
ある地点からなら最初区切られたとこ……ベースキャンプに戻れるみたい。
タクシー乗り場、って感じかな?
イバラシティの記憶が流れてくる。
この時期は卒業や退職のブーケ依頼が多くてあわただしい。
その間にみんなはお花見してたみたい。いいなー!
ツナグ君はゆっきーの妹さんを探してくる、って離れていった。
なにかあったら「チャンネル」で知らせること、って確認したからきっと大丈夫。
フーちゃんはそんなうちらを見ながら……いや、丁度いい岩に座ってずっとうつむいている。
ただ視界の端には入れてる、そんな感じ。
そっと隣の地面に座る
「今生きてるんだから、ね?」
最初の金髪の人と、あのアンジニティの人と。
あといつか合流したとき、すごく消耗していた。
何があったのかは知らない。
だけどたぶん、揺らいでいる。
けど、うちがかけるべき言葉は、わからない。
本当はこういうのって時間をかけて考えることのはずだし。
イキモノと戦ったとき、フーちゃんが倒れて、うちは立っていた。
それはフーちゃんが守ってくれたからだからなんだけど、それを伝えて元気になるようなもんじゃないことくらいはわかる。
「買い物できるだけの余裕できたしちょっとはまともになるんじゃないかな?」
だから、関係ない話をして立ち上がる。スカートの後ろをはたく。
「ってわけでちょっとお店見てくる」
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「みーつけた!」
お店の周りは流石に人が多くて、でもここに居るみんなはイバラシティのために戦う同志だからちょっと安心していた。
そこに響いた声はイバラシティで聞いた声。
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マガサローズガーデン、ばらの咲く庭
冬にバラが咲いてるのかなとも思ったけど開園しているなら見られるものはあるってこと。
バイトで切り花ばっかり見てたから自然……いや、手入れはされてるんだろうけど、植えられたってかんじの雰囲気でとって。
売り場とガーデンへのゲートをかねた建物に居たお兄さんは聞いたことに二つも三つも返してくれて、とても話しやすくて楽しかった。
でもそのままおしゃべりで満足しちゃいそうだったから初志貫徹、バラ園のほうに出た。
説明を受けていた通り、伸びる方向を定めなおされた植え込み、まだ自由に伸びて花をつけている植え込み。
色ごとに集めて植えられて、その区画を繋ぐように別の色のトンネル。
マガサは学校とも反対方向だし、あんまり来ることはなかったけどここに来るために通ってもいいな、って思った。
パンフレットによると五月くらいが見ごろらしい。その前の咲き掛けを見るのもきっと楽しそう。
そんなときだった。
「ねえ、」
黄色いバラがまばらについたアーチの下。
ほかに人は見当たらない。
ってことはうち?
「うんうん、そこのおさげのおねーさん」
振り返ると見覚えの無い二人が立っていた。
一人は大学生だろうか、少し落ち着いて見える。
もう一人は少女。愛菜くらいだろうか。
二人とも、新芽のような柔らかい緑の髪に、ただ金と言うにはもう少し深い色の瞳。
年上のほうはだいぶん伸びた髪をゆるっと高いところで結んでいて、
少女のほうは小さい子でも見ないおかっぱ。
「え、うち?」
「うん、うち~」
少女の方が満足げに笑う。
「えーっと、ごめんなさい。うちココのスタッフじゃないので案内なら――」
「きぃたちね、キミに用があるんだ」
「あの、えーっと、怪しいものではないです」
見かねたように女性のほうが割り込んでくる。
「見た目小さいんですから敬語くらい使ってよ……
すみません、私たち人を探しているんですけど、……ええと」
説明する言葉を探す女性に「んっふふ」と少女が笑って解を出す。
「この世界で言う異能? きぃたちのはもうちょっと違うんだけど、まー異能と思ってもらっていいよ
で、探しているものへの道が見えるんだよね」
「うちを探してたんですか? ちょっと……心当たりないんですけど」
できれば逃げ出したい。きっと顔にも出ている。
「うーん、それがね、違うんだ」
「は?」
「キミまでは『辿れる』んだけど、その先がみえないんだよね」
「……」
「あー、ほら完全に怪しまれてるよ! 名乗るのも遅れてすみません
シセ・フライハイトです」
「きぃはキズナ!」
「――浅岡百合子です」
思わず名乗り返してしまった。多分このくらい知っているだろうのに。
「えーっと、この世界の法則だとユリコがファーストネームだね?」
「……」
「……」
思考する。わけのわからない二人に翻弄されないように。自分を守るために。
「お二人は姉妹ですか? あとその言い方だとほかの世界から来たみたいに聞こえるんですけど……」
応えたのはシセさん
「片方あたりで、片方外れです。
確かに他の世界から来ました。私たちが似ているのは……縁があればお話します」
「他の世界からこの世界に探し……もの?人?」
複雑な事情がいくつも見える。友達でもない限り関わりたくないタイプ。
でも向こうは完全にうちをターゲットにしているくさい。やばい。
でも単純に気になって聞いた質問に緑髪の二人は顔を見合わせる。
困った、と言いたげにキズナが笑う。
どうやら彼女のほうが小さいのに引っ張る側っぽい。
「きぃは見たことないんだけど、っていうかシセも直接は見てないんだけど、」
いやいやいやかなり胡散臭い!やばい!
「あ、うん、わかるよ。 怪しいよね」
真鍮の瞳が年下のものとは思えない真剣さでうちを見る。
「でもそんな頼りない糸をたよりに進むしかないんだ、きぃたちには」
シセさんのほうを見れば自分の片腕をつかんで下唇をかみ締めて下を見ていた。
あー、はい。うちの良心がギブです。
「つまり、うちが協力すれば二人が世界渡ってまで探してるものにつけるかもなんですね?」
声のトーンが変わったのに気づいたのか、シセさんが顔をあげる。
ああ、そんなもしかしたらみたいな仔犬みたいな目はずるい!
「うん、そうなんだけど実際に会ったら続きの糸が見えるかなー、って思ったんだけど何にも見えないんだよね」
見つかるならって思った矢先に現実突きつけてくるこの子、人の心~!
いや、変に希望を持たせるより現状把握が大事なのはわかるけど!
「とりあえずユリコの生活の邪魔にはならないようにする。どこかで糸が繋がるかもだから様子は見るけど」
「え、うち監視されるの?」
「いやそこまではきぃもしないよ……」
普通にドン引かれた。
「今直接会ってユリコと繋がってる『糸』を見たから、糸の世界を意識してみれば変化があったらわかるから」
「その『いと』って言うのは人の繋がり――縁みたいなものって認識でいいの?」
「うん、そういうのでおっけー!」
「ま、ユリコは普通に生活してて大丈夫。そのどこかに『縁』があるはずだから」
「っていわれても意識するなあ……」
「今言える事は」
「ことは?」
「ここに入るときに貰った飴、おいしいよ」
「……はぁ」
「キズナ、それ以上はゆりこによくない」
シセさんがキズナの頭に手を置く。
そのままくるりと方向転換。
「あの、本当わけわかんないと思うけど……話聞いてくれただけでも本当感謝してます」
それじゃあ縁があれば、とシセさんはできる限り頭を下げて歩いていく……というかキズナを連れていく。
まじでなんだったわけ……?
頭を整理するために甘いもの――貰った飴を開ける。
「あ、おいしい」
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あの声だ。
バラ園以来一度も訪ねてくることもなかったから気のせいかとも思ったけどあれは現実だったらしい。
人の波を先にすり抜けて道を作るのはシセさん。
「……挨拶に迷いますね」
「あはは、まあこっちで会えて良かった」
「っとと」
少し遅れてキズナがバランスを崩しながらでてくる。
「ふぃー、いろんな人が居るね。私より小さい子までいたよ」
「それでも戦うって言うからすごい話ですよね」
「……そりゃ、今の生活壊されたくないし」
「――ああ、ゆりこもそうだったね。 で、どうです?」
促されてキズナが少し冷めた顔になってしまったと思う私の顔――いや、頭の後ろ?
頭だけじゃなくて体ごと見通すような、どこを見ているか解らない読めない焦点。
怖いと思う前にすいっと視線がはずされた。シセさんを見て頷く。
「うん、やっと『繋がった』」
ぐ、と服のすそをつかむシセさん。
「え、え?」
「ユリコ、この世界でのキミを追えばきぃたちは尋ね人に会えるみたい」
「それってその人がアンジニティってこと、です、か」
言葉にしながら背筋が冷えていく。
それはだって、つまり
私の知り合いが、アンジニティ――
シセさんもキズナも、何も言わない。
それが、答えで。
「最初に会えなかったからね。ここで待機してたら会えるかなと思ったけど読みが当たったね」
話を変えないでほしい。
「だからこれからはきぃたちも動くよ。 ユリコの友達関係とかあるだろうし少し離れて追いかける、うん」
「――」
「あ、今動いてる人たちは探し人じゃないみたいだから大丈夫」
何が大丈夫なの?
「じゃ、そういうことで、頑張っていこうか」
言いたいことだけ言って踵を返すキズナ。
思わず呼び止めようとした腕をつかまれる。シセさんだ。
「どれだけ汲もうとしても、今の私たちにゆりこのショックはわからない」
「だからあの子も最低限のことだけ伝えようとしたの」
「……ごめんね、ゆりこ」
「わか、り、ましたから」
すべてを飲み込んで、笑う。笑えているだろうか。
「ほら、置いていかれますよ?」
高校生がそんなに物分かり良いわけが無い。
シセさんの世界に高校があるのか知らないけれど、そういう年頃はきっとあるはず。
「ごめ……ありがとう」
一度だけ頭を撫でてシセさんも雑踏に消えていく。
***
これが誰かと居るときじゃなくてよかった。
いや、一人のときを待っていたのかもしれない。
少なくとも、建物に寄りかかって気持ちと向き合う時間が取れた。
***
「ごめんごめん、手持ちで買えるものでめっちゃ悩んじゃった!」
「今のうちに仕立てられてるものあるならやっちゃお! うちからはこれとこれを加工してほし~」
大丈夫。リリィは大丈夫。
ともだち
その誰かと、amitie でいられるかもしれない
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ともだちで、いられますように
リリィは、笑うから
百合子は、祈るから