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暮泥 倖子 「────それで? 何か言うことあるだろ? 半年ぶりに戻ってきたかと思ったら、着替え回収しに来ただけかよ。」 |
夕暮れ。窓から差し込む赤い陽光。それだけに照らされた薄暗い客間。
そこに置かれたテーブルを挟んで、兄妹は畳の上に座っている。
カスミ区に存在する暮泥宅は、ごく一般的な家庭だ。
共働きの夫婦と、その長男と長女。よくある核家族の構成。
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暮泥 倖子 「あれからずっと徹也さんのところ入り浸ってんの? あの人、在宅イラストレーターでしょ。仕事の邪魔だろ。」 |
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暮泥 倖子 「何となく許してもらえるからって甘えすぎんなよ。 この家の中でならまだしも、他所様にまで迷惑かけんじゃねえ。」 |
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暮泥 唯 「…………」 |
長男は、若くして死ぬことが定められている。
長女は、生まれながら一切の異能を持たない。
事情を知る近所の主婦たちは、二人の誕生当時はこの話に花を咲かせて喋りまくっていた。
『そんな子ばかり産まれちゃって、奥さんがかわいそう』と囁きながら、自身が“普通”であることに安堵する。
大して珍しくもない井戸端会議の光景とその内容を、ここにいる二人はハッキリと覚えている。
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暮泥 倖子 「とりま、無事なら良いや。でもさあ、正月ぐらいは帰ってこいよ。 しみったれた顔した親にお年玉差し出されるアタシの気持ち、考えたことあんのか?」 |
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暮泥 唯 「…………まあ。」 |
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暮泥 倖子 「……初詣、行った? 昇太クンが家までお迎えに来たぞ。 あんたら、毎年どこに初詣行ってるかと思えば……水没神社に行ってたの?」 |
そこに返事はない。片方が一人で喋り続ける。
もう片方は黙ったまま、膝に乗せたスクールバッグを抱えて、その説教を聞くだけだ。
テーブルに置かれたふたつの湯呑みから、立ちのぼる湯気がゆらゆらと揺れる。
そこに入っている麦茶に、どちらも一切手をつけていない。
窓の外の景色も、冷え切った客間も、刻一刻と暗くなっていくばかりだ。
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暮泥 倖子 「……おかあは期待してたよ。正月ぐらいは顔見せてくれるかもって。」 |
そう言ってリモコンを手に取ると、それをエアコンへと向けた。
エアコンの電源を入れ、暖房に設定した。設定温度が上限の31℃になるまでボタンを連打する。
静音設計であるはずのエアコンから、温風がごうごうと音をたてて吹き出し始めた。
ついでに照明も点けた。部屋はこうこうと照らされ、明るくなる。
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暮泥 唯 「…………アホみたいなエアコンの使い方してんな……」 |
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(エアコンの電源が切られる。使い古されたブランケットが投擲された。) |
抱えていたスクールバッグを脇に置いて、顔面に叩きつけられたブランケットを膝に敷く。
ため息。深いため息が静かな客間にこぼされた。
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暮泥 倖子 「……アニキさあ。侵略者がこの街に紛れ込んでるって話、聞いた? 騒ぎになってから、もう何ヶ月か経つけど。あれ、どう思う?」 |
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暮泥 唯 「────オチが見えた。言おうか?」 |
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暮泥 倖子 「言うな。自分で言う。」 |
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暮泥 唯 「オレのこと、侵略者だと思ってる。」 |
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暮泥 倖子 「自分で言うっつってんだろ!! 今すぐ認知機能検査してやろうか!?」 |
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暮泥 倖子 「お前さあ、分かってるよな。何となく疑われてるって気付いてるよな。 実際のところどうなんだ? 答えられるんじゃないのか、自分のことだぜ?」 |
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暮泥 倖子 「だって、おかしいだろ? 所持者を殺す異能。殺した死体を動かす異能。 そもそも、生物としておかしいだろ? アニキのそれって、本当に異能なのか?」 |
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暮泥 倖子 「おかしいよな? おかしいことだらけだ。お前みたいな奴がまかり通っていいはずがねえ。 侵略者ですって言われたほうが、ほらみろって全部納得いく。ぜ~んぶ辻褄合うんだよ。」 |
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暮泥 倖子 「隠してないでさっさと言えよ。『私はアンジニティの住人です』って。」 |
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暮泥 唯 「…………」 |
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暮泥 倖子 「…………いや。わかってるよ。 侵略者なんて、ありえない。それじゃあ、お前は一体何なんだ?」 |
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暮泥 倖子 「始めから全部なかったことにならなきゃ、ダメなんだ。 アニキが存在する限り、アタシら家族は一生幸せになれない。そうだろ?」 |
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暮泥 唯 「…………そうだね。」 |
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暮泥 唯 「こっこ、おいで。大事な話。」 |
手招き。
のばした手で、寄ってきた彼女の頬に触れる。
その指を伝わせ、撫でるように前髪をかきあげて、あらわれた白い額に額をあわせる。
まるで祈りを捧げるように、お互いはしばらくそのまま、動かなかった。
ちょうど1年ほど前にも、15歳の誕生日の前日には同じようなことをして、遺言を述べた。
ここにいる兄妹の約束を、二人の両親は知らないふりをしている。
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暮泥 唯 「────こっこ。オレの命、今度はお前にあげてもいいよ。 いつ心中したっておかしくない理由が、今のオレたちには揃ってる。」 |
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暮泥 唯 「オレたちが先に死んだら、二人とも絶対悲しむから……みんな一緒に。 こっこはお袋。オレは親父。痛み分けだ。お互い一人ずつ殺して連れていこう。」 |
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暮泥 唯 「こっこが本当にお終いにしたくなった時には、ちゃんと帰ってくるよ。 オレたちはずっと一緒にいると、魔がさしてしまうかもしれないから。」 |
幼い頃から何度も交わした約束を、言い聞かせるように繰り返す。
結局、その約束は果たされないままだ。今もまだ、この家はここにある。
『死にたい』ことと、『死んだほうが良い』ことは似て非なるものだ。
終わることしかできない人間たちは、今もまだ、生き延びようと足掻き続ける。
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暮泥 唯 「────あのさ、こっこ。 オレたちが自分らしくあるためには。かなしいけど、オレたちは犯罪者になるしかない。」 |
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暮泥 唯 「オレたち、どうせ死んでいくだけならさ。 この世界が生きづらくて苦しい人たちの心ぐらいは、慰めてあげられたらいいのにね。」 |
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暮泥 唯 「ごめんな。お前だけは、どうしたって助けてやれない。」 |
今日もまた。明日もまた。そしてきっと、明後日も。
何もかもを見捨てるように、世界はいつもどおりに廻っていく。
悪意なき悪を根絶することはできない。
悪意なき悪を救うことはできない。
いつか、己の悪を全うする日がやって来る。
それでも、自分たちが悪いだなどとは、彼らはこれっぽっちも思わない。
その在り方こそが悪魔的だと気付けないまま、繰り返す日々を生き長らえる。
暮泥 倖子
暮泥 唯の妹。2歳年下。無能力者。
兄が豹変する日を恐れるあまり、兄妹で無理心中を図った過去を持つ。侵略の噂を耳にして以来、自らの兄という"不自然"な存在に疑問を抱き続けている。
暮泥 唯
アンジニティの住人は既にこの街に紛れ込んでいる。
この街の一部を改変し、辻褄を合わせ、ごく自然に、巧妙に。彼は存在しないほうが"自然"だった。
少なくとも、この家庭にとっては。
終末まで 残り22時間
ハザマの刻は36時間続く。
彼がアンジニティ陣営に身を置くことは当然だ。
この選択が覆ることは、絶対にない。
暮泥 唯(261) に ItemNo.95 を送付しようとしましたが、何を渡したかったのか忘れました。
暮泥 唯(261) に ItemNo.96 を送付しようとしましたが、何を渡したかったのか忘れました。
暮泥 唯(261) に ItemNo.97 を送付しようとしましたが、何を渡したかったのか忘れました。
暮泥 唯(261) に ItemNo.98 を送付しようとしましたが、何を渡したかったのか忘れました。
暮泥 唯(261) に ItemNo.99 を送付しようとしましたが、何を渡したかったのか忘れました。
幻術LV を
5 DOWN。(LV15⇒
10、+5CP、-5FP)
具現LV を
10 UP!(LV0⇒
10、-10CP)
料理LV を
5 UP!(LV25⇒
30、-5CP)
曾我部 零夏(362) により
ItemNo.9 毛 から防具『
からっぽの御守』を作製してもらいました!
⇒ からっぽの御守/防具:強さ40/[効果1]命脈10 [効果2]- [効果3]-
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曾我部 零夏 「からっぽらしいから愛情だけ入れといた!効果?ないんじゃね!」 |
田中田 哉太(60) の持つ
ItemNo.6 美味しい草 から料理『
野草とモヤシの炒めもの』をつくりました!
齎藤 颯(130) の持つ
ItemNo.9 不思議な食材 から料理『
野草とモヤシの炒めもの』をつくりました!
濯木龍臣(406) の持つ
ItemNo.6 美味しい草 から料理『
野草とモヤシの炒めもの』をつくりました!
アン(1369) とカードを交換しました!
追いすがる暗闇の恐怖
(クリエイト:ウィング)
ワンオンキル を研究しました!(深度0⇒
1)
ワンオンキル を研究しました!(深度1⇒
2)
ワンオンキル を研究しました!(深度2⇒
3)
クリエイト:タライ を習得!
クリエイト:グレイル を習得!
クリエイト:メガネ を習得!
召喚強化 を習得!
鏡像 を習得!
修復 を習得!
◇通常獲得:各CP・FPが5増加した!