一番初めにハザマに飛ばされた時にブチのめした赤くてドロドロした化物。
ナレハテとか呼ばれてたソレは「元は人間」だったらしい。
この戦争の主催者二人もナレハテの正体は初めて知ったらしく、混乱した様子で言い争っていた。
あのタクシーの運転手マジでブッ飛ばしてェ。
あの時のナレハテは…死んだ、ンだよな。
「あの化け物は。
俺が、殺した、……のか。」
”怖がらせてるつもりはないんだ。だって、殺す覚悟もないのに殺しちゃった……じゃ、後から辛くて死にたくなっちゃうかもしれないじゃない?“
父親(アイツ)の住んでるアパートで笑顔の男に言われたことを思い出す。
死にたくなる。という感情はこの数時間でとっくに麻痺していて、それよりも
「アレになってみんなを守れなくなるのは嫌だな」という思いがこの体を支配している。
「置いて行きたくねェな。伊藤君も辺見も…岬の事も」
罪悪感があまり湧いてこないのはアンジニティの連中と何度もヤリあったせいか。
俺自身化け物になりたくねェし、もちろん仲間が化け物になッちまうのも嫌だ。
さっきの戦闘では辺見と俺がバニー衣装になって色んな意味でスゲェ焦ったし
皇嶽先輩もアンジニティとして襲ってきたし……このタイミングでナレハテまで乱入してくるし
正直もう頭を使いたくない。
「ダッリィ……」
中学の時と同じ。嫌な事ばかりだ。
「はやく、帰りたい」
この馬鹿みてェな状況をさっさと終わらせて、はやくイバラシティの家に帰りたい。
イバラシティではもうすぐ期末だし、
それ済んだら夏休みを満喫して岬と遊びに行っていい感じの雰囲気になったところで
俺の気持ちを伝える予定なンだよ。
負けるか。死ねるか。
邪魔すンな。クソが。
歯を食いしばり、バットをキツく握った。
戦うしかねェ。ここじゃ戦うしかねェンだ。
「ブッ潰す……敵は全員ブッ倒す」
答えは最初(ハナ)から決まっていた。
人間なんてとっくに辞めちまってるのに、この上俺は「何」になるンだ?
影響力のない人間は別のなにかになッちまうのか。
皮肉だな。
俺が人間だった時なんてありゃしねェのに。
まっとうな「自分」なんて、とうの昔にどっかに行っちまったのに。
自分を見失って
公園でゴミと一緒になって過ごして
変な奴らに拐われて怪人になって
最終的にはナレハテ、か。
お似合いじゃねェかよ加唐勇空。
俺はまだこのハザマで戦果を上げていない。
アゲハの邪魔をして、その辺のハザマの生き物を放り込んだだけ。
怪人としても人間としても中途半端なまま
このままだんだん体が変化していくのを待つだけだ。
最初(ハナ)ッから自立なンて出来るわけがなかったンだ。
このままハザマの生き物になッちまったら、
もしかして俺自身が影響度の点数背負った獲物になって
倒される事でどっちかの陣営の誰かの役に立てるのかなんて考える。
ずっとこんな感じだ。
ずっと俺の人生はこんなふうに
抽象的な誰かに俺自身の破壊を期待をしている。
『……嫌だ』
嫌だ。
嫌だ。嫌だ、嫌だ。
嫌だ死にたくない。
死にたくないのに戦うことも嫌だ。
酒が欲しくてたまらない。もうウンザリだ。
こんな時にも酒に縋ろうとする自分が一番嫌だ。
『チクショウ… なんだって俺なんだ。なんだっていつも俺ばかり上手く行かないンだ』
優しい音楽が欲しい。
騎士淵さん、俺もそっちに行きてェよ。
D.Dを続けたい。
どんな形でも避田の連中と青春を追いかけるのが嬉しかった。
息子に謝りたい。
ガキの頃、傷つけたことを。俺が怪人(こっち)側にいる事を
異能を恨んだ事を
話を聞かなかったことを
父親だった事を忘れてなにもかも見ないふりをした事を
まだやりたい事が
イバラシティでたくさんあるッつーのにどうして
『そうだ……月島さん。 月島さんは大丈夫なのか…???』
イバラシティでの出来事を思い出す。
避田に連れてった時、戦うのはあまり得意じゃないと言っていた。
藝術展で知り合ったアーティストさん。
もし陣営がどちらでもヤベェンじゃねェのか?
慌てて俺はクロスローズの画面を開いた。

[822 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[375 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[396 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[117 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[185 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
アンドリュウ
紫の瞳、金髪ドレッドヘア。
体格の良い気さくなお兄さん。
料理好き、エプロン姿が何か似合っている。
ロジエッタ
水色の瞳、菫色の長髪。
大人しそうな小さな女の子。
黒いドレスを身につけ、男の子の人形を大事そうに抱えている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
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アンドリュウ 「ヘーイ!皆さんオゲンキですかー!!」 |
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ロジエッタ 「チャット・・・・・できた。・・・ん、あれ・・・?」 |
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エディアン 「あらあら賑やかですねぇ!!」 |
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白南海 「・・・ンだこりゃ。既に退室してぇんだが、おい。」 |
チャット画面に映る、4人の姿。
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ロジエッタ 「ぁ・・・ぅ・・・・・初めまして。」 |
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アンドリュウ 「はーじめまして!!アンドウリュウいいまーすっ!!」 |
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エディアン 「はーじめまして!エディアンカーグいいまーすっ!!」 |
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白南海 「ロストのおふたりですか。いきなり何用です?」 |
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アンドリュウ 「用・・・用・・・・・そうですねー・・・」 |
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アンドリュウ 「・・・特にないでーす!!」 |
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ロジエッタ 「私も別に・・・・・ ・・・ ・・・暇だったから。」 |
少しの間、無音となる。
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エディアン 「えぇえぇ!暇ですよねー!!いいんですよーそれでー。」 |
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ロジエッタ 「・・・・・なんか、いい匂いする。」 |
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エディアン 「ん・・・?そういえばほんのりと甘い香りがしますねぇ。」 |
くんくんと匂いを嗅ぐふたり。
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アンドリュウ 「それはわたくしでございますなぁ! さっきまで少しCookingしていたのです!」 |
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エディアン 「・・・!!もしかして甘いものですかーっ!!?」 |
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アンドリュウ 「Yes!ほおぼねとろけるスイーツ!!」 |
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ロジエッタ 「貴方が・・・?美味しく作れるのかしら。」 |
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アンドリュウ 「自信はございまーす!お店、出したいくらいですよー?」 |
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ロジエッタ 「プロじゃないのね・・・素人の作るものなんて自己満足レベルでしょう?」 |
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アンドリュウ 「ムムム・・・・・厳しいおじょーさん。」 |
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アンドリュウ 「でしたら勝負でーすっ!! わたくしのスイーツ、食べ残せるものなら食べ残してごらんなさーい!」 |
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エディアン 「・・・・・!!」 |
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エディアン 「た、確かに疑わしい!素人ですものね!!!! それは私も審査しますよぉー!!・・・審査しないとですよッ!!」 |
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アンドリュウ 「かかってこいでーす! ・・・ともあれ材料集まんないとでーすねー!!」 |
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ロジエッタ 「大した自信ですね。私の舌を満足させるのは難しいですわよ。 何せ私の家で出されるデザートといえば――」 |
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エディアン 「皆さん急務ですよこれは!急務ですッ!! ハザマはスイーツ提供がやたらと期待できちゃいますねぇ!!」 |
3人の様子を遠目に眺める白南海。
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白南海 「まぁ甘いもんの話ばっか、飽きないっすねぇ。 ・・・そもそも毎時強制のわりに、案内することなんてそんな無ぇっつぅ・・・な。」 |
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白南海 「・・・・・物騒な情報はノーセンキューですがね。ほんと。」 |
チャットが閉じられる――