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すべてが灰になる。
それが、選び取った結末。
数多の時を費やした、望みの果て。
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2/0:00~1:00:作戦方針
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『さて、ちょいっと戦闘も落ち着いたトコで、今後の方針を決めていくぜ、アリスちゃんよ』
ナレハテとやらとの戦闘を終えて一息、
吐く間もなくナビゲータシステムから同僚の声が入る。
アルカレプレ
アリスの旅のナビゲーター
『時計兎』の騎士
こしあん派
「方針は、不思議探しだろう?」
『大筋はな。でもアリスちゃんが"三月兎"を採ったんで、色々とそれ以外のトコが決まって来てる。
お前さんもこの"ゲーム"の部外者面は完全にできなくなったコトだしな』
「……こいつを直さないといけないからな」
崩壊は免れたが、"三月兎"は未だ破損している。顕現させられないから、データキューブのまま保管してある状態だ。
アリスの前に、いくつかのパラメータが表示される。アルカレプレがポップアップさせてきているデータだ。
それらに目を通していく。
この戦争は、主に守備──侵略を受けている側が、『イバラシティ』勢力。
そして、侵略を仕掛けている側が『アンジニティ』と呼称される勢力となる。
アリスとしてはどちらの所属でも別段問題は無いが、アルカレプレによる振り分け選択はイバラシティ側になっているようだった。
理由は単に、数が多くて勝てそうだから。合理的だ。
ワールドスワップ
『世界喰らいゲームのルールは勝ち星の取り合い。命の削り合いじゃねえから、随分平和的だ。
ただ、単純にせーので東西総当たり戦とかってわけじゃあねえ。
先ずは広大なマップを移動して、戦闘に必要なリソースを集めていく』
「……マップが広いな。あの運転手や眼鏡男は次の目的地については何か言ってたか?」
『いいや。自由に動けって事だろ。このハザマって場所全体がリソースなんだ、どこだっていいんだろ』
マップを広げる。どこかで見た気がする。
連なった複数の区画、全域を水に囲まれた島。
この地形、どこだったか──?
「……っ、頭痛が。何、だ、これ……!?」
『あー、はじまったか"ダウンロード"。1時間目だな。何か、そういうシステムらしいぜ。
今から見えるのは、この1時間、あるいは、"イバラシティでの何日間"だそうだ。
向こうに居る、街の住人の"司馬アリス"ちゃんのな』
「……う」
流れ込んでくる景観。意識
見た事の無い、見て来た景色
会った事の無い、会って来た人達
自らに非ざる、自らの存在
そのすべて、この1時間であり、この数日に起こった出来事、それらが頭の中に濁流の如く雪崩れ込んでくる。
──そうして、その濁流の全てを飲み込んだ時
──アリスは、叫んだ。
「何だよイチャイチャしないと出られない部屋って……!!」
『ぶはははははは!!!!!!』
… … … … … now loading
… … … … … load finished!
アリス
騎士アリス
不思議を求め、集めるもの
何だよイチャイチャしないと出られない部屋って!
「まあ、大体の事はわかったよ。"あの僕"は何だ、つまるところアンジニティみたいなもんだと」
『そういう事だな。イバラシティ側に味方するアンジニティもいるみたいだから、そういう扱いになったんだろうよ』
イバラシティに、初めから居たかのように振る舞う、侵略者達。
それらと同じような振る舞いを行う、アリス自身の分身──あちら側の"司馬アリス"は、つまりそういう存在だ。
「気持ち悪いな、僕の知らない間に、僕が動いてるって。なんか耳も無いし……」
ワールドスワップ
『世界喰らいの間だけだとさ。気にするなよ。それより、面白いデータが落っこちて来た』
「面白いデータ…こいつは、"アインシュヴァイツァー"じゃないか?」
アルカレプレが提示したデータに表示されているのは、ダウンロードされた"司馬アリス"の記憶にある人物。
うさんくさいどてらの成人男性、"ポチ・アインシュヴァイツァー"のものだった。
『ご名答、イバラシティのあいつは、"三月兎"の失われたリソースを記憶してるみたいだぜ。つまり、世界喰らいの影響をキャンセル出来てる。こいつはどうやら"特異点"だな』
「あっち側の僕には、それが全くわからないってのが問題だよなあ……」
『"三月兎"自身は、それとなく本能で理解してるみたいだぜ。既に接触してるし、あたしが保険で付けといた"時計"も、180秒動いてる』
ふむ、とアリスは思考する。
三月兎は、こちら側では目下、崩壊を差し止めている段階だ。顕現させる事すら難しい。
しかし、先ほどダウンロードされた記憶によると、何故か、あちら側には──小型化した三月兎が顕現している。それがアインシュヴァイツァーと接触──していた。確かに。
「アインシュヴァイツァー……あちら側のあいつから、三月兎はリソースを引き出せるのか?
あいつが三月兎のちらばったリソースを回収してる可能性もあるか?
だから引き寄せられているってセンだ」
『無いだろうな。創り変わってるのはこの世界の方だぜ。だったらリソースは殆どそっちが持って行ってる。
このハザマに散らばって、何事かに利用されてる可能性の方が濃厚だな。
アインシュヴァイツァーは、あいつ自身のリソースとして"三月兎"の情報を持ってるってだけだ』
「それでも、錨にはなるって事か」
『誰かの記憶に残っているかどうか。正しく"名前"を認識されているかどうか。
それはかなり重要ファクターだからな。ま、それは今はそういうもんだって認識しとけ。
この錨をどう使うかは~…兎のよしみで、あたしが考えておくからよ。
それよか、アリスちゃんが考えないとダメなのは今後の方針だ』
ふと、表示されていたデータが消えて、新たなデータがポップアップする。
3名分のパラメータ。彼女らの知識は、ダウンロードした数日間、それと"司馬"の記憶にもある。
当然、アルカレプレもそのデータを参照していた。
『"怪異狩り"組織の2人だな、あとはもう一人もくっついてきてるみたいだぜ。
ひとまずはこいつらと合流して、東のチェックポイントってのを目指すのがいいんじゃねえかな。
あっち側のアリスちゃんと繋がりがある分、やりやすいだろ?
近い座標に居るし、全員イバラシティ陣営みたいだしな』
「……そうだな、他にアテになりそうな相手も、近くには居なさそうだ」
いくつかの人物データを、アリス自らも検索し……閉じる。
検索可能なデータには、その存在がどちらの陣営に属しているかもはっきりと記載されていた。
アンジニティ。…そうあって欲しくは無かった人達も、その表記があればそれは、そういう事だ。
自らと同様に、こちらとあちらでは違う。
イバラシティに馴染むように、そう造られたのが、あちら側の"かれら"。
(…………やりきれないな、だが)
これはただの感傷。
余計なことを知ってしまった。ただそれ故の一時の感情の揺れ。
頭を振って、そう割り切る。
それが騎士には、必要な事だ。
「行くか、我等が女王の御為に」
『応とも、我等が御国の未来の為にな』