二回目の死は――ただ、虚しかった。
一度目の死は、眠っている間に起こったものだったし、治療のおかげもあり苦しくはなかった。自分の体、自分の死が彼女の役に立ったのだと、そう思うと満ち足りた気持ちですらあった。
心残りもなかった。憧れていた隊長は、いつの間にか共に過ごすべき人を見つけていて、そのことは少しだけ寂しくはあった。だが、そのことはかえって自分を安心させた。隊長はやはり大丈夫なのだ、除隊した後も幸せな生活を続けていくのだという確信が持てた。
そうして雫は、憧れていた隊長と、献身的に治療をしてくれた医師と同じ屋根の下で、深夜にひっそりと死へ誘われたのだった。自分の人生にありがたいと思いながら、この世を去ったのであった。
しかし、二回目の死はどうだろう。ただただ、必要だから殿を務めて、必要だから時間を稼いで、そして結果として死んだ。身体から力が抜ける感覚がして、硬そうな地面が目の前に迫ってきて、遠くで音が響いて、不思議と衝撃は感じなかった。自分が自分から離れて遠くに落ちていく感じがして、ああ、これが死なんだなと冷静に自分自身を見つめている自分がいた。
自分が死んだことには、全く後悔はしていない。自分の死が虚しく、意味がないものだったとしても、それはあの場、あの瞬間においては必要なことだった。
ただ、戦場における死は寂しく、あっけなかった。自分の仲間はたくさん戦場で散っていったが、皆があの思いを経験しているのあろうか。そう考えると、戦場を結局生き延びた自分より、皆は強かったのかもしれない、と思った。
目が覚めたときは野ざらしであった。一番に考えたのは、これじゃ風邪を引くなということだった。傍に落ちていた背嚢から火酒を取り出し、ぐびりと飲み下すと胃の中から温かさが全身に広がっていった。ふぅ、とため息が漏れる。お酒の熱が全身へ回っていく感覚は、何度経験しても心地がよかった。
それにしても、自分は死んだはずだ。再び死へと誘われたはずだ。それなのに、どうしてこの地に立っているのだろうか。ハザマの効果だろうか。この地に引き寄せられたときと同じように。
いや、おそらくは違う。自分の中に何か別なものが入り込んできている。目が覚めてから、そう感じていた。これに似た感覚は前にも感じたことがあった。治療で、生命力を流し込まれたときだ。
首につけたお守りを指でなぞる。思い当たることといえば、これくらいだった。落とさないようにと服の中へ入れこんでいた、このお守りだ。
もしかしたら、このお守りが自分を死から掬い上げたのかもしれない、と思った。確信はないが、何となくそう思った。何といったって、このお守りをくれたのはすごい狐さんなのだ。
もう一口、火酒を飲み下す。栓を締めて、荷物をまとめた。先に撤退した皆のところへ追い付かなければならない。
何気ない顔をして征こう。元より死は覚悟の上で、実際に戦場で死んでみて大きな負担にならないことは分かった。もし、次に死んでみて、蘇生できなければ、残念ではあるがそれまでのことだ。むしろ、それが自然なことだ。
ためらわずに命を投げ出す覚悟でいこう。生きるも死ぬも結果に過ぎない。そして、昔と同じように、戦場でそう振舞うことが、自分が皆のところに行ける道筋だろうだろうから。