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「というわけで… ここハザマでの勝負の結果で、侵略の成否が決まるのですよ~☆」 |
『どろどろのなにか』を黄色い毛皮の生き物と一緒に撃退したあと、
黄色の彼はこの場所と侵略のことを僕に改めて説明してくれた。
シロナミ…だったっけ? 青い眼鏡の男のひとの言葉だけじゃ、何が起こったかもよくわからなかったから…
何が起きててどうすればいいかを細かく噛み砕いて話してくれるのは、凄く助かった。
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「どう? いまイバラシティで起こってる『ワールドスワップ』のこと、理解できた?」 |
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「うん。それなりに。」 |
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「ハザマに棲む者やアンジニティのひとたちと戦って勝てば、 その『世界影響力』っていうのを獲得できるんだよね。」 |
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「それで、『世界影響力』をより多く得た陣営の方が勝利…イバラシティに残ることができる。」 |
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「そうそう☆ そんな感じ♪」 |
僕が、ワールドスワップの勝利条件…侵略を防ぐための方法を答えると、
黄色の彼は''正解''とばかりに、にこやかに ぱたぱたと尻尾を振った。
シロナミの話からもなんとなく感じてはいたけれど、やっぱり戦う必要はあるってことか。
戦うのは、好きじゃない。ううん。正直にいえば、怖い。
でも…
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「………。」 |
もう、覚悟は決まってる。
この街は、僕たちのものだ。侵略なんてさせやしない。絶対に守ってみせる!
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「それじゃあ、街を守るために一緒に戦ってくれる? ええと…」 |
決意も新たに、黄色の彼に声を掛けようとして… そういえば名前を聞いていなかったことに気付く。
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「キミ、名前はなんていうの?」 |
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「きつねのコト? きつねは狐なのですよ~☆」 |
彼の名前は『きつね』だそうだ。
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「………。」 |
狐。犬よりも小さくて、猫よりも大きい。
耳が大きくて尻尾の太い、黄色い毛皮の生き物。確かそんな名称だったと思う。けれど。
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「狐って… 動物の種類じゃなかったっけ? それが名前なの?」 |
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「わふわふ☆ きつねはきつねなのです♪」 |
彼の名前は『きつね』で間違いないみたいだ。
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「………。」 |
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「じゃあ… 『きつねさん』って呼んだらいいの?」 |
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「わふわふ☆ ですです♪」 |
僕がそう呼びかけると、『きつねさん』は機嫌良さそうに尻尾を揺らして答えた。
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「………。」 |
うーん…
やっぱり、種属で呼ぶのは味気ない感じがするような…?
もしかして、黄色の彼は名前が無いのかな?
とはいえ、名前が無かったとしても僕が勝手に付けるわけにもいかないし… そうだ!
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「さっき色々教えてくれたから『先生』って呼ぶよ。いいでしょ?」 |
先程の話しぶりからしたら、ワールドスワップのことだけじゃなく、
他のことでも、彼は僕よりも色々と物事をよく知ってそうだ。
身体こそ小さいけれど、歳も僕より上な気がする。悪くない呼び方だと思うんだけれど。
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「………。」 |
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「またこの展開なの…?」 |
おや…?
『きつねさん』もとい『先生』は、がっくりとうなだれて俯いてしまった。尻尾の揺れもぱたりと止まっている。
…気に入らなかったのかなぁ?
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「『先生』は嫌だった? じゃあ、『博士』とか…」 |
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「先生でいいです。」 |
黄色の彼は、色々諦めた表情で言い切った。ともあれ、これからは先生と呼ばせてもらおう。
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「きつねのことより、わんわんはなんて名前?」 |
これで一区切り…と思ったら、先生にそう聞き返された。
そういや僕も名乗ってなかった。
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「僕? 僕は…」 |
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「………。」 |
あれ…?
名前…
僕の名前って…?
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「………。」 |
おいで ――――
いいこだね ――――
―――― ちょっとまってて
―――― それをとってきて
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「ら…しゅ…?」 |
頭の奥から、自分が呼ばれた時の音の記憶を絞り出す。
自分の名前のはずなのに… 靄がかかったように、ぼやけてあやふやな音。
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「らす? それだけ?」 |
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「ううん。もうちょっとあった…気がする。」 |
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「気がする? 自分の名前なのに?」 |
おかしいな… 自分の名前がパッと出てこないなんて。
ラス… なんだっけ? ちがうな…ラシュ… ええと…
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「えっと… ら…す…ごう…? だったと思う。」 |
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「らす ごう…『羅須 郷』かな?」 |
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「うん。確かそんな感じで呼ばれてた。」 |
音の響きは少し違ってる気もするけれど、記憶の中の呼ばれ方になんとなく似てる。
『羅須 郷』っていうのが、たぶん僕の名前なんだろう。
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「じゃあ、『ご~君』だね~☆」 |
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「………。」 |
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「………?」 |
あれ…?
『ゴウ』とだけ呼ばれると…なんだかとても違和感がある。
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「ふにゃ? 名前で呼ばれるのはイヤだった?」 |
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「ううん。ただ…慣れない呼ばれ方だったから、戸惑っただけだよ。」 |
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「ラスって呼ばれるか、それともラスゴウって呼ばれるかのどっちかで、 ゴウってだけ呼ばれたことはなかった気がするんだ…」 |
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「そ~なの? 名字で呼ばれることの方が多いのは確かだけれど、 親しい人は下の名前で呼びかけることもよくあるよ?」 |
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「………。」 |
うーん。先生はそういうけれど、いくら記憶をたどっても、
『ゴウ』とだけ呼ばれたことはなかった気がする… 僕が忘れてるだけかなぁ?
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「名前で呼ばれるのが好きじゃないなら… 『しろくろ』って呼ぼうか? それとも『わんわん』がいい?」 |
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「………。」 |
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「ごー君でいいです…」 |
うん。おかしな愛称を付けられるくらいなら、違和感があっても名前で呼ばれた方がいいや…
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「ところで、これからどうしよう? このあたりをずっと見張っていればいいの?」 |
侵略してくるひとたちがこのあたりに現れるのなら、待ち構えて迎え撃つのがよさそうに思ったけれど…
先生の意見も聞いてみることにした。僕よりもいい方法を考えついてるかもしれない。
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わふわふ☆ 影響力を高めると、より大きく世界に影響を及ぼせるみたいなのです♪ |
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新しく現れた影響力の低い侵略者をやっつけるよりも、 ハザマで強くなった高い影響力の侵略者をやっつけたほうが、世界影響力をより多く獲得できるのです! |
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他にも、『ロスト』っていうひとたちに会うことで世界影響力を高めることもできるみたいなのですよ~♪ |
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そうなんだ。 |
どうやら、単純に侵略者を追い払えばいいってことでもなさそうだ。
より強い侵略者を追い払わないと、侵略を防ぐことはできない… 難しいな。
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ここでじっとしているよりも、『ロスト』を探しにハザマを探索してみない? |
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うん。そうしようか。 |
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「それじゃ、出発~!」 |