
「リリィ、すまねぇ!ツナグから連絡が入った!なんか見える時計台の方に向かう!」
ふーちゃんとツナグ君からの返事。
ツナグ君からは改めて落ち合う場所の連絡。
よかった。
ふーちゃんはなんだか様子がおかしかったから、ツナグ君と会えるならそれが一番、だとおもう。
移動するタクシーのなかで押し寄せた『情報』の波に、ぐらりとする。
現実での日々。本当にここは「切り離されている」んだと、実感する。
勉強会と言い張るタコパと期末。
クリスマスパーティ。
おばあちゃんのおせち。
あわただしいバイト。
流れ込んでくる『いつもの生活』に、『楽しい』があふれていた。
侵略が、ワールドスワップが起きているなんて思えない、日常。
どこにも動いていないのに、遠い、そう思わされた――
***
――通信。Cross†Roseを開く。
ツナグ君たちが、『だれか』と戦っている。
『わかった』
試算、走ればそうかからない。
返事を送る余裕があるならその分戦闘に回すだろう。そういう人だと思って目安だけを伝えて駆け出す。
二人が合流してからでよかった。
二人なら、きっと――
***
――大丈夫だと、思っていた。
***
視界が開けたそこには、見慣れた制服と、炎と、知らないなにか。
白い制服を赤く染めたクラスメイト
白い甲冑
女子生徒
――知ってる。しっている。
だって、彼女は、
今隣を通り抜けた彼の、
いもうと
***
Cross†Roseに届いていた通信
『結城伐都に気をつけろ』
よぎらなかったわけじゃない、けれど
学校で見る以上に弱々しい彼と、その妹たちを守ろうとする仲間。
相対する異貌
理屈じゃ、なかった。
***
「二人とも大丈夫!?」
二人の後ろにまろびでる。前衛のフタバ、解析した異能によっては攻めに転じられるツナグ。
ナレハテを倒せた、前よりできることが増えた『アミティエ』でもそれには届かない。
だからそれよりも更に後ろで、拵えてもらったばかりの篭手をかざす。
気づく。フタバとツナグが纏う色の違い。
私が二人を信頼しているように、彼らもまた私を信頼している。
だったら。今ならできる!
――ジジッ
『接続の完了』
脳裏にメッセージ画面が浮かぶ。これならラグがあるCross†Roseよりも早く情報を伝えられえる。
そしてその使い方も二人には伝わっているだろうとも。
『リリィ……! いいタイミングだ!』
早速ツナグがチャンネル越しに声をかけてくる。
『本体はまだだが、あの炎の解析は今終わった。だが相手の攻撃があれだけとは思えない』
『チャンスは一回だと思ってくれ。フタバ、もう時間は稼がなくていい、次の炎は俺が消す。一気に攻めろ!』
『リリィ、妨害のタイミングを合わせてくれ』
突然繋いだチャンネルも使いこなす彼に、少なくとも自分が『間に合った』と、彼らはまだ折れていないと勇気付けられる。
あとは、特定のチャンネルをつなぐ容量で……制御のできない『理』を、あの痩けた炎使いに――
『……今だ!』
ぶつける!
それは情報の波。
ツナグが『解析』を得意とするなら、私の異能は、双方の同意がなければただの氾濫した情報。思考をかき乱すもの。
理解できない脳には、一瞬の暗転をもたらす――筈だった。
ツナグの異能で炎が打ち消されれる。
二重もの対策でフタバの剣は通るはず――が、異貌の袖を断つに留まった。
切り裂かれた隙間から見えるのは、手だけではなく腕までも肉が朽ちた骨であり、その骨に届かなかった事で空気が強張る。
ツナグの動揺、飛びずさるフタバ。
イバラシティに跋扈する異能による迷宮入り事件。
高校生がどうにかできるはずもなかった。
それでも
それでも!
『スターゲイザーズ』として影ながら動いていた私たちは、『多少の事ならなんとかできる』という、言葉にはしていないものの、それなりの経験をつんでいた。
それが、容易くへし折られる。
三人がかりでも止められなかった『アンジニティ』の者の炎が、牙を剥く。
唯一のチャンスで倒せなかった事、炎の熱気。喉の奥で、漏れ出る事すらできなかった息が引っかかる。
――そこに飛び出したのは、先まで『戦えない』と思っていた、結城伐都だった。
炎が揺らぐ。
そこに、つい今まで庇っていたはずの、少女たち。
『――待ってください!』
『馬鹿兄!』
そういって飛び出すものだから。
未だ炎の残滓で、焼き爛れたナレハテの異臭で、呼吸をするだけでも苦しいこの場で、守ろうとした少女達が前に出て。
――守られたのはどっちだ
***
それでも、鞘は収められた。
あの異貌がアンジニティの者でありながらイバラシティの彼女達を預かるという。
ぎし、となった白銀の鎧の気持ちは良くわかる。
――これが、アンジティ二ティ。この世界を狙う、果ての世界の者。
そんな彼に友達を預けるのは心中穏やかではないだろう。
それでも、ゆっきーが、彼女達が止めなければ、最悪の事態になってもおかしくはなかった。
だからこそ彼の提案に従うしかなかった。
今から私たちが相手にするもの。
魔が星と違って、意志ある人。
ぞわり。
ここに来て作ってもらった左手の手甲を、無意識に握り締めていた。