まだ僕が小学校低学年の時。
ノートに落書きをされた。教科書をびりびりに破かれた。
上履きを隠された。給食の牛乳を頭から掛けられた。

殴られた。蹴られた。罵声を浴びせられた。

“やーい、呪いの子！”
“なよなよしてて気持ち悪いんだよ！”
“お前のせいで○○はあんなことになったんだからな！”

僕は、苛められていた。

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当時、僕は未来を視る事を覚えていた。
同級生たちは、こぞって休み時間には僕の席に集まって、尋ねてきた。

“今日の運勢を視て欲しい。”
“将来はどうなっているだろうか。”
“噂のあの子は実際どうなの？”

ありきたりの、誰もが気になる質問。特に子供たちにとっては刺激的なものだったのだろう。
僕は、聞かれれば素直に視たし、全て隠さず答えた。

ある日、とある子の未来を視た。
クラスの人気者である男の子。名前はもう忘れてしまったけれど。
でもそんな彼は、数日後に、事故で亡くなる。そう僕の目には視えた。

恐ろしかった。だから、素直に教えてあげた。
気を付けて。この道の此処を通ったら危ないから。

しかし。

その子は、死んでしまった。

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その日を境に、同級生たちの目が変わった。
僕を、おぞましい化け物でも見ているかのような、冷たい目。
同じ子供の死を言い当ててしまった僕は、只の化け物、という訳らしい。
当時の僕はそんなこと、全く分からなかったから、困惑するばかりだった。

変わったのは、同級生たちだけじゃない。
彼らの親も、僕を見ると同じような目をした。
時には家まで来て、学校に来させるな、と言う事もあった。

その度に応対に出ていた母は、いつも謝っていた。
気弱で、優しかった母。
いつも僕の頭を撫でて、泣いていた。

“ごめんね。ごめんね朔間。貴方は気にしないでいいのよ。”

その言葉は、今も僕の耳に残っている。
苛めは、暫くの間続いた。

子供たちは純粋であり、無邪気であり、時に残酷だ。
教師に咎められれば、バレないようにやる手段で続ける。
大人はもっと狡猾だ。子供よりも賢く、優位に。人を追い詰めていく。

学校の教師は、気づく余地も無かった。
調査をしても芳しくない結果ばかり。
実態が掴めなければ、彼らは動くことが出来ない。
何人かの熱意ある教師は別だったかもしれない。
不幸にも僕の周りにはそういった教師はいなかった。

僕は、学校に行かなくなった。

僕は1人だった。話し相手は、家にあった花の植木鉢。
花は何でも聞いてくれたから、好きだった。
母と料理をする時間も、好きだった。楽しかったから。

その時から、趣味は園芸と料理になった。

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しかし。
学校に行くのを止めてからも、糾弾は続いた。母は何度も謝り続けた。
そのせいか、ストレスからか、病を患った。

小学校を卒業する頃、母は、死んだ。


そしてその頃から、父が僕を殴るようになった。

---

小学校を無事卒業したら、次は中学校。義務教育であるが故に、何もしなくても行く学校はあった。
でも、今住んでいる場所では大変だろうからと、引っ越すことになった。

引っ越した先で中学校に通うようになって、僕は自分を変えることにした。
髪を伸ばして、異能が発動しないように眼鏡を誂えて、手袋をして。
人と話すときはいつも笑顔で、当たり障りのない事を言った。

友達と互いに呼べる人間はいなかった。
僕が勝手にそう思う事はあったけれど、大概は僕から離れていく。
面白味が無かったからか、それとも都合が良かっただけか。

幸いにも、もう苛められることは無かった。

僕は友達だと思っても、それらしく過ごしていれば問題はない。
その方が平和に過ごせるから。

でも時には寂しくなって。スキンシップが出るようになった。
それは他の人には驚かれたし、怯えられることもあった。
どうしたらいいのか分からずに、罪悪感に心が押し潰されそうになった。
だから、笑顔で蓋をして、そっと離れることにした。

そうすればきっと、みんな嫌な思いをしなくて済むから。

---

父の暴力は、日々エスカレートしていった。
暴言を吐くだけでは収まらない。
殴り、蹴り、時には刃物を持ち出して切りつける事さえあった。

そういう時は、抵抗しない方が良かった。
早く終わるから。

“そんな目で俺を見るな！”
“他人を傷つけ不幸にしか出来ない忌々しい化け物め！”
“お前なんか生まれてこなければ良かったんだ！！！”


もう言われ慣れていた。僕が悪いからこうされる。
ならば何も言わずにいるのが良い。

これで、良いんだ。

---

高校3年生の冬、父は僕と縁を切った。
最後まで、化け物を見るような眼をしていた。

---

そうして現在。また、やってしまった。嫌な思いをさせてしまった。
異能関連ではないが、やっと友人と呼べた初めての人を。
裏切ってしまった。失望させてしまった。


や　は　り　僕　は　……


そう思ったけれど、首を横に振って淀んだ思考を追いやった。
違う。そうじゃない。
過去は過去。僕には友達が、いる。
諦めたくない、事がある。

もう、裏切るような真似をしてはいけない。
進まなければ。

---

――これが、五百蔵朔間（僕）の昔の話。
□□□□の記憶が無い、不完全なお話。

何がいけなかったのだろう。






他人が悪かったのだろうか。







何も、何も分からない。


『Cross+Rose』が問いかける。

"貴方は何処に居たいですか"

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3人の声が響いています。

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