*今回の日記は『熾す魂火、絶えぬ火光』パーティー様と内容を合わせております(301.473.474.911)*
あれからすぐ、フタバとは無事合流することができた。
鎧を鳴らしながら走ってくるフタバは元気そうだった。
情けなく仮想じゃなくてよかったと言うフタバに何があったのかは分からない。
何があったのか、特に聞こうとはしなかった。
結城は、レアケースという訳ではないのだろう。
事前に連絡のあったリリィには目的地を伝え、結城と合流することにした。
色々違ってはいたが、妹を案ずるあの声は俺の知っている結城だったのだから。
「フタバ、早速で悪いがさっき結城から連絡があってな。早めに合流したい。付いてきてくれるか?」
フタバならきっと頷いてくれるだろう。そう思っていた。
それは間違ってはいなかったが、フタバは二つ返事の後、不安そうに言葉を続ける。
「……バツを信じるなって、連絡があったんだ。そっちには来なかったか?」
俺には来ていない。俺に来たのは結城が自らイデオローグと名乗ったあの連絡だけだ。
『信じるな』というのは、恐らく結城が送ったものだろう。
VRチャット越しに観れるものは少なく、それだけですべてが分かったわけではない。
イデオローグにも異能があるのだとしたら……。
そこで考えを終わらせ、フタバには俺には来ていないと告げた。
フタバは結城を警戒している。
今はそれでいいと思う。俺も結城にはああいったが全てを信じられているわけではなかった。
鎧姿でタクシーに乗り込もうとするフタバを何とかなだめ、変身を解かせた。
タクシーの中でいくつか話をしたが、それだけではフタバのこの憔悴っぷりの原因は分からなかった。
「……結城!」
タクシーを降り、少し歩いたところに結城はいた。
こちらに気づいた結城は「ナッツ」「騎士様」といつも通りの呼び方で答える。
口を押える手に付いた血は吐血によるものだろう。
目立つ怪我はみられないというのに、今にも倒れそうだった。
発動させっぱなしの異能は、少しずつイデオローグの情報を更新していく。
本当に元々……体が弱いのか……。
そんなことを考えていると、事前の申請通り、フタバが再び変身し俺の前に出た。
「バツ、お前、まさか、アンジニティじゃねぇよな?」
そんな直接聞く奴があるか。素直すぎるだろ。
「おれがアンジニティか、だって?
答えるまでもない。……ナッツの異能なら分かる筈だ。そうだろ」
フタバ越しに結城と目が合う。
試されているのか……それともフタバが言っていたバツを信じるなと言うメッセージのように必要なことなのか、俺にはわからなかった。
だけど……
結城は俺のことを知っている。
なら俺が取るべき行動は いつも通り であるはずだ。
「安心しろ、結城は結城だ」
俺はそう言ってフタバの肩を軽く叩いて前に出る。
上手く表情を作れている自信はないが、フタバは後ろだ。問題はない。
色々な気持ちを息とともに吐きだしたい気持ちを抑え、「歩けるか?」と結城に声を掛けた。
前を歩くフタバの背を見ながら、解析済みとされた情報に追記が出るのを見ていた。
フタバの事も、肩を貸している"結城"の事も、能力は自動で解析を進める。
何か会話をした方が、とは思うが開く口から出る言葉は無かった。
フタバが何かに気づき、続いてそれに気づく。
何かを言うより、フタバが駆けだす方が早かった。
「フタバ!」
隣の結城は戦える状態ではない。
「結城はここにいてくれ」
肩を貸すのをやめ、結城より1歩前へ出る。
知人二人と、知らない人型のモノ。
解析が出してくる情報の大半は読めないものだった。
なかなか進まない本体への解析を半ばあきらめ、相手の能力に的を絞る。
今は読めなくても良い。解析が終わりさえすれば……。
フタバが派手に攻撃を受けた。
受け身を取ったフタバの動きが少しにぶい。
「大丈夫か!?」
いちど解析を止めれば治療はできる…が、それも戦闘中にとなると難しい。
本人が居れば…という思考を一瞬で消す。
フタバからの「まだ戦える」との返事に安心を覚える。
リリィからもうすぐつくとの連絡も入る。
「もう少し時間を稼いでくれ 本体は見えないが、炎はもうすぐ終わる!」
時間さえ稼げれば、この時はそう思っていた。
幾度か相手の炎をフタバが防いだ時、リリィが到着した。ようやく3人が揃う。
同時に炎の解析が完了し、解析中だったタグの色が変わる。
相手の異能を相殺する俺の異能の第二段階、その準備が終わったことを示していた。
『本体はまだだが、あの炎の解析は今終わった。
だが相手の攻撃があれだけとは思えない。チャンスは一回だと思ってくれ。
フタバ、もう時間は稼がなくていい、次の炎は俺が消す。
一気に攻めろ! リリィ、妨害のタイミングを合わせてくれ』
リリィのテレパシーを使って、リリィとフタバに伝える。
返事の代わりに突撃するのフタバを、相手の炎が迎え撃とうとする。
俺は、炎がフタバに触れる前に『打消可』のタグに手を伸ばし、選択する。
『…今だ!』
まるで相手の炎を反転したような影が、フタバを突き抜けて相手の炎に当たり、打ち消した。
同時にリリィによって敵の動きが一瞬鈍る。
フタバが剣を突き入れ、すぐに後方に飛んだ。
その行動で失敗したことが分かった。
リリィの能力から回復した相手が再び異能を発動させる。
既に観た炎……ではなかった。
突然情報が中核から置き換わる。
追記情報ではない、変換。解析済みの色は反転し、突如として何も読めなくなる。
今までも読めない箇所はあった。だけど解らないものは初めてだった。
一瞬の混乱がすべての行動を遅れさせた。
既に炎は迫っていた。
うねりながらこちらを飲み込むように。
回避するにももう遅い。何かを悩んだ時点ですべてが手遅れだ。
借り物でしのぐにも発動までの時間が取れない。
無理だ。
可能性を探すことを捨てそうになった時、炎の前に影ができた。
「……結城!?」
庇うように飛び出してきたのは結城だった。
炎の動きが一瞬止まる。
……どうして。
何故炎が止められたのか、結城が飛び出してきたのか。
それを考える時間もなく、後輩二人が叫び声と共に飛び出してきた。
結果的に炎は収められ、今無事で立っている。
フタバは火傷があるものの、治癒可能だろう。
結城兄妹と早生さんは、いくつかのやり取りの後別行動することになった。
戦闘はあったものの、こちらの早とちりが原因でもある。
二人がそれでいいというのだから、言えることは何もなかった。
『……一つ、教えてやるよ。俺は『結城伐都』も『イデオローグ』もよぉく知ってる。ずっと前からな』
去り際、金髪の化物から言われた言葉だ。
つまり、知っていて敵対し、知っているからこそ炎は止まった。
最初から……いや、それならあんな忠告はしないはずだ。
金髪も、結城も、二人を守りたくて対抗したのか?
フタバが飛び出した時、あいつは何も言わなかった。
アレを知っていたなら、勝てるとは思っていなかっただろう。
でも、あの時前に出たあの行動、妹を想う様子は……。
「嘘じゃなかった、と思いたいんだけどな」
口の中だけでつぶやいて、顔を上げる。
考えているうちに少し歩みが遅れていたようで、二人と数歩の差が開いていた。
結城たちと進む方向は一緒だ。また会う事があるだろう。
俺は早足で二人に追いつく。
目の前には歩きにくそうな沼地が広がっている。
「……まずは自分たちの事だよな」
自分に言い聞かせるようにそう言って、慎重にハザマの世界を進み始めた。