
冬休みを目前に控えたある日、いつも通りに一日を終える……目が覚めれば新しい朝が来る。
そんなはずだった。しかし、それは突然やってきた。
異様な色の空に荒廃した町。そこがハザマであると理解するには十分すぎる光景だった。
「くそっ、侵略は本当だったのか……まゆ子!」
そばにいたはずの妹の名を呼び、異形の街を駆け抜ける。
橋を通って線路を渡り、大通り、住宅街を抜け……路地裏の入り口を通り過ぎようかとしたところでふと聞き慣れた声を耳にして立ち止まって顔を向ける。
「兄さん……!」
「まゆ子……!?」
暗い暗い路地の奥に人影と思われる姿。
暗くて目を凝らしても視認できないが……ここにいるに違いない。そう確信した兄は雑多とした空間に足を踏み入れる。
散らばる空き缶を蹴散らしつつ中ほどまで進んだところで、声の主の姿をとらえた。
いつもと変わらない、あの姿だった。心なしか小さく見えるが、おそらく不安でいっぱいなのだろう。兄はそう考えた。
「よかった、無事だったのか!」
「うん……でも、兄さん……。ここ、怖いよ……。」
今にも泣きだして消え入りそうなか細い声。その姿をみてもうそばから離れるまいと妹の体を抱きしめ目をつむって。
「……!! 兄さん……!」
姿が見えなくても震える声からもおそらく涙お浮かべているだろう。
得も言われぬ感情がこもっていると痛感するとともに、その体を抱きしめる腕にも力が入る。
「大丈夫だ、オレの後ろに隠れてりゃ安全だ。侵略だろうがなんだろうが、追い払ってやるよ。」
安心させようと口にした一言に対してとうなずくような動きをして、うわ言のように言葉を口にする。
「うれしい……兄さん、にいさン……ニィ、サ……。」
「まゆ子……?」
何やら様子がおかしい。思わず目を開けると先ほどまでそこにはなかった異形が、目の前にいた。
「なっ…………!?」
「ニイサン、ニイサン……」
声は抱きしめている妹から聞こえる……しかし、その薄汚れた姿は、多腕の異形は明らかに彼の知りうる存在ではない。
そして、おそらく伸びた首らしきものの先にいるであろうところからははっきりと、いくばくか反響した声が聞こえた。
「
見えてしまったか、定命の者。そのまま仮初の姿だけ映していれば幸せだったものを。
復讐の成就のためにもこのまま逃がすわけにはいかぬのでな……では、死んでもらおう」
…………
……
数分後、路地裏に人の姿はない。
ただ、何かを引きずったかのような血痕がその場に残されているのみであった。