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でんわのおにいさんと、
おみせのおねえさんと、
ぬいぐるみのおにいさんが、
わんちゃんさんを、くれました。
まほうみたいで、とってもすてき、です。
あんりおねえさんも、わんちゃんさん、すきかなあ。
それから、チトセおねえさんに、おはなのあめだまさん、もらいました。
あまくて、きらきらで、とってもいいにおい、です。
あかいろのチトセおねえさんも、あめだまさん、つくってるのかな…?
それから、
それから…
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「……のなら、いっそう……」 |
あのおにいさんが、いってたのと にていること、きいたきがします。
ずっとずっと、むかしに、
わたしがもっと、おおきかったときに、
にたことばを、

ふわふわして、
だんだん ちいさく なっていくみたい…
…なんだか、さみしい…
「フィンはずいぶん簡単に、他人に生きていて欲しい、なんて言うんだね」
あかくて、くろくて、きらきらしてて、おくがみえなくて、
きれいなものも こわいものも たくさんまざった こえがする
「だって、だってね、いきていると、きれいなものや、すてきなことに、たくさんあえるよ?」
「生きていて欲しい、も、死んで欲しい、も、同じくらい他人事の希望なのに。フィンは甘々だなあ」
「僕なら、フィンにそんな他人行儀なことは言わないけどな」
「僕の意思で、生かすこともするし、殺すこともする」
「僕は君に生きて欲しいとは思わない。僕が生かしておきたい」
「それと同じくらい、僕が殺したい」
おくがみえなくて、ぐるぐるしてて、とろとろにとけて、きらきらしてて、
あかくて、くろくて、きれいなものと、こわいものがいっぱいで、
うつくしい、こわいゆめのいろと、にたことをいってくれたから、
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「いっそう、呪い殺してやりたいのに」 |
だからね、おにいさんのことば、まほうみたいに、うれしいです!
それは、どんなきもちなのか、しりたいです。
おねがいしたら、おしえてくれるかなあ。
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>>Side:Beatrice
ヒルデは闘うのやめるんだって。
それで、今度はボクが闘うことになるみたい。
ボクは侵略に来たアンジニティの一員だから、今まではちょっと手伝うくらいだったけど、
これからはもっと本気でやらないといけないってこと、なんだけど。
アンジニティ、なのに。
イバラシティのために闘うのって、なんか変じゃないかな?
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ベアトリス 「んー……」 |
それもなんかしっくりしないけど、それ以上に、ボクは考え事をしてる。
イバラシティの、弱さのこと。
フィンが弱い、のはわかる。ちっちゃいし、叩いたらべちゃって潰れそう。
でも、ナンディナは殴っても潰れないし、一緒にいる他の人たちも平気そうな気がする。
だけど、ヒルデはそれで死ぬんだって。
他にも、イバラシティの人は死ぬんだって。
それじゃあ、ヒルデよりもっと大きい……例えばジェシーも、死ぬのかな。
それは、何だかイヤだな。
だってジェシーは、フィンと同じでボクに酷いことをしない。
破れたら縫ってくれるし、汚れたらお風呂で洗ってくれるし、おいしいご飯も食べさせてくれる。
だからボク、ジェシーを殴ったりしないよ。
でも、ボクが気を付けていても、ボクくらい強い相手がお店に来たら、ジェシーは死ぬのかな。
考え事をしながらうとうとしていたら、イヤな夢を見た。
夢の中で、ボクはビックリするくらい弱い人間になっている。
チナミ区のカフェでアルバイトをしているけれど、一人じゃテーブルも持ち上げられないくらいに弱い。
バイトはボク一人だけで、ちっちゃいけど先輩のフィンと、ジェシー店長の三人で働いている。
そんな日常が、突然変わった。
あれって、なんだっけ、怪人だっけ。
お店の中に、ハザマで見たような、大きくてゴツゴツしたのが入って来たのを見て、
キャーなんて騒いで、その場に尻餅をついたのは、人間のボクだけだった。
嗚呼。あのボクはどうしようもなくて、何だかムカムカする。
「何やってるの?」
苛立ちを隠さずに言っても、夢の中のボクは幽霊みたいな存在で、誰にも声は届かない。
震えているボクを助けようとして、ジェシーがゴツゴツしたやつの前に出て、
鈍い音を立てて、殴られて壁まで吹き飛ばされる。
ジェシーが、怪我した。
ボクが弱くて、何もしないから。
「……ねえ、本当に、何やってるの?」
フィンがボクの袖を一生懸命に引っ張っているけど、ボクは立ち上がりもせずに泣いている。
フィンは弱いから、ボクを運べないんだ。
フィンは弱いから、ボクが運んであげないといけないのに。
どすんどすんと足音を立てて、ごつごつしたのが寄ってきて、
そうしたら、フィンがそいつに「だめー!」と言いながら近付いて、
でもフィンは小さいから、そいつの足元に行ったら、
「いや……助けて、助けて……お願い、私のことは見逃して……」
「……は?」
何言ってるんだ、と思ってボクを見たとき、横からぐちゃっと小さなものが潰れた音がした。
……何も考えられなくなる。ムカムカする。言葉にならないほどムカムカする。
お前が、何もしないからジェシーが殴られた。
お前が、逃げようとしなかったから、フィンが。
それなのに、自分だけ命乞いなんて、どれだけ自分勝手なんだよ。
どすん、どすん、と足音を立ててそいつが寄ってくる。
人間のボクは頭を抱えて泣いている。
片方だけ赤いそいつの足跡を見て、吐きそうなくらい頭の中が熱くなった。
「……お前が、殴られれば良かったんだ」
ごつごつした四本腕のそいつが、腕を振り上げる。
「お前が、踏み潰されれば良かったんだ」
人間のボクの泣き声が、ボクにとってはたまらなく不愉快だった。
その腕に、ボクの腕と同じ形の爪が三本ついているのを見て、可笑しくなった。
あれ、おかしいな。
笑ってるから面白い筈なのに、頭と同じくらい目と喉が熱くて痛い。
笑ってる筈なのに、全然楽しくない。
「ーーボクは、絶対に、お前みたいにならないから」
耳障りな声で騒いでいる人間のボクに向かって、ボクと似ているそいつは思いっきり腕を振り下ろした。
ボクは、あんな風にだけは、絶対にならない。
◆ ◆ ◆
私は、もう戦うことだけは嫌だ。
>>Side:Hirude
ナンディナさんのお陰で、戦闘中は安全地帯にいられることになって、私は心底ほっとしていた。
暗いんですよ、って言われたからまあ薄暗いんだろうとは思ったものの、本気で自分の手すら見えない暗さだったのは予想外だったけど……安全には替えられない。
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蒜手 「ねえ、フィンって時々どこからか小物取り出してくるけど、懐中電灯なんて持ってない?」 |
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フィン 「ランプなら、もってます!」 |
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蒜手 「ランプ」 |
懐中電灯じゃなくてランプを使ってるって、アンタはキャンプにでも来た人か。
灯油とかガソリンとか入れるのかと思ったら、小人がどこからか取り出したランプはオイルを注げそうな蓋がない。というか、青っぽい光が出ているけど、炎とも電球とも違って見える。もしかして魔法のランプとかそういうやつ?
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蒜手 「……これって、使ってる途中で急に消えたりしない?」 |
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フィン 「だいじょうぶ、です! ずっとあかるいランプなんです」 |
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蒜手 「えーっと、つまり異能かしら。 はー、便利な異能持ってる人は持ってるのね」 |
生まれた時から便利か不便かが決まっているのは全く理不尽な話だと思う。
原理はよくわからないけど、私みたいに役に立つ異能を持たない層も便利に使えるから、道具の発明はやっぱり偉大だわ。
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蒜手 「……ありがと。じゃあ、私、南先輩のところに行ってくるからね。 アンタちっちゃいんだから、戦闘中は後ろの方にいなさいよ」 |
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フィン 「はーい!」 |
最初にハザマに来た時、ナレハテを見た時、初めて戦いの場に出た時。
訳が分からなくて、何かに対して怒ることでギリギリで正気を保っていた私も、
今は一緒に行動する人や、匿ってくれる人がいてくれるお陰で、随分落ち着いたと思う。
反省を踏まえて……いつか、きちんと正式に、謝らなきゃいけないとは思うんだけど……
こう、いざやろうと思うと……きっかけが……ない……。
それでも、せめて、自分にできる範囲で頑張って、役に立ちたいんだけどなあ。
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蒜手 「……あれ? そう言えばトリィは? 一緒じゃないの?」 |
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フィン 「トリィちゃん、おひるねしたあと、いたそうなおかおで、あるいていっちゃいました… こわいゆめ、みちゃったの、かなあ」 |
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蒜手 「あのクマ女がそれで落ち込む性格とは思えないんだけど……」 |
でも、こんな陰鬱な場所で気が滅入るのは私もわかる。
なんだ、トリィも案外、女の子らしいところがあるのかも。
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蒜手 「……嫌な夢見たなら、みんながいる焚火の近くとかに行った方が良いと思う。 トリィが戻って来たら、誘って連れて行きなさいよ」 |
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フィン 「はーい!」 |
まあ……トリィは、フィンに任せとけば大丈夫でしょ。
それより、私もそろそろ、南先輩のところに行かなきゃ。