『Stay tuned for the FOXNET RADIO coming up next!!』
『──続いてのおたよりはラジオネーム【葛乃葉】さん』
『【くずこさん、こんばんは】こんばんは、なのじゃ!』
『【嬉しいこと、楽しいことがたくさんあり、誰かに自慢したくてたまらなくなってしまいました。
ご迷惑かもしれませんが、おたよりを書いたので聞いていただけると嬉しいです。】』
『うむ! なんでも自分に話しておくれな?』
『【──沢山の出逢いがありました。
何も知らぬままなのに、私の姿が人目に晒されぬよう護ってくださった方がいました。
嬉しかった。咄嗟のことで、年甲斐もなく恥じ入ってしまったけれど。
本当に、本当に、嬉しかった。
だからこそ不安になります。私はいつか、あの方の何かを。
少しでも、護らせてもらえるでしょうか。
迷っている方がいました。
言えばきっと、彼は謙遜するけれど。向こう見ずに傷つきながら、眩しいほどに未来に満ち溢れている、幼子。
私は後退(あとずさ)りなさいと言いました。いいえ、彼は前に進むでしょう。
男の子、ですから。
独りで歩く方がいました。
強くて、高らか。ヒトとは違うその容姿を、隠すことは無く。
気高く美しくて、私とは大違い。
けれど、あの景色を好いと笑うあどけない表情は。
きっとあの方なりの、私への信頼の情であったと思いたい。
狐の方の喫茶店や、躰の芯から暖まる銭湯で。
きらめくサーカスで。
ラジオへの素敵なおたよりで。
埋もれそうな本屋さんで。
暖かい香り漂うパン屋さんで。
美しい桜の並木道で。
珈琲の香りの中で。
縁ある社で。
時に置いて行かれた隠れ家で。
新たな住処で。
椿と雪の中で。
美しい学校で。
過ぎ去った出逢いはすべて、私を象る宝物になりました。
きっとこれからも、これらと同じくらい素晴らしい宝物が増えていく。そんな気がしています。
私は、あんなにも素敵なヒトびとの営みを、その行く末を幸あるものへと導きたい。
かつてヒトと世を争い、そして討ち負けて覇を明け渡したモノたち。その成れの果てとして。
未だなお残る妖しげが、ヒトの営みを脅かすようなことが無いようにしたい。
ただただ先人として見守り、そして消える。そういうものとして在りたい。
全ての妖、怪異、カミをそういうものへと導きたい。】』
『【ただ、私の宝物は。
その悲願を叶えるためには、余りにも眩しい。手放すには、余りにも心が引き裂かれ過ぎるのです。】』
『【葛乃葉】さん、おたよりありがとうなのじゃー!』
『……。』
『…………──わしは、』
■(ラジオノイズ。)
『Stay tuned for the FOXNET RADIO coming up next!!』
『──続いてのおたよりはラジオネーム【座敷童】さん』
『【くずこさん、こんばんは】こんばんは、なのじゃ!』
『【アンジニティの住民です。イバラシティにいる時からずっと、このラジオに投稿したいと思っていました。】なんと! アンジニティの方からのお便りじゃな。どれどれ……』
『【私はずっと、清らかな家や古き家に憑き、その家に繁栄をと願ってきました。
憑いた家には恩がありました。手厚く祀っていただいたり、故郷の山を守っていただいたり……。】』
『【必死だったように思います。憑いた家が栄えるのを見守るのは、本当にしあわせでした。
代が変わり、世が変わり。
故郷の山は均され、憑いた家は崩され、彼の日々は遠いまぼろし。
それでも、それでもとみずからに言い聞かせながら、幾百年。
嗚呼、ここはもはや故郷の水と空気ですらなく。
“否定の世界”などと、“いらない”ものが集まる世界などと。嗚呼。
いらないのなら。
初めから、あいしてほしくなど、無かったのに。
私は永きときと共にため込んだ煤と膿と埃と共に、ふかくふかくふかくふかく、ヒトを慕(のろ)っています。】』
『【
くず
こさん。何
故です
か? なぜ
私たちは、
忘れられなければ
ならないの
ですか?
共に
いきてはだめですか?
稚児ら
とおな
じく、
めでられては
いけま
せんか?
おおいなる、きつねの
カミ。
あなたは、にくく
はないのです
か。
ともに
呪っては、くれな
いのです
か。
くるしい。かなしい。】』
『【わたしの怨み言すら、きいてくれるというのなら。
こののどを焼く呪いを、噛み切ってほしい。】』
『とのことじゃ。【座敷童】さん、ありがとー!』
『【座敷童】さんは、ヒトが好きで好きでたまらないのじゃな。うんうん、わしも同じじゃ。わかるぞ?』
『運命変転系の能力はのー、手前勝手に使うとろくなことにならんから、あんまり連打せんほうがよいぞ?
取りあえずイバラシティにいる間、何処か清らかな場所でも探して洗い流すのが好かろうよ。そしたらほら、新しい出逢いとかあるじゃろ。たぶん。
今度は家ではなく、顔のいい男にでも憑いたらどうじゃ? ふふ!』
『おおっと、いつの間にかこんな時間になってしもうた!
今日の“今宵も朝まで寝tonight!”はここまで! 最後にお便り募集のおしらせじゃー!』
『当番組では、様々なお悩みを持った方からのお便りを募集しておるぞ! イバラシティ、アンジニティと、どんな方でも大歓迎!』
『“Cross Rose”のチャット機能にて、どしどし応募しておくれ! 私安倍葛子が、ゆるーくお答えするゆえな!』
『それでは皆、佳いハザマらいふを。 ではの!』
(何処からともなく、ラジオ放送が聞こえてくる。)