俺の異能が目覚めたのは、おそらく小学一年生の頃。
同じクラスの友達と一緒に公園のブランコで遊んでいた時、ブランコが壊れて友達が怪我をした。友達の次にブランコに乗ろうとしていた俺は、運が良かったねと言われた。
次に異能が発動したのは、その数ヶ月後。給食に虫が入っていて、大騒ぎになった事件があった。虫が入っていたのは、友達の分のスープ。けれどそれは、スープをこぼしてしまった友達に、俺が自分のスープをあげると言って渡したものだった。
それからも、俺の身の回りでは幾度となく不幸が起こった。誰かが怪我をするような大きなものから持ち物が壊れるような些細なものまで──規模は違えど、いつも誰かが不利益を被って、俺はすんでの所で助かる、という形で被害を免れていた。
いつしか、その不幸は俺のせいじゃないかと誰かが囁くようになった。同じ頃に異能が目覚める子供が何人かいたし、俺の周囲でばかり不幸が起きるのに、俺だけが被害に遭っていないのは明らかに不自然だったから。
お前のせいだ、とクラスのみんなが俺を責めた。君の異能なら制御しなさい、と先生が俺を叱った。俺が自分に降りかかろうとする不幸を他人に押し付けているのだと、みんなが俺に言った。俺が悪いんだ、と俺もその言葉を受け入れた。
でも、自覚したところで異能の制御は上手くできなかった。自分だけが不幸になればいいと、そう強く思えば他人に不幸を押し付ける頻度は減ったが、それでも時々誰かを不幸にさせてしまう事があった。
異能を使わないために、異能抑制剤を飲んだ事もあった。副作用で体調を崩した上に、具合が悪くて休んだ体育の授業でクラスメイトが怪我をした。
誰も傷付けたくない、と思って、部屋に引きこもった事もあった。朝に家の前で事故があって、近所のおばさんが怪我をした。
いっそ死んでしまえば、と思って車の前に飛び出した事もあった。急ハンドルを切った車がガードレールにぶつかって、運転手が怪我をした。
何をしても裏目に出るばかりで、上手くいかなくて。俺はいつからか、自分が大嫌いになった。こんな人を傷付けるばかりの卑怯で残酷な異能を持って生まれた自分が、ひどく憎く思えた。
どうして自分は生まれてきたんだろう。どうして自分には異能があるのだろう。いっその事、何もない方がよかったのに。異能もなくて、不幸もなくて、俺自身の存在すらない世界。それがきっと、みんなにとって幸せな世界なんだ。
俺なんか、生まれてこなければよかったのに。
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アイネ 「──バカな事言うなよ」 |
その人は、俺が大嫌いだと思っている俺を好きだと言った。異能がなんだ、不幸がなんだと、俺の嫌いな部分を全部気にしないと言い切った。
その人は、俺の全てを受け入れてくれた。ずるくて、弱虫で、何にもできない俺を肯定して、居場所を与えてくれた。
その人といる時は、不思議と俺の異能は発動しなかった。誰かが不幸になる事も、俺が不幸になる事すらもなくて、ただただ何もなく穏やかな時間が流れていくだけ。
その人は、俺にとって心の支えだった。俺が泣いている時、いつも近くにいてくれる人。友達もきょうだいもいない俺の、兄貴分になってくれた人。俺を不幸から解き放ってくれる人。俺の、一番大切な人。
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アイネ 「幽綺」 |
離れたくない。
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アイネ 「幽綺!」 |
あなたがいないと、俺は
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アイネ 「──幽綺」 |
ただの、疫病神だから