16 パンの耳（素揚げ） を食べました！
　体調が 1 回復！（25⇒26）
　今回の全戦闘において 体力14 幸運14 活力14 が発揮されます。
　今回の結果でのスキル熟練度が伸びやすくなった！

フィーコちゃん(132) から パンの耳 を受け取りました。

フィーコちゃん(132) から 触手 を受け取りました。

制約LV を 15 DOWN。（LV15⇒0、+15CP、-15FP）

武術LV を 10 UP！（LV15⇒25、-10CP）
響鳴LV を 10 UP！（LV15⇒25、-10CP）
合成LV を 5 UP！（LV10⇒15、-5CP）

ItemNo.2 黒い貝 に ItemNo.1 不思議な武器 を合成実験し、何か柔らかい物体 に変化することが判明しました！
　⇒ 何か柔らかい物体／素材：強さ10／［武器］治癒10(LV20)［防具］命脈10(LV25)［装飾］防御10(LV20)／特殊アイテム


Dr.笹子(831) により ItemNo.15 パンの耳 から料理『すごいパンの耳』をつくってもらいました！
　⇒ 美酒佳肴！［ 1 4 6 = 11 ］成功！料理の付加効果のLVが増加！
　⇒ 技巧料理！［ 3 3 6 = 12 ］成功！料理の強さが増加！
　⇒ すごいパンの耳／料理：強さ68／［効果1］体力13 ［効果2］幸運13 ［効果3］活力13

オニキス(301) の持つ ItemNo.17 石櫃 に ItemNo.1 駄物 を付加しました！
麺屋の龍人(1595) の持つ ItemNo.13 対兵器製麺機『ヘルファイア』 に ItemNo.1 駄物 を付加しました！

Dr.笹子(831) により ItemNo.19 硬質ワイヤー"FLAME Ⅲ"３ に ItemNo.16 触手 を付加してもらいました！
　⇒ 硬質ワイヤー"FLAME Ⅲ"３／武器：強さ210／［効果1］体力20 ［効果2］器用20 ［効果3］－【射程1】

カゲ(1619) とカードを交換しました！

バーニングチューン （バーニングチューン）


インフェクシャスキュア を研究しました！（深度0⇒1）
エネルジコ を研究しました！（深度0⇒1）
グリモワール を研究しました！（深度0⇒1）

フィアスファング を習得！
ノクターン を習得！
ソウルビート を習得！

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

偽黒初(77) は 毒鉄鉱 を入手！
Dr.笹子(831) は 轟石 を入手！
Dr.笹子(831) は 何か柔らかい物体 を入手！
Dr.笹子(831) は 羽 を入手！

ヒノデ区 Q-13（森林）に移動！（体調26⇒25）
ヒノデ区 Q-14（森林）に移動！（体調25⇒24）
ヒノデ区 R-14（沼地）に移動！（体調24⇒23）
ヒノデ区 S-14（沼地）に移動！（体調23⇒22）
ヒノデ区 T-14（沼地）に移動！（体調22⇒21）

［822 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［375 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［396 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［117 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［185 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型



―― Cross+Roseに映し出される。

　

　

　










　





チャット画面に映る、４人の姿。

　

　






　







少しの間、無音となる。

　






くんくんと匂いを嗅ぐふたり。
















　

　

　

３人の様子を遠目に眺める白南海。





　

　

　

チャットが閉じられる――