『Stay tuned for the FOXNET RADIO coming up next!!』
『──続いてのおたよりはラジオネーム【たまも】さん』
『【くずこさん、こんばんは。】こんばんはーなのじゃー!』
『【ラジオ、いつも聴いています。
楽しそうだなと思いつつも時間が合わず、お便りを書くことはできていませんでした。
しかし丁度いい機会がありましたので、こうしてしたためます。】』
『【──沢山の出逢いがありました。
我らを狩らんとする女性がいました。
その眼光は怜悧。その切っ先はきっと、無慈悲。
妖の見えない血に濡れた、濡れるであろうあなた。
けれど斬らなかった、晴れた冬の陽だまりのようなあなた。
あの方はいままでずっと、あなたの様なヒトに出逢ってきたのでしょうか。
我らを知らんとする女性がいました。
その眼光は懦(よわ)く。その指先はきっと、無知。
見えない未来に、見えない世界にある何かを求めている、あなた。
けれど心の中に、あの方への疑いが渦を巻く、あなた。
我らは知っています。
我らを、未知を暴き滅ぼしたのは、その“知りたい”と願うこころ、そのものなのだと。
あの方の内側から、私はずっと見ていました。
うつくしい世界。
おだやかでやさしい日々。
おいしそうな、ヒトビト。
欲し、手に入れようとしたこともありました。あの方の身のうちに呪い石を仕込んで。
今やもうそのつもりはありません。あのおのこは、少々どころではなく勿体ない、ぜひぜひちょっぴりでも味見させてほしいと、今でも思ってこそおりますが。
あの方が私を窘め、制したのなら、私はそれに従う他にはない。
結局のところ、私はあの方にモノ申したいだけなのでしょう。
“あなたから、私から。最愛の君を奪ったヒト共。それを忘れてはいまいか”と。
あの虚ろの日々を。私は地虫と共に地の底を這い、あの方は否定されることすら許されず、伽藍の奥へと封じられた。
あれを、もう忘れてしまったのかと。
──ザザッ
いえ、いえ。
そんな筈はありません。あザザッ方がそれを忘れるなザザッり得ません。
狐の情念は、祟りザーッよりしっぺ返しなどより、よザッどよほど深いのザザーッ。
私を喰らザザッ晴ザーッ名を喰らザザー金狐も銀ザッ食らい、果ザーー迦のカミザザッザッらっザザーッ信太へぐい”様が。
ザザーーー様をザァーー明様を。あの方のザッを。ザーー念を。ザザッを。
忘れることなど、有り得ない。
■(ラジオノイズ。)
『Stay tuned for the FOXNET RADIO coming up next!!』
『──続いてのおたよりはラジオネーム【雪女】さん』
『【くずこさん、こんばんは。】こんばんはーなのじゃー!』
『【さる学校でのラジオ放送、いつも楽しく聴かせていただいています。
私はアンジニティの陣営ですが、向こうでは平凡な一生徒。
くずこさんのラジオをいつも楽しみに、ささやかな青春を過ごしています。】』
『【さて、今回お手紙を送ろうと思ったのは、ひとつ聞いていただきたい相談事があったからです。】』
『【というのも、私には恋人がいます。
イバラシティで出逢った男。記憶を捏造され、ずっと以前から知り合っている、“ということにされている”ヒト。
ここハザマに来て、あの方がイバラシティの陣営であることを知りました。
つまり、私と彼は敵同士。
互いに好きあった記憶も携えながら、殺し合わなければいけないようなのです。】』
『【……私は、彼のことが好きです。
今はまだ一人なのでよいですが、このまま彼と出くわしてしまったとしたら、私はどうしたらよいのでしょうか】』
『【幾人の男を、雪の中に閉ざしてきました。
ずっと、ずっとの昔から。
理由などわからないまま、ただ“私は雪女だから”と突き付けられる当たり前にしたがって、そうしてきました。
それが普通であったから、苦しむことも悩むこともなかったのです。
水を飲むように、息をするように、私はヒトを雪の中に閉ざしてきました。
百人、千人、そうしてきて。
妖退治にやってきた高名な僧に討たれ、私は否定の世界へと落とされました。】』
『【何も知らない私でした。
死ぬことの悲しみも、痛みも。
死を悼む人の心も。
死をもたらすものの恐ろしさも。
死をもたらすものへの憎しみも恨みも。
それらの全てを、イバラシティで“ただのヒト”として過ごした時間のうちに知ってしまった。
ハザマにやってきて、“雪女”の私は、それを知り、学んでしまった】』
『【雪に埋めたものらの、あの表情の本当の意味を。
死を見つめた者らの、恐怖と絶望を】』
『【あれを、彼に味あわせろと言うのでしょうか。私はそれをしてしまうのでしょうか】』
『【今はもう、“雪女”としてヒトを殺すことが当たり前ではなくなってしまいました。
イバラシティが教えてくれたから。私はもっと、もっともっと早くに知っておくべきだったことを、やっと知ったのです。
怖い。これから起きること何もかも。
くずこさん、私はどうしたらいいですか。
彼に何を話し、どう相対したらいいですか。
どうか、教えてください。おおいなる、狐のカミ。】とのことじゃ。【雪女】さん、ありがとー!』
『うむ。自らの業しか知らぬ妖が、ヒトとしてイバラシティで過ごす間に、ヒトの情を得てしまったのじゃな。
【雪女】さんや。さぞかし戸惑うこと多かろう。
ヒトの情でもって妖の業を為すのは、余りに酷なことじゃ。よく頑張ったな。
ゆえにこそ、ここで道を違えてはならぬ。そなたの答えなどとうに出ておるのじゃから』
『どうしたら良いか? 殺めることに痛みを感じるのなら、そなたは踏みとどまるべきじゃ。
此度の侵略うんぬんなど、知ったことではない。
何を話すか? 当然全てじゃ。総て話し、それでも共に在りたいと伝えよ』
『ヒトを知り、ヒトを愛して、ヒトと関わる。それを知ったそなたは、最早わしらの同朋。
全て話し、共に歩め。
未知を弑することがヒトの性なら、未知を受容することもまた、ヒトの性ゆえに。
そなたが真に怖れを越え、立ち向かうべき事柄。それは、総てを彼に打ち明けることじゃ。
そなたはまだ若かろう。わしらと違い、世の覇はなくともヒトに寄り添うことはできる。
頑張るのじゃ。ヒトの生は、妖の生ほど易しくはないぞ』
『それでもし、もし駄目になってしまったのなら……また、わしにおたよりをおくれ?』
『そなたからのお便りがもう来ないことを、心より願っておるぞ』
『おおっと、いつの間にかこんな時間になってしもうた!
今日の“今宵も朝まで寝tonight!”はここまで! 最後にお便り募集のおしらせじゃー!』
『当番組では、様々なお悩みを持った方からのお便りを募集しておるぞ! イバラシティ、アンジニティと、どんな方でも大歓迎!』
『“Cross Rose”のチャット機能にて、どしどし応募しておくれ! 私安倍葛子が、ゆるーくお答えするゆえな!』
『それでは皆、佳いハザマらいふを。 ではの!』
(荒廃した街中のスピーカーから。
Cross Roseの仮想回線から。テレパス系異能の通信パルスの中から。どこからともなく、ラジオが聞こえている。)