
――話の続きをしよう。
ある日、教会の元に一件の依頼が入る。それは行方不明中の獣の亜人種の半魔の捜索と保護という内容であり、このまま見つからないとどうなるのか不安で仕方ない様だ。探偵事務所等に捜索依頼を出しており、彼らとの協力の形で少女は引き受ける事にした。
昼は聞き込み捜査をし、集めた情報を元に夜の街で探し回る、この繰り返しを数日続いた。中には当時最有力な情報を聞いてその場所に来た頃には亜人の姿は無く、同じく亜人を狙っていた武装した調査員と戦闘になって撃退する事もあった。
だが、調査員から聞いた生物研究の情報や今までの情報集める毎に胸騒ぎが強くなっていた。そう、どこか似ているのである……その似ているのは何なのか直ぐに繋がる事は無く……。
そして長きにわたる調査の末、亜人の居場所を突き止めて夜その場に向かってみると……犬のような耳と尻尾と所々の体毛が生え、唸りながらこちらに見つめる女の子の亜人の姿を見つける。
その姿に胸騒ぎを抑えきれないまま優しく声を掛け、助けに来たと伝えて見ると女の子は少女に顔を見て少しして警戒を解き、こちらに近づいてくれた。よしよしと頭を撫でてこのまま保護しようとしていた所、後になって違う面々の武装した調査員とその研究員を束ねている悪魔の姿に近い科学者が現れる。
「この子は渡さないよ! 助けるって決めているからね」
協力者と一緒に女の子の前に立ち、守る姿勢を見せる……これもどこか似ていると感じながら。
『渡さない? 助ける? ……馬鹿な。その子は我々の物で、大事な研究材料なのだよ』
研究材料……先程から胸が強く拍動しており、息が少し荒れる。それでも堪え、話を続ける。
「そんな事無い! 異変が出るまでは人間として生活していて、今回の依頼だってこの子の友達からのものだよ! あんた達に最初から縁なんて……」
『では、生まれが我々の研究室だったらどうだ?』
その一言で、続いて開こうとしていた少女の口が止まった。女の子も耳を塞いで怯えている……。
『完璧で最強の獣を生み出すために生まれ、少しずつ育てていたのに……あの邪魔者が入って奪われ、術か何かで人間の姿で普通に生活していたみたいだが……でもやはり五年経過すりゃガタが来るものだな。作り物は作り物、結局我らの元に戻ればいいんだよ』
「嫌! あたし、もう戻りたくない! 痛く、苦しい所に居るより、大変だけど楽しい人間の世界に居たい!」
女の子の強い訴えで一瞬我に返る少女であるのだが……
『これ以上絆されて失敗作にしたくないのだ、さぁ死にたくなければその子を渡せ!』
「……っ!!」
少女の奥底に眠る何かが目覚める音、そして踏み込んではいけない一線を越える音が聞こえた。
この世界、この街は人外魔境であり、半魔に関するトラブルや研究に関する話でこの手の物があってもおかしくないのは最初から分かっていた。
――だが、一部違うとはいえ、運命の悪戯なのか……ここまで過去の自分と似ている出来事に遭遇するなんて。
「許さない、戻りたいと強い意志があるのに、それでも引き戻そうとするあんた達を許しておけない!」
先程以上の覇気のある声と目つきで悪魔を見据える。気持ちは協力者も一緒のようで、このまま全力で戦闘準備に入る。
『全く……だが、全力で来るのなら、死以上の苦しみを与えてやろう』
そして戦闘が始まった。武装調査員の力も先程以上に手強く、悪魔も一帯を支配権に入れて世界律で行く手を阻む。だが、それがどうしたと言わんばかりに世界律一つを無効化し、容赦のない攻撃を持って調査員を倒す。そして少女は召喚獣で守りに徹しながらも、悪魔だけが残った時に怒りに身を任せて黒狼の姿に変え……
そして気がつけば、悪魔はボロボロの姿で、しかも満面の笑みを浮かべて黒狼を見つめる。
『あっはっはっは……こんな所に素晴らしい成功作を目にするとは。お前を生んだ研究者、さぞ惜しかろうな……』
それだけ告げて、消滅していった。
あれから、亜人の女の子は元の人間の姿に戻り、お礼や報酬を渡すために教会に訪れていた。あの一件の後、女の子は教会の方で半魔に関する知識や制御の事を学び、更に人間社会に溶け込めるように頑張るようである。そして、あの時助けてくれた少女にもお礼がしたいと言うのだが……
――その時には少女の姿が無かった。
 |
ホンダワケ 「またあの黒狼、どこかに行ってる。……まったく」 |