
――前回の話だ。
あの事件が終わり、解散した後の事。本来なら教会に戻り、結果を報告する筈だが……人の通りが少ない夜の橋の下で座り込んでいた。人前こそいつもの振る舞いをしていた彼女でも、短時間の出来事で全て思い出してしまったために顔を真っ青にして震える。
どうして死んだはずの自分が生きているのか、どうして違う世界に居るのだろう、自分の持つ力は何なのか、そして今の自分は何者なのか……
疑問を解決しようにも更に疑問が重なり、答えのない思考の渦の中――
『ついに思い出したか』
脳裏から響き渡る男性の様な声、はっと顔を上げると大きな黒い毛並みの狼の姿があった。少女はその黒狼の名を知っている。
「……リグニス」
『よかった、我の名も思い出したみたいだ。さて、どこから話せばいいか……』
黒狼から自分の気になる事を教えてくれる……と思いきや、目の前にガラの悪い服を纏った男性が通りかかり、偶然少女と目が合ってしまう。しかも……
「おやぁ? こんな時間であんな場所に女の子が居るなんてな。迷子か?」
「いや、服の綻びから捨て子かもしれないぜ」
あの男たちが持っているのはバット、しかも所々に返り血らしきものが付着していた。これらのキーワードと男二人のやり取りで恐怖を覚え……
「なら、丁度いい。俺たちの所に行くかい? ほら手を」
差し出された手を見れば、咄嗟にその手を振り払い、立ち上がった。
「なっ! お前、人の善意をなんだというのだ!」
全く善意を感じない。何故なら彼らの匂いから悪意、弱い人間を弄ぼうという願望に満ちている事を鋭い嗅覚が訴えているから。
「生意気なガキだな。大人しく応じてくれれば荒っぽいことをせずに済むのに」
どの道荒っぽい事をする。何故なら彼らの声から優しく対応するとは思えない事を鋭い聴覚が訴えているから。そして、彼らの目やバットを持ち上げる行動から、そう簡単に逃してはもらえない事を鋭い視覚と判断力が訴えている。
『この場を切り抜けたければ、我に委ねよ』
黒狼の要求に頷き、そして……
「ここで拒んだことを後悔するんだな!」
「おらぁぁ!」
バットとぶつける音が聞こえ、男性たちの悲鳴が聞こえ、そして気がつけば男二人は死にはしなかったが全身ボロボロ、バットも下敷きになっていた。
「く、くそぉ……」
「ば、化け物め……」
それだけ言い残し、男性たちは気を失う。黒狼なりの慈悲であり、再び動かないうちに退散しようとした所で……非常に不運な事が起きた。
「誰だ、こんな所で何している!」
一人の警察官が懐中電灯を持って黒狼に光を向ける。激しい物音と男性たちの悲鳴で駆けつけたのだろう。咄嗟にこの場から離れるために素早い足で走り出し警察官の目からくぐり抜けた。
『……すまないな、逃げるためとはいえ大事になってしまった』
橋の下から脱出し、道路を走っているため人々が気づいて目を向けられてしまう。夜とはいえ、明るい町並みの影響でよく見える。
『もうこの世界では長く居れない、移動するぞ。はあああぁぁぁぁ!!』
魔力を最大限捻出して目の前にホールを出現、黒狼はその中を入ると同時にホールは消える。
これがあの事件の後の少女の行動であり、これを最後にこの世界から少女の姿が無くなるのであった。
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リグニス 「……む、我の底からシズルの意識を感じる。すぐに忘れるであろう夢を見ているのか、それとも……」 |
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ホンダワケ 「おやおや~、人間側の君から繋がったとか、そんな所かい? そうだよなぁ、相良伊橋高校のイノカク部で選抜戦優勝、代表に選ばれて交流戦にも全力を出し尽くしていたみたいだね~」 |
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リグニス 「貴様は何故そこまで知っているのだ。交流戦には『彼』は観戦してなかったぞ」 |
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ホンダワケ 「まぁまぁ、ネットの情報もそうだけど、シズル本人がそう話してくれたじゃないか。そこからだと思うな」 |
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リグニス 「そうか……。記憶を思い起こす限り、普通の召喚術、聖獣の召喚術だけでなく、召喚獣の力を借りて身体変化させる技術も使うようになったとは……」 |
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ホンダワケ 「傍から見れば目覚ましい成長とも言えるし喜ばしい限り、なんだけどね~」 |
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リグニス 「だが、同時に周囲から見ればシズルの異能の原理が更に不明な物となる」 |
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ホンダワケ 「だって、聖獣クラスを呼び出せる上にその気になればそのレベルの複数体の召喚も出来るじゃないか、通常なら負担がかかってばったんきゅーだよ。ねぇ、この件についてどう思う、ミキちゃん?」 |
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ミキ 「シズルの異能について色々と不可解な所はあります。が……現状、緊急で病院で調べる必要はありません。ただでさえこのご時世で余計なことで病院に来てもらいたくないですからね」 |
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ホンダワケ 「そっかぁ~……。それじゃいつ調べたいとか思っているわけ?」 |
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ミキ 「受験のことも踏まえ、夏休み中にはしたい所ですね。何なら、このハザマで貴方の事を調べてもよろしいですけど? リグニス」 |
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リグニス 「……まぁ、考えておこう。まだ時間は有る、焦らずに使命を全うするさ」 |
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リグニス 「さて、ハザマでのシズルの意識が戻るのも時間の問題か……。変なタイミングで戻らなければよいのだが」 |

[770 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[336 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[145 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[31 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
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白南海 「うんうん、順調じゃねーっすか。 あとやっぱうるせーのは居ねぇほうが断然いいっすね。」 |
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白南海 「いいから早くこれ終わって若に会いたいっすねぇまったく。 もう世界がどうなろうと一緒に歩んでいきやしょうワカァァ――」 |
カオリ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、橙色の着物の少女。
カグハと瓜二つの顔をしている。
カグハ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、桃色の着物の少女。
カオリと瓜二つの顔をしている。
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カグハ 「・・・わ、変なひとだ。」 |
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カオリ 「ちぃーっす!!」 |
チャット画面に映し出されるふたり。
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白南海 「――ん、んんッ・・・・・ ・・・なんすか。 お前らは・・・あぁ、梅楽園の団子むすめっこか。」 |
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カオリ 「チャットにいたからお邪魔してみようかなって!ごあいさつ!!」 |
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カグハ 「ちぃーっす。」 |
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白南海 「勝手に人の部屋に入るもんじゃねぇぞ、ガキンチョ。」 |
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カオリ 「勝手って、みんなに発信してるじゃんこのチャット。」 |
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カグハ 「・・・寂しがりや?」 |
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白南海 「・・・そ、操作ミスってたのか。クソ。・・・クソ。」 |
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白南海 「そういや、お前らは・・・・・ロストじゃねぇんよなぁ?」 |
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カグハ 「違うよー。」 |
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カオリ 「私はイバラシティ生まれのイバラシティ育ち!」 |
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白南海 「・・・・・は?なんだこっち側かよ。 だったらアンジニティ側に団子渡すなっての。イバラシティがどうなってもいいのか?」 |
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カオリ 「あ、・・・・・んー、・・・それがそれが。カグハちゃんは、アンジニティ側なの。」 |
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カグハ 「・・・・・」 |
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白南海 「なんだそりゃ。ガキのくせに、破滅願望でもあんのか?」 |
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カグハ 「・・・・・その・・・」 |
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カオリ 「うーあーやめやめ!帰ろうカグハちゃん!!」 |
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カオリ 「とにかく私たちは能力を使ってお団子を作ることにしたの! ロストのことは偶然そうなっただけだしっ!!」 |
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カグハ 「・・・カオリちゃん、やっぱり私――」 |
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カオリ 「そ、それじゃーね!バイビーン!!」 |
チャットから消えるふたり。
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白南海 「・・・・・ま、別にいいんすけどね。事情はそれぞれ、あるわな。」 |
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白南海 「でも何も、あんな子供を巻き込むことぁねぇだろ。なぁ主催者さんよ・・・」 |
チャットが閉じられる――